魔王城 〜リヤン・ハイムーンの場合②
魔王城と聞いて規格外の化け物が出てきたり、とんでもない罠が張り巡らされていたりなど、ありとあらゆる作戦を考えた。禍々しい雰囲気を持っていたらそう思うだろう。
だが、予想の斜め上というか、想像以上のことが起こっており正直戸惑っている。いや、むしろ怖い。
「なぁ、誰もいなくないか?」
「やっぱり、カズーキもそう思うか? あまりも静かすぎるよな」
「あぁ。まるで、誰もここに住んでいないような……あ、スィース、お前どこに行ってたんだよ」
城の中に入ったのはいいものの、早速スィースの姿が見えなくなってしまったのだ。さすがに焦った俺らは急いで探し回ったのだが、見るからに広いこの城の中で見つかるはずもなく。とりあえず歩いてみるか、ということで二人揃って見回っていた。
「あ、やっと見つけた! お前ら、本当迷子になるのが好きだよなぁー」
「いや、お前が勝手に……落ち着け、リヤン。その杖を下ろせ。お前の気持ちは十分分かるから、な?」
「うるせぇ! 今日こそはぜってぇ許せねぇ! お前がいつもいつもいつもいつも問題を持ってくるからなぁ!」
耳が痛くなるほどの静けさの中で、俺の叫び声と「ごめん、ごめんって!」と必死に謝るスィースの声が響いている。ガシャガシャと鎧が互いにぶつかり合っている音も混ざり合って、ここだけ祭りのように騒がしい。
こんなにも響いていたらどんなに鈍い魔物も気づいていそうなものだが、誰も来る気配はない。この城、どこかおかしい。いや、それよりも俺の目の前で土下座してるこいつを一発殴ってからじゃないと俺は魔王を倒せない。
「で、でもさ! 俺、魔王がいそうな部屋見つけたぜ! こっちこっち!」
額を地面に擦り付けていたスィースはガバッと顔をあげた。嬉しそうに報告している姿を見ると、少しだけ溜飲が下がった。おでこに付けたタイルの跡は後で言ってやろう。今伝えるのは何か癪だ。
バタバタと走って行ったのを仕方なくカズーキと一緒について行く。変わらず響く足音。ここまで静かなら、魔王もいない可能性が高い。そうなると、一から探さないといけない。面倒だが仕方ないだろう。
「ほら、ここ! 絶対ここにいるって!」
「うわぁ……いかにもって感じだな」
目の前に現れた扉はこの城のどこよりも魔力を感じ、俺たちの何倍もの大きさ。どんだけでかいんだよ、魔王様。まぁでもいると決まったわけではないし、こいつが突撃しなければいいだけの話。少しくらいは作戦を立てた方が良いだろう。
「じゃあ、スィース。お前は一旦大人しくして……」
「やい、魔王! お前を倒しに来たぞ! 観念しろ!」
「あーあ。俺、知らねぇ」
こめかみがピキッと音を立てた。バンッとあの大きな大きな扉を勢いよく開けたスィース。迷いなく走って行く姿と、隣で視線を逸らしているカズーキ。これ、俺の中の血管が切れた音だ。むしろ、それ以外に何があるのか教えて欲しい。「おい、お前なぁ!」と声を荒げた時。
「お前を倒しやるぅー……うわああああああああああ」
一瞬、誰の声かと思った。とっくの昔に通り越した怒りが一気に急降下し、何があったのかと開きっぱなしになっている中へと飛び込んだ。
同じようにカズーキも剣の柄の部分を持ち中へ入ると、部屋の奥の奥の方にドンっと大きな椅子が一つ。しかし、あの突っ走った勇者がどこにもいない。
「今の声、スィースだよな?」
「あぁ。でも、どこにいるんだ?」
同じように杖を構えて誰もいないことを確認すると、部屋のどこかへ消えてしまったやつを探す。まだ油断ならないのか、カズーキは鞘から剣を抜き出してすぐにでも攻撃できるように身構えた。
もしかして、何か罠にかかったのだろうか。魔王城と言われるのだから十分有り得る。ここから移動しようとカズーキに提案しようとした。
「……あんたたち、何しに来たんだい?」
ドスの効いた声が自分の耳の中に入り、足の先から頭のてっぺんまで鳥肌が立った。
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