旅の途中② 〜カズーキ・ユエンの場合③〜
疑い始めたら考えが止まらなかった。
まぁ、俺自身も疑い深いから仕方ないのだろうけど。逆に言えばスィースは警戒心がなさすぎる。何であそこまで他人に対して心を開いていられるのだろうか。長年一緒にいても解決できない七不思議のようなものかもしれない。
一人で考えていると到着したようで、「こちらへどうぞ」と案内された。小さな村とは言え村長という立場だからなのか、なかなか立派なお屋敷に住んでいるようだ。
貴族に比べたら小屋のように見えるが、先ほど見えた民家の中では一番大きい。きっと地主でもあるのだろうと辺りを見渡した。
「あの畑か? 荒らされたのは」
「えぇ。日が暮れるとここら辺は真っ暗になります。いくつかの家の明かりが見えるだけで、ほとんど見えません。それを狙って来ているのでしょう」
腹立たしい限りです、と付け足したシーバはじっと畑を睨んでいた。目に入った畑はいくつもあるのだが、その中でも少し様子のおかしい箇所があった。何かを直したような跡がいくつもあり、不自然な畑。案の定例の荒らされている畑だったのだが。
「でも、そんなに派手に荒らされていないのですね」
「そ、そんなことはありません! 私たちにとっては大切な食糧であり、商品です。それを無断で盗むことのどこが!」
「そ、それは申し訳ございません。確かに、大変でしたね」
リヤンの言葉に激昂したシーバ。即座に謝罪をしている姿を見て視線を合わせないようにスッと逸らした。こっちにまで怒りが飛んできてほしくない。俺からしたら逆ギレしているようにも見えるが、二人は何も言うことなく話題を変えて話し始めた。
機嫌が良くなってきたシーバは俺たちの馬を使用人だという男性に任せて、中へと案内した。入った瞬間に目を細める。眩しいほどのシャンデリアに大理石の床。外見とは違って中身はかなり凝っているようだ。まぁ、こいつの部屋には劣るけど。
「これは、コレクションでしょうか?」
「そうです。時々、王都に訪れて買ってくるのです。これとか、この前退治した魔物の角で作られた飾りです」
「魔物?」
「はい。ここら辺で悪さをしていた小さな魔物の子供から削り取りました。いやぁ、泣きながら命乞いをする姿は傑作でしたよ」
ははは、と豪快に笑っていた。こいつ、イカれてるな。確かに魔物は悪さをして困らせるが、子供にまで手を出しているとは。胸糞悪い話を聞いてしまったと思い、「部屋はどこだ」と必死で怒りを抑えた。
「二階でございます。先ほどの者に案内させますので、少々お待ちいただいても?」
「分かった」
「それでは、少し失礼して」
一言残して去って行くのを最後まで見届け、「うっぜぇ」と小さく呟いた。
「おい、聞こえていたらどうするんだ」
「構やしないさ。魔物とは言え、小さな子供に対して残虐なことができるやつだ。クソ野郎には間違いねぇよ」
「それはそうだけどな。って、おい、スィース?」
リヤンに嗜められたのだが、俺は悪くないと断言できるね。先ほどの荒らされた畑と言い、このコレクションの数と言い、おかしいところしかない。ど田舎と言っても過言ではないこの地域では、こいつが一番偉いのだろう。
だからこそ、変なことをしても周りは口を出せずにいる。なんとなくだが、想像ができた。
「あ、すまんすまん。何かあった?」
「いや、何かってお前、話聞いてなかったのか?」
「聞いてたよ。魔物の子供から角を削った話だろ? あれ、生きたままだったんだろうな」
「は? いやいやいや、そんなわけ」
「だって、泣きながら命乞いしたんだろ? 殺したとは、言ってないじゃないか」
「そ、れは、そうだけど」
自慢げに話していた角の飾りをじっと見つめるスィース。あくまで冷静に見ているようで、感情的になりつつある俺とリヤンとは正反対だ。こんな時、ゴッド・アーシの面影がチラつく。
静かに傍観しているようにも見えるが、あくまでも他人。はっきりとその線を引いているので、これ以上俺たちは何も言えなかった。
「ただ……様子がおかしいのは、確かだろうなぁ」
「え?」
「あの人、ちょっとおかしかったよな。なんか、魔物にキレているように見えるけど、どこか違うところを見ているような気がするんだよ」
「何だそれ。あいつがこの前の貴族のように何か隠しているってことか?」
「うーん、それとはちょっと違うような……」
何かを思い出そうとしているスィースはウロウロとあっちにこっちへ歩いている。こいつが違和感あると言うのなら、あのシーバと言う男は何か俺らに隠し事をしているのだろう。まぁ、それが何かは分からないのだが。
「早く思い出せよ!」と急かすリヤン。しかし、急かせば急かすほど忘れてしまうのがこいつだ。そこについてはあまり追及しない方がいいけどな、と思いながら再度コレクションたちを見つめていた。
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