旅の途中〜カズーキ・ユエンの場合④〜
恐怖を感じてから数時間後。まだまだ日は高く、正直早く沈んでしまえと思っている。あ、人じゃなくて太陽に言ってるからな? そこらへん、間違えないでくれよ。
そんなこんなで恐らくまだいるであろうオークの場所へと逆戻りした。道順なんて全く覚えていないのだが、例のスィースの勘により無事たどり着いた。勘が良いというか、昔から方向音痴ではないことは分かっている。
深い森の中で迷子になった時もこいつだけは泣かずに『こっちだと思う!』と平気な顔をして歩いていたのだ。何というか、図太いのか鈍いのか。いや、どっちも同じ意味か。
「で、何でお前と俺の二人だけなの?」
「さぁ? リヤンに作戦があるって言っていたから、どうにかなるんじゃない?」
ほら、あいつ頭いいし、と納得しているらしいこいつ。いや、そんな訳がないだろう。確かに魔法学校の中でも一番の成績を誇っているあいつでも、こんなに曖昧な指示があるだろうか。
迷子になった時も一番先に泣いていたのだが、年齢を重ねるにつれて神経が図太くなってきている。主に目の前のクソ王子のせいだろうけど。そんなリヤンでもある程度作戦は伝えてくれるはず。「とりあえず、二人して突っ込め」なんて言わないだろう。
「リヤンはどこだよ」
「え、知らないよ? カズーキが知ってるんじゃないの?」
「俺はてっきりお前が知っているのかと……って、あれ、オークじゃね?」
ペラペラと二人で話していると、動く大きな岩の塊……ではなく、数時間前と変わらず群れで行動しているオークが目に入った。やはり、変わらず群れで行動しているらしい。
前回のスライムと言い、一体魔物の中で何が起こっているのか。いや、頭を働かせるのは後だ。今はとにかく攻撃を仕掛けて……あれ、スィースどこ行きやがった。
「うおおおおお! 俺の! いいところを! 見せるぜぇーーーー!」
叫びながら一人でオークの群れの中へ走っていく金髪が見えた。見えてしまった。頼むから嘘だと言ってくれよ。呆然と見つめていると、当たり前のようにあの大声に気づいたオーク達もこっちへ向かってきた。
今回は殺す気でいるのだろう。逃がしてしまったからなのか、苛立ちがまだ残っているようだ。
「まぁ、あいつが一人でどうにかしてくれればいいかー……って、おいおいおい!」
「うわああああ! カズーキィー! 助けてぇー!」
「バッカ、こっち来んな!」
遠くからのんびり見つめていようと思っていた予定が全て壊された。持ち前の力の強さと運の良さで二匹は倒したようだが、どうやら奥にまだ仲間がいたらしい。
雲行きが怪しくなってきたのか、それとも殺されると思ったのか、足を必死に動かして泣きながらこっちへ走ってくるスィース。自分たちで対処できる人数と思っていたのだが、考えが甘かったようだ。自分たちの何倍も大きい奴らを相手にするには無理すぎる。
一度目と同様、こいつのせいで走る走る全力で走る。どれだけ足を動かしても逃げ切れる様子はなく、今度こそ苛立ちが爆発しそうだ。
「テメェ、ふざけんな! 何で俺まで走ってるんだよ!」
「だって、リヤンがそうしろって言ってたもん!」
「もん! じゃねぇよ! 腹立つなぁ!」
横並びになって逃げている姿は滑稽も滑稽。周りから見たら学習しろよ、と思われるだろう。だが、こいつといる限りそれは不可能に近い。なんせ、知能レベルマイナスMAXを叩き出した王子様だからなぁ!
あぁ、揺れるサラサラの金髪を見るだけでも腹が経つ。俺と同じ真っ黒に染めてやろうか。
「カズーキ! 右に曲がれ!」
「は? リヤン? お前、何でそこに!」
「いいから! スィースを掴んで右に曲がれ!」
突如上から声が聞こえたと思い見上げてみると、そこには杖を持ったリヤンがいた。何であいつだけ安全圏にいるんだ、とも思ったのだがこれがどうやら作戦らしい。横でヒィヒィ言っているこいつは気づいていないようなので、指示を出した。
「スィース! 右に曲がれ!」
「え、右?」
「そう! 右!」
「フォークとナイフ、どっち!」
「は? 右は右だろうが!」
「フォークの方か!」
「ちっげーよ! ナイフの方!」
「二人とも曲がれ!」
上から聞こえてきたリヤンの声に従い、突如右へと曲がった。曲がる直前で左に曲がろうとしたスィースを見て焦り、首根っこを捕まえて思いっきり引っ張った。
急に止まれなかったオークはそのまま開けた場所まで走ると、ピカっと何かが光ったかと思ったらすぐに強い揺れが起きた。地割れしそうなほどの衝撃になんとか耐えると、「大丈夫かー」と崖の上から見下ろすリヤンがいた。
「作戦成功だな!」
「お前、わざと言わなかったな……?」
「成功したからいいじゃないか! さ、あいつらの巣に行こう! スィース、活躍してたなぁ。良かったじゃないか!」
「リヤン……もしかして、今日のこと、根に持ってる?」
「さぁ、何のことだろうな。ほらほら、行くぞ」
艶々とした笑顔で鼻歌を歌いながら俺らが走ってきた道を戻って行く。さすがのスィースも今回は悪いことをしたと気づいたのか、申し訳なさそうな顔をしている。
今にもスキップをしそうな後ろ姿を見て、こいつは怒らせてはいけないな、と強く思い知らされた出来事だった。
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