報告書 〜アーシ・スィースの場合①〜

我が愚息が親元から離れて数ヶ月が経ったのか。

 

長いようであっという間とはきっとこのようなことを言うのだろうな。毎日のように面倒ごとを起こしてくれるスィースがいた時は煩わしいと思っていたのだが、姿が見えなくなるとそれはそれで悲しくなるものだ。


慌ただしく過ぎていく日々の端っこに我が子を思い出すくらい、感傷に浸ってもいいだろう。


「国王様、こちらの政策についてお話ししたいと大臣が」


「そうか。ここに連れて来い」


 ここ最近、何故か大臣からの質問や抗議が増えてきている。ただでさえ魔物が増えてきたことにより警備を固めようと多くの財政を使っていると言うのに。どうしてだろうか。


目の前にある書類をじっと見つめて考えるが心当たりは一切ない。ぺらっとめくりながら目を通すが何度か意識が逸れてしまっている。だめだ、今日はあまり調子の良い日ではない。先ほどの大臣と話をした後は早めに休むことにしよう。


「アーシ様。失礼致します」


コンコン、と二回ノックされた後に聞こえた声。「いいぞ」声をかけるとギイっと

音と共に扉が開き、一人の老人の姿が現れた。


「なんだ、ナーイか。何かあったのか?」


「アーシ様。今、国の警備を強化するために防衛費を増やしているそうですな?」


「そうだが、何かあるのか」


「いえ。こんな老いぼれの戯言だと聞いてほしいのですが、勇者様が今活躍している中、そこに民から集めた税金を使うのはいかがかと」


「別に、国を守ろうとしているのだからいいだろう」


「しかし、最近ではこの城の周りの城壁を作り直していると聞きましたが」


一体、何が言いたいのだ。腰を曲げに曲げまくっているナーイ。私の父親からずっとこの国を支えている大臣の一人。そのため、私が子供の時から知っているのだ。


そのせいなのか、他の大臣に比べて何かと口を出してくることの方が多い。私の政策に口を出す者なんてほとんどいないのに、何故こいつはこんなにも反抗するのか。腹立たしい。


「それがどうしたと言うのだ。私の政策方針に何か問題でも?」


「アーシ殿。あなたは昔からそうやって自分の思い通りにいかないとすぐに相手を追い詰める。悪い癖ですぞ」


「何が言いたい」


「いいえ。好きにするのは勝手ですが、いつか自分の身に返ってくると思った方が良いかと。……噂をすれば、愛息子からの報告書のようですよ」


じっと目を見つめるが、ひょいと幼子を相手にするように避ける。怒鳴り散らしてやろうと思った時、ノックが二回聞こえた。返事をすると、スィースからの手紙が届いたとのこと。中に入れるように指示し、複数枚ある紙を受け取った。


目の前にこいつがいるのが気に食わないのだが、とりあえず目だけでも通しておこう。


『お父様へ


寒さが厳しくなってきています。お父様はお元気していらっしゃるでしょうか。僕は今、リバランという村に滞在しています。ここでは皆さん優しく、僕たちを温かく歓迎してくれています。魔物が現れて困っていると言っていたので、早速退治して参りました。大変感謝され、お礼の品までいただきました。一度は断ったのですが、どうしても受け取ってほしいとのことで受け入れました。この村では有名な食べ物だそうです。お父様にも食べていただきたいので送ります。これからも寒さが厳しくなりますので、お身体にお気をつけください


スィース・ペティット』


手紙から顔を上げると、目の前にフルーツらしきものが置かれていた。先ほど手紙を持ってきた従者が置いていったのだろう。何やらゴツゴツとした見た目をしているのだが、こんなフルーツが世の中にあるというのか。不思議なものだ。

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