旅の途中② 〜カズーキ・ユエンの場合①〜

「……おい、スィース」


「んー? なぁにぃー?」


「お前、良かったな。チーナ様がお前に会いたがっているってよ」


「え! 本当?」


「あぁ、ここにそう書いてある。良かったな」


「嬉しいなぁ! チーナ、寂しがっているのかぁ!」


まぁ、半分嘘で半分本当だけどな。


目の前で喜んでいる金髪野郎こと、勇者スィース様は踊りださんばかりにニッコニコだ。馬に乗っている状態の今では叶わないのだが、そのまま大人しくしていて欲しいのが本音だ。


それにしても、あれだけ暴れ馬に拒否されていたのにいつの間にか慣れてやがる。なんと言うか、人よりも動物に好かれやすいところがあるんだよな、こいつ。実質、人間ってよりも動物っぽいからあながち間違ってはないかもな。


「あ、俺の手紙届いてた?」


「みたいだな。お前、何書いたの?」


「え? オークを見て『チーナに似てる!』って言っていたからチクった」


「リヤン、お前……この前夕飯横取りされたの怒っているよな?」


「当たり前じゃないか。ほら、行くぞ」


さらっと認めた彼は爽やかな笑顔でスィースに話しかけに行った。本当、あいつだけは敵に回したくないよな。幼馴染として十何年も一緒にいるが、あいつが感情むき出しにして怒鳴ることは時々見かける。


だが、それは大して怒っていないのだ。


心の底から苛立ちを感じている時は、こっそりとダメージを与えにくる。一度だけ、たった一度だけ俺もやられた。あれは本当に怖かった。自分の幼馴染を侮っていたと言ったらそれだけなのだが、本当に怖かった。一瞬にして全身から血の気が引いたよ。


「それで、もうそろそろ魔王城に辿り着くみたいだけど、今日はどうするんだ?」


「そうだなぁ。ここら辺に村があるって言ってたような。そこに泊まってから考えようぜ」


リーダーであり勇者であるこいつもなんだかんだで慣れてきたようだ。確かに何度も野宿をしたり金目のものを盗まれそうになったのだが、どうにかこうにか生きてこれた。


食糧がなくなりかけた時にはさすがに怒鳴りつけようかと思ったが。彼なりに成長しているのだろう。感慨深いなんて思わない、思いたくもない。


馬に揺られながら進んでいくと、民家がいくつかある村らしきものが見えてきた。一本道を進んできた俺らからすると、こんな所に住んでいるのかと思うくらい田舎な場所。周りは山に囲まれているようで、ひっそりと暮らしているようにも見える。


「お、民家あるじゃん! 今日はここで休もうぜ!」


「別にいいが、こんな所に村なんてあったか?」


「さぁ? 俺らが知らないだけだよ、きっと」


「そうかなぁ。それに、民家しかなさそうだぞ?」


「聞いてみようぜ!」


パンっとムチの音がした後、甲高く馬が鳴いてそのまま走って行った。相変わらず、こうと決めたら一直線だ。リヤンの止める言葉を一切聞くことなく進んでいく姿は、やはりゴット・アーシを彷彿させる。親が親なら息子も息子ということだろうか。まぁ、あの人みたいに冷酷無比なことはしないからいいのだが。


ぷりぷり文句を言いながら俺の横で揺られているリヤン。俺は俺で他人のふりをしてひたすらに馬を歩かせている。数ヶ月間一緒に旅しているこいつとはだいぶ仲良くなってきた。


そのせいか、意思疎通も簡単にできる。今も俺が行きたくないと分かっているようで、心なしかゆっくり歩いているような。馬って、本当に賢いよな。



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