第4話
緩やかにまどろんでいる。
猫は一生懸命伸びをしながら、私を見ずに去って行った。
ああ、嘘くさい。
全部が嘘くさかった。
けど、これは現実だった。
「秋ちゃん、久しぶり。」
「美貴?」
まさか、こんなところで出会うとは思わなかった。
美貴とは、ずっと会っていなかった。が、こうして再会してみると、なぜか妙な懐かしさに襲われた。
「一緒に暮らそう。」
だからそう提案したのは秋子の方だった。
だって、もうぐちゃぐちゃで、全部やめてしまいたかったのに、美貴に会ったら何か、もう全部どうでもよくなってしまった。学生の時のノリで、何かすべてが解決してしまうような、そんな感覚を覚えていた。
「てか、マジ?」
私達は、お茶を飲みながら話している。
もちろん、一緒に暮らしているこの部屋で。
「マジだよ。ヤバすぎる会社に入ってしまった。社長がさ、もの投げて怒りを表現する人で、若い女の子をいろんなところに連れて行くの、しかも、総合職なのに事務職として求人かけてて、女の子ばかりの応募を狙っているのね。で、私もまんまとはまって、で、この有様。馬鹿よね。」
「馬鹿じゃないけど、そこはやめてよかったと思う。なんか、ずっといなきゃっていう感じあるけど、いれる場所といれない場所、あるもん。」
「そうだね。」
美貴と話していると、全てが大丈夫なような気がしてくる。
これは、男の人と話している時などには無いものだった。
やっぱり、私はもう、無理をするのはやめることにした。
ただ単純に、物事を進めていけばいいのだと、決めた。
でさ、彼女たちはそうやってここにいるんだけど、あいつら、何?ドラマみたいなこと語って、馴染まないでポツンとしているけれど。
だってさ、話しかけに行っても、会釈だけだよ?今どきの子なの?でも、ここじゃそれは通用しない。
いい加減、出て行って欲しい。
「ゴンゴンゴン。」
結構強めの音が響き渡った。
私と美貴は二人で暮らす家で、洋服を作り販売している。二人だけのミニマムな生活だったら、それで十分だった。
「はあ、何?」
「何か怖いね。出ない?」
「出ない、いいよ。本当に大事なことだったら手紙とか来るでしょ。」
「そうだね。」
私達はいたって呑気だった。
多分、世の中を知らなかったのだ。
そして追い出された。
町の人に好かれていなかったらしい。ヤバい奴として踊らされていた。
そして、噂が充満し、外に出ることはできなくなっていた。
で、それで。
私は、ぼんやりとした顔のまま、目を閉じた。そして、美貴も一緒にそうしていた。
ダメなら、出ればいい。
その単純な発想が、私達を救った。
そして、二人でいればそれに伴う困難を、ちょっと旅行に行くような気軽さで乗り越えられることに、気付いてしまった。
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