報告書 〜アーシ・ペティットの場合④〜

「それはいいとして、スィース。請求書が何枚か届いたのだが、これはどう言うことだろうか。前回の貴族の件といい、少々暴れすぎではないだろうか」


『それに関しては私からご説明いたします』


「おお、リヤンくんか。君も元気そうで何よりだ。で、説明とは?」


『今回送らせていただいた請求書は、正式に認められている法律の一つでございます。先代が考案なさった素晴らしい法律の一部に書かれておりました。もちろん私共々、被害は最小限に抑えてでの金額ですので何卒ご容赦ください』


「そうかそうか、そうだったのか」


リヤンくんが言うのだから間違いはないだろう。彼はかなり優秀な家系に生まれ、その中でも飛び抜けて才能が開花したと聞いた。同じように通っていたこの馬鹿息子の結果を見てもなお仲良くしてくれた数少ない友人だ。


同じく幼少期から友人であるカズーキくんも信頼はしているのだが、如何せん庶民の出なので正直そこまで一緒にいて欲しくない。今では騎士団長に選ばれるほどの実力を持っているからいいのだが。


「それじゃあ、任務もそこそこに体調を崩すことがないように気を付けるのだぞ」


『ありがたきお言葉。スィース様のために全力を尽くさせていただきます』


頭を下げている姿を見て、体の中に渦巻いていた真っ黒なものが消えていく感覚がした。これほどまでに私を敬ってくれる人間もなかなかいない。大臣は皆、任命された時に私に誓いを立てていたので敬うことなんて当たり前だ。


だからこそ、嬉しさが倍増するのだろう。うんうんと何回も頷き、頬が緩んだ。


「スィースもカズーキくんも気を付けるんだぞ」


『もちろんです、お父様!』


『ご心配いただき、ありがとうございます』


「では、また良い報告を楽しみにしている」


ぷつっと消えた映像は消え、魔法石の中には私の顔が映し出されていた。火山が噴火するような怒りは消えてなくなったから、よしとしよう。にんまりと上がり切った口角のまま、「片付けてくれ」と指示をして再度手紙を手に取った。


このくらいの請求書くらい、どうにかなるだろう。以前も似たような状況になった時、大臣たちが対処してくれた。あちこち走り回っていたと聞いていたのだが、あれくらいどうってことはないだろう。


そういえばあの時、あいつにも色々と言われたような。「やめてください」などと言って私を止めようとしていたのだが、どうも癪に触るやつだった。


「消して正解だったな」


「……? アーシ様、今何かおっしゃいましたか?」


「いや、何でもない。後片付けは頼んだぞ。そのフルーツも捨てておいてくれ。臭くてたまらん」


「しかし、これはスィース様からの贈り物で……」


「構わん。どうせあいつにはバレないからな」


しっしっと犬を手で追い払うようにして下げさせた。なぜか申し訳なさそうな顔をした従者たちが回収して、そのまま出て行った。


こんなもの食べても食べてなくても分からないだろう。形に残るものをもらった時は困ったのだが、息子も何も言わなかった。


私がすることは、全て正しいのだからな。





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