旅の途中 〜カズーキ・ユエンの場合②
「おい、顔」
「んあ? あぁ、すまんすまん。つい癖で」
横からリヤンに突っつかれたことにより、心の声が表へと出てしまっていたことに気づいた。言葉では許していても、表情に出てしまうのをどうにかしたいものだ。今後のことについて話している二人を見ながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。
話が終わった後はスィースの指示に従い、今夜泊まる宿へと向かった。てっきりこいつのことだからすぐにでも向かって成敗する、とか言い始めそうだったので力が抜けた。色々考えているのだろうけど、まぁバカ王子のことだ。どうせ休憩したいとか言い始めるんだろうな。
「で、何で宿に戻ってきたんだ?」
「んー? まぁ、色々とな」
「何だよ、俺らにも言えねぇことなのかよ」
「そ、そんなことはないぞ! ただ、二人が疲れているかなぁって思っただけで……」
「いや、自分が疲れたって言えよ」
容赦のないつっこみが隣からぶん殴ってきた。一つの部屋に男が三人もいるのはむさ苦しくて仕方ないのだが、こいつの身に何かあったら困るのはこっちだ。仕方なしに行動を共にしている。
寝る時だけ部屋は別々にしてもらえたのも、恐らくアーシ国王の気遣いだろう。そんなことを考えているのなら、死にかけた顔している大臣たちに休暇を与えた方がいいと思うんだけどな。
「とにかく! しばらく移動ばかりだったから、二人も疲れているだろう? 今夜くらい、ゆっくりしろよ! な、な?」
リヤンの言葉に何かがバレると思ったのか、やたら俺らを帰らせようとしている。また何か隠しているなぁ? 小さい時からいつもそうだ。誰かの秘密を隠そうと大袈裟に反応したり、力で解決しようとしているのを何度見たことか。その度にリヤンと二人でこいつを押さえていたよなぁ。懐かしい。
昔のことを思い出しながらぐいぐいと押され、スィースの部屋の外へと追い出された。
「……あいつ、また何か隠してるよな」
「まぁ、そうだろうな。でも、今回は俺らを巻き込みたくないみたいだし、その
ままにしておこうぜ」
「それもそうだな。今日はゆっくり休むことにしよう」
追い出された俺とリヤン。むさ苦しい空間から脱出できたことは嬉しいのだが、これ以上問題を起こして欲しくないのが本音だ。さすがに勇者になってからは自分の行動に気をつけているようだが。
ちらっと見ると、リヤンも何か考えているようだ。三人で幼馴染を何年続けていると思っているのか。
「じゃ、俺こっちだから」
「あぁ。また明日」
別々の扉の前に立ち、部屋の中へと入った。スィースを俺らの間に挟むようにして宿は予約されていた。されていた、と言うのもこれも国王様のお心遣いだとか。自分の息子が危険な目に遭わないようにしたらしい。
いやだから、自分の息子じゃなくて身の回りの人を大事にしろよ! と、思ったのは今回で何百回目だろうか。
甲冑を脱ぎ捨てるように地面へ置き、そのままベッドに倒れた。ふかふかとまではいかないにしても、そこそこ質の良いものを使っているようだ。甲冑の手入れ? そんなの後回しに決まっているだろ。ただでさえ勇者のお守りで疲れているのに魔物退治も含まれているんだからな。本当、割に合わないっての。
ずんっと沈んだことにより、眠気が一気に襲ってきた。覆い被さるようなそれに争うこともなく、俺は夢の中へと飛び込んでいった。
どこからともなく聞こえてくるのは、いかにも凶暴そうな魔物の声。しかも、一箇所ではない。俺らのいる場所の三百六十度全体から聞こえてくるのだ。道なき道を歩き、いつオークがいる場所へ辿り着けるのかも分からないまま一時間。もうそろそろブチギレそうだ。
「おい、スィース! 一体、いつになったら着くんだよ!」
「おかしいなぁ。地元の人の話だと、すぐに着くって言ってたんだけどなぁ」
「全然すぐじゃねーよ! もう一時間も歩いてるわ!」
頭を傾げているこいつ、王子もとい勇者。朝に弱い俺はリヤンによって起こされ、俺よりも更に全く起きれないスィースはリヤンに何度も何度も何度も起こされていた。
俺が全ての準備が終わって廊下に出ると、「起きろや、ゴラァ!」と怒鳴っているリヤンの声が響いていた。あれを日常として過ぎ去っていくくらい俺らは一緒にいる。
「なぁ、もしかしてだけどさ。ここの地元の人のすぐって、一時間だったりする?」
「はぁ? そんなわけねーだろ。歩く時間の感覚くらい、世界共通だって!」
「……あ、そうかもしれない。お父様が、『田舎は歩くのが当たり前だから、一時間は軽く歩くぞ』って言ってたような……」
「それを早く言え!」
ごめんてぇ、と半泣きで謝っているスィース。ピタッと止まって時には嫌な予感がしたのだが、そのまさかだった。ここに入る前に地元民の「ここをドーンと行ったら大きな岩があるので、そこをキュッと曲がったらありますよ!」などと効果音満載の説明を聞いた自分らがバカだったらしい。
俺とリヤンは頭の上にハテナマークをたくさん浮かべていたのだが、スィースは「分かった! ありがとう!」と言って勝手に歩き始めてしまったのだ。方向音痴ではないから大丈夫だろうと過信してしまったのが運の尽き。恐らく方向は合っているはずなのだが、いつ大きな岩が見えるのかも不明だ。
「大っ体なぁ! お前はいつもいつもそうやって適当に話を聞くから大変な目に……!あっ」
リヤンのお説教タイムが始まるかと思い、俺は近くの葉っぱをちぎって遊んでいた。こうなるといつまで続くか分からないので、俺は干渉しないようにしている。
これから説教の本領発揮をすると思ったのだが、途中で止まってしまったのだ。次なる葉っぱをちぎろうとしたのだが、リヤンの視線の先を追いかけた。
「……あれ、オークじゃね?」
思わず派手派手な女の子の話し方になってしまった。だって、もっと森の奥にいると思うじゃん? でも、普通にそいつら生活してるじゃん? びっくりするじゃん? などと、心の中の女の子が叫んでいる。
声に出さなかったのはまだこちらに気づいていないから。このまま奇襲を仕掛ければ一気に倒せるのではないか、と頭の中で作戦を練っていた時。
「あー! ほら、俺間違ってなかったじゃん! ほらほらほらぁー!」
と、大きな声で歓声を上げながら指差すクソ王子。案の定こちらの存在に気付いた奴らは攻撃を仕掛けてきた。大きな棒を振り回しながらこちらへ向かってくる姿は控えめに言って迫力ある。チーナ様も負けてないけど。
あ、これ秘密でお願いね。こんなこと言ったってバレたら俺の命が危ないから。
「バッカ、お前なんで声出すんだよ! おい、一旦退くぞ!」
「え、何で! 見つけたんだから攻撃しに行こうよ!」
「真っ向からぶつかったら一発で死ぬからな!? お前、本当に勉強したのか!?」
「してるわけねぇよ! おら、早く走れ!」
地鳴りのように響いているのは彼らの足音。どう考えても真正面から挑んだら勝てる気がしない。それに加えて、かなりの数だ。固まって行動するとは聞いていないのだが、なぜこんなにもいるのか。
いや、考えるのは後だ。どうにかして逃げ切らねば。
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