第3話 役者紹介
素晴らしい舞台だ!入っただけでそう思わせる広々とした舞台。さすがは客席が三回席まである街で一番広い劇場だ。高級感のある赤い椅子が奥までズラッと並んでおり、柱や壁の装飾も息を呑むほど美しい。どれだけ金がかかっているのか、想像もできない。ここで今後劇をすることになると考えると緊張とともに、喜びが湧いて出てくる。何度も来たはずなのに、毎回驚かされてしまう迫力がそこにはあるのだ。その証拠に隣にいるプロちゃんも小声で「う、うわぁ。やっぱりすごいなぁ」って言っていた。
しかし、こんな劇場を見ているとやっぱりさっきの酔っ払いは夢幻のように思えてくるな。はたまた勘違いかも。きっとそうだ。そうに違いない。
「君たちが今日入ってくれた子だね。歓迎するよ」
俺が必死に記憶を改変しようとしていると、後ろからそう声がした。俺達はそれを聞き、驚いて後ろを振り向く。なぜなら声をかけてくれたのは、この劇団の現団長にして、最高の役者、俺がずっと推しているドラマツルギーさんだったからだ。
「ドラマツルギーさん!本物だ!」
「ド、ドラマツルギーさん?なんでここに?」
「なんでって、ここ私の劇団の劇場だからね?」
優しくの太い声色は、よく響く。普段は長身で赤色のタキシードを着たイケオジで、顎髭が生えてはいるもののさっき会ったマクガフィンさんと違い綺麗に手入れしてある。彼の優しい笑顔はこちらまで楽しくさせてくれるような、そんな暖かな表情で、本ッ当に!いつ見ても格好いい人だ。
そんなドラマツルギーさんの尊敬すべき凄いところは、どんな役にも為ることができる演技力だ。まるで人が変わったように演じわける。巨人と言ってもいいような男性から華奢で小柄な女性の役も演じる事ができるのは、異能と言う他ならない。そんな事ができるのは世界広しと言えども、ドラマツルギーさんくらいなものだろう。
「じゃあそうだな。君たち自己紹介をしてくれるかな?まだ私達は君達のことをよく知らないんだ。頼むよ。」
そう言ってドラマツルギーさんは舞台の真ん中に立ち、客席の方向を向いて声を放った。
「おーい皆んな集まってくれるか?新人君達が自己紹介するから」
「「「はーい」」」
色んなところから返事がしたと思えば、ゾロゾロ集まってくる。巨大な男や賢そうな女性まで、色んな人がいるが、キャラが濃さそうな人や変わった人が多そうなイメージだった。包帯グルグル男の俺が言えた話じゃないか。
「よし、皆んな集まったね。じゃあそっちの包帯君の方からどうぞ。私達は黙っているからさ。」
「はい!アウトサイダーと申します!よろしくお願いします!趣味は演劇を観に行くことと運動です!好きな食べ物は肉です!!!」
「おお、元気な子だね。よろしくアウトサイダー。じゃあ君もどうぞ?」
「は、はい。プロタゴニストです。よろしくおねがいします。えっと、、好きな食べ物はホタテです、、、?」
「よろしくプロタゴニスト。いい名前を付けてもらったね。」
「あ、ありがとうございます」
「皆んな覚えたかい?アウトサイダーとプロタゴニストだ!しっかり覚えてくれよ!分かったかい?!」
団長は大変そうだ。話を聞かない団員や興味が無い団員がいるのだろうか。おおかたあのドSイケメンだろうが。
「じゃあ改めて私から自己紹介させてもらうよ。私の名はドラマツルギー。ここの13代目団長を務めさせてもらってるよ。これからよろしくね。じゃあ次の人」
「おい、団長、俺の紹介は団長がやってくれ。俺は馴れ合いをしているほど暇がないからな。」
「おいおい仲良くしなよ。エピローグ。君の後輩になるんだから。」
「どうせ、俺の事は後で知るだろ。なんならそこのバカは面接であったしな。」
「あー、だからアウトサイダーがボロボロなのか毎回言ってるだろ?ああいう面接はやめてあげろって。」
「チッ、はいはい分かってるよ団長」
そう言ってドSクソヤロウは奥の方に帰っていった。ドラマツルギーさんに迷惑かけるなよ。先輩だからって容赦しないぞ!いや、まあ負けるだろうけどさ。妄想くらいいいじゃないか。考えるだけはタダなんだ。
「さっきのカッコいいお兄さんがエピローグ。アウトサイダーは面接であってるよね?ごめんね、エピローグは人見知りが激しいからさ。許してやってくれないかい?」
「人見知りって感じじゃなかったですけど、まあ、はい。」
「えっと、他には、このでっかい無口なオジサンがメガロ。メガロエルガレイオン。大道具を作ってくれているんだ。長いから皆んなメガロって呼んでいるよ。ほら、メガロ!新人君達になんか激励の言葉をかけてあげて!」
「、、、、、」
「ほらね?無口だろ?」
「そ、そうですね、、、」
「で、隣の小さい女の子がミクロ。ミクロエルガレイオン。メガロの弟子で、大体小道具を作ってくれてるんだ。こっちはミクロって呼ばれてるよ。」
「小さくねーわ。」
「ごめんごめん。小柄が正解だったね。」
「小柄じゃねーよ。142センチのどこが小柄だ?ぶっ飛ばすぞ?」
「いや、うん。ミクロは背も器も大きいなあ」
「フヘヘ、そうか?ウチの背が大きい?よく分かってんじゃん、、、」
「面倒くせぇ…」
「あ?なんか言ったか?包帯チビが!」
「いえ!なにも!」
「、、、えっと次が、この爽やかイケメンがプロローグ。役者をやってて、エピローグのお兄ちゃんだよ。」
「これからよろしくね!(キラキラ)」
「えっ、これがあのドSのお兄さんですか?」
「し、信じられない、、、」
「本当にごめんよ。あいつには、後で強く言っておくからね!(キラキラ)」
「いや真面目だ。どうしてこんなできた人の弟があんなヤバい奴になるんだろう。」
「く、口に出てるよ!」
「次がここにいる人で最後かな?この賢そうで綺麗な女性がスキノセシア。主に音響や照明といった演出を担当してくれる仲間だよ」
「あんまり役者はやらないけど、宜しくね」
「よろしくおねがいします!」
「よ、よろしくおねがいします」
「あと、セナリオとマクガフィンが今どっかで仕事してると思うから見つけたら声をかけてあげてね。」
「仕事?あれが、仕事ですか?」
「お、アウトサイダー、マクガフィンにあったのかい?」
「はい」
「ああ見えてもマクガフィンが仕事するときは凄いんだぞ?また見ることになると思うから、そん時参考にするといいよ」
「ええ?以外ですね。」
「そうだろ?私もそう思う。普段と全然違うからね。彼はすごいんだから、もう少し真面目になればいいと思うんだがねぇ。まあ言っても詮無き事か。じゃあ自己紹介も終わった事だし、発声練習に入ろうか。次のシーンの台本がまだ届いてないしね。」
「「「はい!」」」
「皆んなやっておいてくれ!私はセナリオを探してくるから。あと、エピローグ。来てくれないか?相談があるんだ。」
「ああ了解、団長。」
発声練習は俺が普段からやってたものより、かなりしんどい。それをプロローグさんや、演出だと言われていたスキノセシアさんは軽々とこなしていた。俺も頑張らないとな。ただルームランナーでの体力作りは、いるか?いるんだろうなぁ。朝の面接の怪我を抜いても、しんどいって。プロちゃん死にそうだったって。
でも、ここに入ってよかったとも思った。いい人が多いし、優しかった。ここでなら楽しくやりがいを持って、演技をする事ができそうだ。
俺はいつか来るだろう自分が出る舞台を想像し、期待で胸を膨らませていた。
「なあエピローグ、あの2人は表か裏。どっちに適正があると考えているんだい?」
「そうだな、団長。間違いなくプロタゴニストの方は、表だろうな。見るからに気弱だしな。ただアウトサイダーのバカは裏でいいと思う。あいつ俺の面接通って来やがったしな。」
「そうか。いじめてやるなよ?」
「ああ、分かってるよ」
舞台裏の暗闇で、彼らは不敵な笑みを浮かべていた。
アウトは一体何に巻き込まれてしまうのだろう。
彼は、そんな事とはつゆ知らず、ニコニコしていたのだった。
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