魔王城 〜リヤン・ハイムーンの場合①〜

「ここが、魔王城……!」


「ついに来たな」


「これから魔王と戦うのかぁ。勝てる気がしねぇよ、俺」


「何を弱音吐いているんだ! 俺らなら勝てるって!」


な、と笑顔を向けてくる勇者もといスィース。一体、どこからその自信が湧いて出てくるんだ。確かに今までの冒険の中で様々な困難を乗り越えてきた。厳しくも学びの多い旅だったと実感している。


何度も壁にぶつかっては乗り越えてきたのだから、その分自信がつくのは問題ないだろう。だが、目の前に見える禍々しい雰囲気を醸し出している城を見ると、お腹の下辺りがキュウっと痛くなる。あいたたた。


「で、どうするんだ? ここまで来る途中、魔物っぽい魔物がいなかったんだけど。これ、本当に魔王城で合ってる?」


「合ってるって! 俺、ちゃんと地図確認したもん! ほら、これに書いてある!」


ゴソゴソとポケットから出してきたのは、くっしゃくしゃになった地図らしきもの。シワだらけの地図から何とか読み取れるのは、赤い丸で囲った場所。


まさか、ここが魔王城だとは言わないよな。こんなにも分かりやすい目印をつけていたら落とした時に大変なことになるじゃないか。


「この赤い丸が今いるところ!」


「おっまえ、マジかよ……」


「あ、リヤンが突っ込むのを諦めた」


「え、俺何かした?」


「もういいよ……俺は何も言わないからさ……」


馬鹿だ馬鹿だとは言っていたが、まさかここまでとは。いや、よく考えてみろ。いつだってこいつの行動は一直線だったじゃないか。そんなこいつが一生懸命に考えた結果がこれだったのだ。


それに、落とさなければ問題はないはず。そうだ、落としてないのだから。


「まぁ分かりやすいようにってお父様がつけてくれた目印だし! さっすがお父様だよな!」


「うわマジか。どうする、リヤン」


「どうするも何も、ここに来るまで情報が漏れなかったことを願おう」


後から後から出てくる情報に頭よりも先にお腹をさすった。反射的と言うか、これからもっと大変なことが起こるような気がしてならない。


はぁ、と再度ため息をつくと「早く行こうぜ!」とピクニックにでも行く子供かのようにはしゃいでいるスィース。緊張感はどこへ置いてきたんだよ、一体。


嫌々ながらも城の敷地内へと入る。入ったら分かる。俺は、とんでもないところに来てしまった。城のあちこちから魔力を感じ取ることができる。それも、その辺にいる魔物とは比較にならないもの。魔力の塊のような、腹の底に響くのを感じ取った。


「よし、油断するなよ。いきなり出てくるかもしれないからな。特にスィース、お前は絶対に飛び出して行かな……」


「たーのもー!」


「うわ、マジで行きやがった」


あぁ、無常。なぜいとも簡単に俺の話を聞かずに進んでいくんだ。


全国のお父さんお母さん。子育てって、本当に大変ですね。成人したいい大人でこれですから、子供の時の行動力なんて計り知れないでしょう。心の底から尊敬します。というか、こんなこと前も言ったような。どちらにせよ、後に引けない状況になったことだけは分かる。


「俺らも進むか……」


「まぁ、その、なんだ。大変だな、お前も」


他人事のように話しているけれど、アレに巻き込まれているのはお前もだからな。カズーキは俺の肩にポンッと手を置いて突っ切って行ったスィースを追いかけた。


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