旅の途中〜カズーキ・ユエンの場合⑤〜

オークの巣には思った通り、あの貴族が言っていた宝物が隠されていた。隠されていた、と言っても適当に置かれていたと言った方が正しいかもしれない。どうやら保管の仕方や使用方法が分からなかったようだ。


そこまで知識がないのに、何故こんなものを奪ったのだろうか。いくつかの疑問が残ったまま、伯爵邸へと向かった。


「あぁ、よくぞ取り返してくれました! 本当に何とお礼を言ったらいいのか……!」


「僕たちは役目を果たしただけだ。礼を言うなら僕の仲間に言ってくれないか?」


「そ、それはそれは……ありがとう、ございます」


まーたとんでもない顔をしてこちらを見ているぞ。この貴族は嫌な顔を隠す術を教わらなかったのだろうか。親がそのような方針というなら仕方ないな、と心の中で毒を吐く。表面上は「ありがたきお言葉です」とか言っているけど、反吐が出そうだ。


「では、その宝物を私たちに……」


「いや、その前に少し聞きたいことがある」


「な、何でしょうか」


「これは、本当に君の所有物なのか?」


手を伸ばしてきた伯爵は、ピタッと動きが止まった。じっと見つめているスィースは視線を逸らすことなく、どのような反応をされるのか待っている。何を言っているのだ、と思っていると「黙っているだけでは分からんぞ」と追い討ちをかけた。


「何を、仰っているのでしょうか。これは間違いなく私の家の所有物です。ご覧ください、この金色に光る輝きを」


「違うな。これは、数週間前から行方不明になっているものだ。正確には、誰かに盗まれたとの報告があった。違うか?」


「そ、そんな。私が盗みを働くとでも?」


「あぁ、そうだ。だから盗まれても公にはできず、報告をしてこなかったのだろう?」


ギリっと歯軋りをした伯爵。まぁほとんどスィースの言っている通りだろう。いつもとは少し違う真剣な顔で追い詰めている姿を見ると、依頼を受けた時から気づいていたのかもしれない。


俺たちに何かを隠していると思ったのだが、このことだったのか。さすがの俺でも気づかねぇわ。


「こ、このことはどうかお父様に内密にして……」


「無理な話だな」


「な、何故です!」


「だって、お父様に言っちゃったもーん。へへっ」


「はぁ?」


数人の声が揃った。驚いたのはこの伯爵だけではなかったようで、リヤンも同じく声が出てしまったようだ。こいつがその秘密を知ったからには黙っていないだろう。それくらい、共に過ごしてきた年数が多い俺でも分かることだ。


慌てているリヤンは「お、お前っ」と何か言いたげだったのだが、今回こそは悪いことをしていないこいつが責められることはない。あと、個人的にこいつ嫌いだったから気持ち的にはとてもルンルンだ。


「お、お父様に、言ってしまった、とは」


「え、そのままの意味だけどー? 元々、お前の噂は耳にしていたからな。お父様、すんごいキレてたなぁ。ま、俺には関係ないけど!」


丁寧な言葉遣いから一転して、いつもの話し方に戻ってしまったスィース。一通りのことを終わらせたからなのか、スッキリしているようだ。顔がそう言っている。思いっきり顔に出ている。


こいつの言葉を聞いた伯爵は今にも倒れそうだ。顔を真っ青を通り越して真っ白にしているのは傑作も傑作。全力で笑いを堪えた。


「じゃ、俺はもう行くから。あ、チーナに手紙書かなきゃ! 元気にしてるかなぁー」


「お、お待ちください! どうか、どうかお慈悲を!」


「あー……伯爵様。俺が言うのもアレだが、もうどうしようも出来ねぇと思うぞ」


「な、何を貴様は言って……! 庶民のくせに!」


「そうですよ。あいつ、びっくりするくらい頭悪いけど、こういう時は必ず許しませんし。それに、すでに国王様に報告済みと言っていたので取り消すのは不可能かと」


「う、嘘だろ……」


フラフラとしていた彼の足は力が抜けてしまったようで、膝から崩れ落ちていた。まぁ、自業自得だろう。今更後悔しても遅い。庶民の俺に言われたことに腹を立てていたようだが、リヤンにトドメを刺されたようで燃え尽きていた。それはもう、真っ白に。


「おーい。さっさと持ち主に返しに行こうぜー」


「へいへい」


「全く。我らが勇者様はわがままで困りますねぇ」


すでにこの場から去っていったあのバカが顔を出していた。リヤンの言う通りだ。俺らの勇者はバカだ。わがままだし、話を聞かないし、時々常識すら知らないこともある。

でも、人として許せないことは絶対に許さないし、困っている人には考えなしに手助けをする。だからこそ、憎めないのだろう。


まぁ、バカだけど。

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