第5話

マンションの一室

男がベッドで寝ている。

奥で微かにドライヤーの音がする。


電話が鳴る。

男、寝ながら電話を手に取る。


画面には「ご町内さん」の文字。

男、無視する。

鳴り止まない電話。

仕方なく出る男。










女の部屋

電話を持ちながら呆然としている女。

電話口から男の声が聞こえる。


「ん? 町内会長さんからだったー。」


奥からふわっと女の声がする。


「じゃあ切りますね? さようなら。」


虚しく響く話中音。


女、隣に座っている星を見る。


「恋人、ないないした?」

「ううん。」

「私の、」

「ほし、恋人、愛し合ってる人と思った。」

「うん……。」

「それだけ。」

「……。」

「ちがう?」

「合ってるよ。」


星、にっこり笑う。

女、にっこり笑う。


「ほし、大事な人、よく分かんなかった。」

「え?」

「恋人、盗む人、大事な人?」

「……。」

「ほし、まちがった?」

「……いや。」

「戻す?」

「大丈夫、ありがとう……。」

「ほし、どう?」


手を差し出す星。

女、力の限り握る。

顔が赤くなる女。


「……硬っ。」

「カチカチ?」

「うん。」

「やったぁ! 願い、出来た!」

「……。」

「ほし、帰れる!」

「……おめでとう。」


女、乾いた拍手をする。


「投げて、投げて!」


るんるんで待っている星。

訳の分からない女。


「ほし、ふぉん!って飛ぶ。」


星、ブーメランを飛ばす動きをする。

女、星をブーメランの様に持つ。


「こう?」

「そう。」

「行くよ?」


女、ベランダから星を思い切り投げ飛ばす。

星、弧を描いて飛んでいく。


夕空を見上げる女。

暫くの沈黙。

女、首を傾げながら部屋に入る。

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