報告書 〜アーシ・ペティットの場合③〜
「どうやら、魔物を倒している最中にいくつもの民家や国家遺産に相当する建物を壊しているようでして……」
「……は?」
「その度にご連絡はきていたのですが、具体的な請求金額が来たのは今回が初めてなのです」
サラサラサラと砂のように崩れた。いや、一歩手前で止まることはできた。正直、砂になった方がどれだけマシだろうかとは思ったのだが。何とか自分自身を奮い立たせているものの、こいつが言った言葉が頭から離れない。
聞き返そうにも事実を受け入れなければならない気がして聞き返せないのだ。
「そ、そんなわけがないだろう? こんな金額、どうしろと」
「紛れもない事実でございます。それと、先ほどからスィース様より魔法石での通話を申し込まれていますが、どうされますか?」
「そんなもの、さっさと繋げればいいだろう!」
「か、かしこまりました!」
私の叫び声にビクッと肩を震わせて足をどうにかして動かし去って行った。おかしい。どうしてこんなにも悪いことが続くのだ。私が一体何をしたのかと言うのか。手に持っていた紙をバサっと机の上に置き、はぁーと息を吐いた。これ以上吐きたいが、これ以上はさすがに胃液が出てきそうなのでやめておこう。
バタバタと走っている音が聞こえてきたかと思うと、一瞬音が止みノックが二回聞こえた。
「スィース様、ご準備できました」
「入れ」
失礼致します、と声と共に二人の従者が中へと入ってきた。彼らが二人して持ってきたのは魔力が込められている魔法石。これを加工し遠く離れた人間と会話ができるという代物だ。こんな便利なものが存在すると思わず、知った時にはかなり驚いたものだ。
「早く繋げ!」
「かしこまりました」
慌てていた従者とは違い、もう一人のこいつは冷静に対処をしている。準備をしている間ずっとコツコツと指を机に叩いていたのだが、どうしてこうなったのかと考えれば考えるほど腹立たしくなってくる。
加工された魔法石を乗せた台の装飾がギラギラと輝いているのを見て落ち着いてきた。
『あ、お父様! お元気していましたか!』
不穏な空気のこの部屋の中で文字通り空気を読まない愚息の声が響いた。
「あぁ、そうだな。たった今元気ではなくなったところだ」
『何かあったのですか! 僕が力になりますよ!』
何を言っているのだ、こいつは。ここ数年で魔王の力が絶大になってきていると聞いていたからこいつに退治するように頼んだと言うのに。力になると言ってくるやつが原因だなんて、ここにいる人間全員は理解しているだろう。
こほん、と咳を一つして「そうだな」と取り乱さないように深呼吸をした。
「それよりもこの請求書の山はどうしたのだ」
『そうでした。一生懸命に国民を救っていると、どうしても建物が壊れてしまうことが多いのです。魔物たちも頭の回らない奴らだけではないので人間を人質にしたり、有利に立ち回ろうとしてくるのです』
「そうだったのか。それは、大層苦労しただろう」
『いえ! お父様に比べればこんなもの大したことではありません!』
そうだろう、そうだろうなぁ。そうでなければ今の私はこの魔法石を粉々に壊して炎で全てをチリにしているだろう。いつにも増してやる気を出している息子に水を刺すのは申し訳ない気持ちでいっぱいなのだが、これ以上請求書を送られたらせっかく取り掛かっている城壁の費用が減らされてしまう。
愚息の凛々しい顔が映っているこの魔法石が憎い。
全く悪くないはずの従者にも苛立ちが止まらない。
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