第3話
「あのさあ、意味ないって。」
「………。」
私は黙り込んでいる。何も言うことができない、だって、このまま未代を放っておくわけにはいかなかった。
それに、
「逃げるんじゃない、倒せばいい。」
「倒す?何を?」
「何、じゃない。誰、よ。」
「は?七子何言ってるの?」
「ごめん、教えてあげる。ねえ七子、私ね。おっさんと一緒にいるのはさ、楽しいからだよ?だってさ、みんなおかしいっていうけど、逆に私はこれをしていないと、楽しめないの。同じくらいの男の子と付き合ったこともあるの、でもね。それじゃダメだった。何をしても、こういう、別に好きでも何でもないおっさんなんだけど、多分。私は一番幸せになれている。」
こういう時、私はふと思う。
だって、未代の目は真っ暗で、見ているこちらがひりひりとさせられるほどだった。しかも、そのおっさんとやらが善意で未代と一緒にいるというのなら、こんな危ない状態の彼女を、もてあそぶようなことは決してしないはずだった。
だから、未代の言葉には返事はせず、とにかくひた走った。
「ねえ…。」
なるべく暗闇を選んだ。
麻薬と一緒だ、こいつは未代にとってはドラッグで、だからやめられない。ならば、消せばいい。私は、自分の考えを恐ろしいと思うことがよくある。が、いつもそれを客観的に眺めて、呟く自分がいることを、分かっていた。
「は?君誰?」
中年太りに、禿げあがった髪、何がいいのかは分からない。けれど、一見するとすごく優しそうには見えた。
しかし、問答など必要ない。
私は、男を殴った。
そして、約束をもらう。
絶対に未代に近づくな、と。
男は、呆然とした顔で、頷いた。
「……はあ。」
「元気ないね。」
「うん、あのさ。あの人、私が付き合っていた人、別れるって、言われた。」
「ああ、あのおっさん?いいじゃん、別に。好きじゃなかったんでしょ?」
「…何で?」
「え?」
「七子でしょ?あの人追い払ったの。」
「………違う。」
「いいよ、分かってるから。」
そう言って、未代は下を向いた。
私は、何も言えずに固まっていた。なぜ、未代は知っているのだろう。確かに、私は過去何度か、未代に近づく悪い男を、襲ったことがある。けれど、それは秘密裏に行われていて、バレることは無いハズ、だったんだ。
「あの人!私…ちゃんと好きだったから。職場の上司なの、すごく親切にしてくれて、私は優しい人が好きなの。同年代の男は怖いの。何考えてるか分からないの。だからどうしても昔から、おじさんばかり好きになっていた。それの何が悪いの?ねえ、七子。」
未代は泣いていた。
けれど私は何も答えることはできなかった。
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