第52話

「はい、確かにお預かりいたしました」


 翌朝、3人の女性が訪ねてきた。

 その人達は巴からケースを受け取ると、トランクのようなものに丁寧にしまった。


「では、私共はこれで失礼します」

「よろしくお願いします」


 そして、深く頭を下げたあと、その人達は去っていった。

 俺はよくわからないままその様子を見ていたのだが、それに気づいたのか巴が説明してくれる。


「あ、あの人はせ、精子センターの方です。ば、バッチが付いてましたよね」

「…ごめん、見てなかった」

「そ、そうでしたか…す、すみません、先に伝えておけば…」


 他の2人は護衛…警備員で盗まれたりしないように目を光らせているらしい


「それで、この後ってどうなるの?」

「え、ええっと…」


 巴に部屋に戻る途中で尋ねると、少し困ったような顔をした。


「お、お疲れでしたら、今日はその…休んでも良いってことなんですが…ど、どうしますか?」

「? そんなに疲れる事あった?」

「…無理はしてないみたいですし、た、珠きゅんがいいなら」


 部屋に戻り、登校の準備を始める。

 改めて考えると、ずいぶん早い時間に来たんだな…


「そ、そうですね…大体一週間後には、結果が出るはずです」

「健康か調べるんだっけ」

「はい。こ、今回は検査のため一部ですけど…け、健康と判断されれば、次回以降は全て、冷凍保存という形になります」

「冷凍?」

「は、はい。昨日の機械で、一時的ですけど…」


 そんなことをして大丈夫なのだろうか?

 死んでしまいそうな気がするけど…


「ほ、保管された精子は、珠きゅんの15歳の誕生日の日に一般に提供されることになります」

「…15歳?」

「はい。と、特別成人制度があるので…」

「特別成人制度?」


 あまり響きがよろしくないような…


「え、えっと…い、一部分野において、未成年の人を成人扱いするものです」

「…例えば?」

「た、例えば…今回の…せ、精子提供を未成年搾取や未成年労働としない、などです」

「確かに…」


 なんだか流れてしてしまったが、今後は…


「え、強制なの?」

「そ、そういうわけじゃ…ないんですけど…その、協力義務といいますか」

「強制ってこと?」

「…そう、ですね…」


 それは…ちょっと参ってしまうかもしれない。

 自慰行為を誰かに強制されて、というのは…


「も、勿論、珠きゅんのことは最大限配慮されます」

「配慮?」

「た、例えば…て、提出日を前後させたり、お休みしたりとか…」

「提出することは決まってるんだ」

「は、はい。月に、ひ、試験管3本です」

「さ、3本?」


 え、何回分だろうか。

 というより、試験管満杯なんて自分のであっても見たくない。


「…ま、まあ、それはちょっと話し合おうね」

「は、話し合い、ですか?」

「とりあえず、学校の準備しよう!」

「は、はい…」



⇄⇄⇄


今回は短くて申し訳ありません。

次回更新は27日です。、

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