第51話

「…あの、巴?」

「は、はい…」

「これって…?」

「て、手引書です。ま、まずはそれを読んでいただいて…」

「…うん」


 巴から手渡された冊子を見つめる。


「え、えっと、ですね…そ、それに沿って進めると…その、し、射精というものができるんです」

「…」

「わ、わからないことがあれば聞いていただいて…」


 そこには男性器が図解されており、部位の説明や正しい自慰の仕方が載っているようだった。


「これは…うん。いらないかな…」

「え、あの…」

「ちょっと…うん」


 男性器のアップの写真は絶対にいらない。


「あ、あの…珠きゅん…?」

「巴、別の日に…」

「だ、大丈夫です!」


 巴は操作していた機械から離れると、鞄を再び開いた。


「い、1錠ですぐに効果が出るそうです!」

「あー、うん。大丈夫…」

「そ、そうですか…?」

「それで、巴? 別の日になったりとか…」

「で、でも…た、珠きゅんは今日、できる気分になったんですよね…?」


 もう落ち着いてるけどね?


「そ、それに、健康か検査してもらわないと…」

「うん、わかったから…」


 なんとなくだけれど、ここではそれが以前よりも大事なことなのはわかっている。


「じゃあ、その…巴? ちょっと…あー…席を外してもらってもいい?」


 さっさと済ませてしまおう。

 なんだか義務でやるのは妙な気分だけれど。


「? あ、あの…私は護衛ですから…」

「え?」

「ち、ちゃんと…見てますので! …ど、どうぞ!」

「まって?」


 巴の言葉も気になったけれどそれ以上に気になるものが巴の手の中にあった。


「なにそれ?」

「こ、これですか…? こ、固定具です」

「…え、それつけるの?」

「は、はい」


 それは金属でできていた。

 先端には試験管が固定され、傾けられるようになっている。そして、それは陰部を包む格子のようなものだった。

 つまり、つけると陰部は金属に包まれてしまい、外から触りづらく、刺激なども与えづらい。


「…それをつけるのは」

「だ、大丈夫です! ひ、人肌くらいに温めておきました!」

「いや、そういうことじゃなくて…」

「わ、私にはあとは…お応援くらいしかできませんけど…が、頑張ってください…!」


【以下、ダイジェスト】


「た、確か…お風呂では…も、もしかして…む、胸…私の…み、見たい、ですか…?」

「わ、私と珠きゅんが…? えへへ、お、お付き合いなんて…そんな」

「わ、私ので良ければ…ど、どうぞ!」

「あ、そ、そんなに…ち、ちょっとはずかしいかも、です」

「えへへ…抱きしめちゃいました」

「手…手を繋ぐんですか…?」

「あっ…た、珠きゅん…あったかい、です…」

「は、はい…こ、こう…ですか?」

「あ…」

「な、なんだか、その…えへへ…体温、好きです」

「♡」


【ダイジェスト終わり】


「お、おめでとうございます! ちゃんと出ましたね!」

「う、うん。その、あんまりはっきり言わないでもらえると…」

「じゃあ、は、外しますね」

「うん、ごめんね」

「だ、大丈夫です!」


 結局巴に頼ってしまった。

 巴は試験管を機械に入れながら服の乱れを直していた。

 …このことは巴と話し合わないと。

 ちょっと巴と認識の差があるかもしれない。


「じ、じゃあ、珠きゅん」

「うん?」

「あ、愛子さんに報告にいきましょう!」

「…そうだね」


 お風呂でそんな事を言っていたはずだ。


「なんて報告すれば…?」

「え…そ、それは勿論、ぶ、無事に射精できたと…」

「…そういうものなんだ?」

「…。…はい」

「じゃあ…仕方ないね」



⇄⇄⇄



「愛子さん、すみません。今大丈夫ですか?」

「…珠音くん? 何かあったかしら?」


 愛子さんは持っていた資料を机の上に置いてこちらへ向き直った。


「実はその…無事に、終わったので報告に…」

「ごめんなさい、何の話かしら? ちょっと覚えていなくて…」

「…あの、射精、できました」

「しゃせい…射精!? 本当なの?」


 意味を理解すると同時に愛子さんは椅子から勢いよく立ち上がった。

 そしてその真偽を確かめるために巴の方を見つめていた。


「は、はい。わ、私も、確認しました」

「そ、そう! そうなのね…!」

「あ、明日提出して…け、結果はおそらく、1週間後になると思います」

「1週間後ね。ということは…」

「は、はい、成長祝会は…さ、再来週の月曜日に…」

「そうね。準備を始めていくわ」

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