旅の途中〜カズーキ・ユエンの場合③
全力で来た道を走って戻ったと思っていた。しかし、走れど走れど出発した村が見当たらない。逃げることしか考えていなかったこともあり、周りの目印を確認することもなくここまで来てしまった。森から抜けてしばらくすると、「もう、無理っ」と叫んだスィースの声で全員が止まった。
「おっまえ、マジで何をしてるんだよ! 魔法学校で習ったこと、全部忘れたのか! パッパラパーなのか! あ?」
「リヤン、落ち着け。色々言いたいことがあると思うが、気になったことがある」
ふーっふーっと興奮した猫のように怒鳴っているリヤン。確かに判断を間違えたことにより酷い目に遭ったのだが、それ以上に疑問に残ったことが一つあった。自分だけが気付いたのかと思っていたのだが、数回息を整えて「あぁ、あれか」と頭をポリポリと掻いていた。
「群れで行動しないと聞いていたオークが何故あんなにも多数でいたんだ?」
「え、そうだっけ?」
「お前……本当、よく魔法学校卒業できたよな。習っているはずだぞ」
「多分こいつ、自分の得意科目しか覚えてねぇぞ」
「あー……なるほど」
呆れるリヤンは目を細くして明後日の方向を見ていた。こいつに至っては今更じゃないか。期待するなとは言わないが、常識を押し付けると痛い目見るぞ。俺らが。
それはそうと、肝心の問題が解決されていない。座学が苦手だった俺でも覚えているほど有名な話。魔法を使えない国民でも知っているのだから。
頭の中でそれらしい理由をこねくり回しているのだが、俺の知識量では辿り着けなさそうだ。ちらっと隣を見ると、変わらずどこかを見ているらしい。「おい、帰ってこい!」と言いながら勢いよく背中を叩くと魂が戻って来たようだ。
「あ、あぁ。すまんすまん。ちょと違う世界に行ってた」
「おかえり。んで、あのオークのことだけど。どうする? あんなにいるんじゃ俺でもきついぞ」
「そうだなぁ。三人で力を合わせて……ってわけにはいかないか。何か作戦でも立てようか」
「俺も俺も!」
「お前はちょっと黙ってろ」
リヤンのドスの効いた声で押されたスィースは大人しく「うっす」とだけ言って縮こまっている。本当、自分が一体何をしたのか省みないからだと分からないのか。立ちっぱなしで話し合うのも体が辛いので、そこら辺に埋まっている岩に腰掛けた。
「で、どうするんだ? 俺、お前みたいに頭良くないから思いつかないんだけど」
「んー……無難に奇襲を仕掛けるとか?」
「それ、今さっき失敗したやつだろ」
「それもそうだな。どこか広い場所におびき寄せて一気に片付ける方が楽なような……あ」
「どうかしたか?」
何かを思いついたらしいリヤン。右手を顎に当てて何か考えているようだ。アイデアがあるなら早く言って欲しいのだが、口を閉ざしたまま。何考えているのだろうか、とじっと待っていると「なぁ、スィース」といじけている金髪野郎の名前を呼んだ。
「お前、最近良いところ見せてないから、みせたくないか?」
「え! いいのか!」
「あぁ、もちろんだ。お前にしかできないことだからな!」
「分かった! 俺、頑張る!」
一人で地面に何かよく分からない生き物を描いていたのだが、すぐに立ち上がった。先ほどまでの怒りはどこへ消えたのか、ニコニコと笑顔を向けているリヤン。そう、ニッコニコ笑っているのだ。
何だか危険な香りがするような。今回も俺はパスしよーっと心の中で唱え、少しずつ後退りした時。ガシッととんでもない力が自分の肩にかかった。
「逃げるなよ?」
目尻を限界まで下げ、口角はこれでもかと言うほど釣り上げた微笑みを浮かべて振り返ってきた。こちらの動きなんて分かっていないと思ったのに。こいつ、怖すぎないか?
「いや、逃げるわけないだろぉ? ほらほら、その手を離そうぜ!」
「離すものかコノヤロウ。絶対に逃がさねぇよ?」
ギギギと鈍い音がした。痛い痛い痛い。待って、俺の肩めり込んでない? リヤンの手、俺の肩の肉に思いっきりめり込んでいない? というか、全力で掴んでいるから骨まで掴もうとしているような。
『逃がしてなるものか』と強い怨念……ではなく、意思を感じる。一人喜んでいるスィースは気づいていないようだが、もしかしたらこいつはとんでもない作戦を思いついたのではないだろうか。
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