第2話

暗い画面から女の子の声が響いている。


『ぬ!?やん!やん!』

『やんやんやん!』


視界が開ける。

白く綺麗な顔立ちの女が映る。






謎の女に揺り起こされる香奈美。


香奈美

「ん?何?戻った……?」

謎の女

「ぬ!?やん!やん!」

香奈美

「……え?」


謎の女、いきなり手拍子を一回打つ。

綺麗に響き渡る音。


謎の女

「ねぇ!貴方もしかして生き残りなの!?」

香奈美

「え?」

謎の女

「ここの人でしょ?」

香奈美

「多分……。」

謎の女

「そっか!そーなんだ!」


謎の女、香奈美に握手を求める。

香奈美、訳も分からず握手に応じる。


謎の女に腕をブンブン振り回される香奈美。

引き剥がそうと抵抗するが、謎の女の腕力に負ける。


香奈美

「ちょっと待って!」

謎の女

「ん?」

香奈美

「痛いから!」

謎の女

「あ、ごめん。」


謎の女、急に手を離す。

軽くよろける香奈美。


謎の女、香奈美の足を見る。

慌てて香奈美に手を翳す。

全身の力が抜ける香奈美。

ゆっくりと目を閉じる。


香奈美

「貴方……。もしかして宇宙人!?」

謎の女

「貴方こそ宇宙人でしょ?」

香奈美

「ん?」

謎の女

「私から見たら貴方が宇宙人だもの。」

香奈美

「なるほど……?」

謎の女

「宜しくね!宇宙人っ!」


謎の女、香奈美の肩を叩く。

香奈美、あまりの痛さに蹴りが出る。

華麗に避ける謎の女。

足をブンブン動かしてみる香奈美。


香奈美

「……平気だ。」

謎の女

「あぁ、治しといたよん♪」


ポカンと口を開ける香奈美。

謎の女、不思議そうに香奈美を眺めている。

暫くの沈黙。

香奈美、我に返る。


香奈美

「私、香奈美。貴方は?」

謎の女

「……何の事?」

香奈美

「貴方の名前は?」

謎の女

「ない!」

香奈美

「え?」

謎の女

「ない!」

香奈美

「ない……さん?」

謎の女

「存在しないよ、名前なんて。」



香奈美

「冗談キツいよ。」

謎の女

「至って真面目。」


香奈美、一呼吸する。


香奈美

「貴方の星?では、どうやって個人を認識してるの?」

謎の女

「住所だね。」

香奈美

「……田舎かよ。」

謎の女

「田舎?嫌だなぁ、住んでる所は都会だよ?」

香奈美

「……いや、なんでもない。」

謎の女

「私の住所はね〜。サラヘタキャニノスマハレ、アハハラ……」

香奈美

「長いなぁ!」

謎の女

「私は貴方の方が短いと思う。ダブっちゃうじゃん。」

香奈美

「まぁ、同じ名前は星の数ほど居るけど……。」


謎の女、ひっくり返る。


香奈美

「ここは地球なんだから、地球の習わしで。」

謎の女

「……そうだね。」


謎の女、何か考え込んでいる。

香奈美、様子を伺う。


謎の女

「どうすれば良い?」

香奈美

「……。」

謎の女

「宇宙人Aと宇宙人Bにしよう。」

香奈美

「私は香奈美だから。」

謎の女

「……。」

香奈美

「好きな呼び名とか無いの?」

謎の女

「そんなの気にした事ない。」

香奈美

「そっか。」

謎の女

「あ。じゃあ、私も香奈美で。」

香奈美

「……いやいや。」

謎の女

「カブっても気にしないのが習わしなんでしょ?」

香奈美

「……ちょっと違うかな。」

謎の女

「そうなの?」

香奈美

「生まれた時に貰う最初のプレゼント、と言うか、何と言うか……。」


香奈美、恥ずかしそうに下を向く。


謎の女

「……ちゃんと考えなきゃなのか。」


謎の女、暫く考え込む。


謎の女

「あー!分かんないよぉ!」

香奈美

「好きな物とか事とか無いの?」

謎の女

「……旅行、かなぁ?」

香奈美

「なるほど。」


香奈美、少し考える。


香奈美

「じゃあ ”レイス” なんてどう?」

謎の女

「レイス?」

香奈美

「オランダ語で旅、スコットランドでは幽霊って意味。」

謎の女

「私、幽霊じゃないよ?」

香奈美

「私にとっては未知過ぎるもん、幽霊と変わらないよ。」

謎の女

「そうなの?」

香奈美

「嫌なら他の考えるから、ちょっと待ってて……。」

謎の女

「嫌じゃないよ。」

香奈美

「そう?」

謎の女

「可愛いと思う!」


香奈美、外の景色を見る。

レイス、ニコッと笑う。


レイス

「名前、呼んで!」

香奈美

「……。」

レイス

「呼んでよぉ、香奈美のプレゼントなんだからぁー。」

香奈美

「レ……レイス?」

レイス

「なあに?」


暫くの沈黙

段々と赤らんでいく空。


香奈美

「……どうして地球に来たの?」

レイス

「いやぁね、ちょっとドジっちゃってさ。」

香奈美

「?」

レイス

「不時着しちゃった。」

香奈美

「本当は違う星に?」

レイス

「当たり前じゃん!」

香奈美

「……当たり前なんだ。」

レイス

「誰もこんな僻地に来ないよ。通信も出来ないし。」

香奈美

「……僻地なんだ。」

レイス

「僻地中の僻地。緊急無線すら届かない程に僻地。」

香奈美

「……へぇ。」

レイス

「まさか生命が居るとはねー。」

香奈美

「……。」

レイス

「不時着の操作間違えて文明壊しちゃったみたいなんだよね〜。

香奈美みたいな生命体って他にも居るの?」

香奈美

「分かんない。今の所は見当たらないけど……。」

レイス

「やっぱそうだよね〜。全部探してやっとだもん。」

香奈美

「探す?」

レイス

「この星中を探し回ったけど、香奈美しか見付けられなかった。」

香奈美

「……。」


レイス、困った顔をする。

涼やかな風が吹き抜ける。


香奈美

「これ、、元に戻せないの?」

レイス

「創造物は戻せるけど、生命体はなぁ〜。」

香奈美

「……。」

レイス

「でも安心して!香奈美を増やす事は出来るから!」

香奈美

「え?」

レイス 

「香奈美のコピー。」

香奈美

「それは要らない。」

レイス

「そっかぁ。」

香奈美

「自分が増えたら気持ち悪くない?」

レイス

「いや、特には。」

香奈美

「……マジか。」

レイス

「取り敢えず、何か色々戻しとく?」

香奈美

「……建物が戻ってもなぁ。」

レイス

「そういうもん?」

香奈美

「……。」


暫くの沈黙

赤色から黒く染まる景色。


レイス

「あのさぁ、」

香奈美 

「うん?」

レイス

「また明日も来て良い?」

香奈美

「……良いけど。」

レイス

「良かったぁ♪車直すまで暇だったんよ〜。」

香奈美

「……うん。」


可愛らしい笑顔のレイス。

香奈美、少し照れ臭くなり俯く。


顔をあげる香奈美。

もうレイスの姿は無い。


空を見上げている香奈美。

段々と柔らかな笑顔になる。

暫くの沈黙。


星空を見ていた香奈美、急に真顔になる。

正面に向き直り、身震いする。

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