第49話
アマ先輩との通話を終え、電話を切った。
「心配してくれたみたいだね」
「そ、そうですね」
「…そういえば、アマ先輩の言ってた世代に同情できなくもってどういう意味だったんだろう?」
「え、えっと…40代後半から50代の、その…は、犯罪率が高いことを言っているのだと思います」
「そうなんだ? まあ、偏りがあったりはするんだろうけど」
前世代で一定ではないのは当たり前だろうけれど、わざわざアマ先輩が離した理由がわからなかった。
「…そ、その、理由が確実にこれだ、というわけじゃないんですけど、か、仮説として、せ、精子の受け入れが終わるのが、40代半ばだからではないか、と教わってはいます」
「…そうなんだ」
「は、はい。あとは、その…更年期…ええと、ホルモンのバランスが乱れやすい年齢でもありますので…こ、子供ができない不安であったりから、犯罪行為に走りやすいと」
年齢的やホルモン的なものなら、本人のせいとも言いずらいのかな…?
だから同情できなくもないと言っていたのかもしれない。
「あ、あと」
「まだあるんだ」
「は、はい。その…あくまで現在の状況ですけど、その世代は氷河期世代と言われています」
「氷河期世代って…就職が難しいってやつだっけ」
中学校で社会を担当していた先生がそんなことを話していた。
「は、はい。その、氷河期世代の方々は、ほかの世代と比べて非正規社員の方が多いんです」
「ちょっと聞いたことがあるかも」
「そ、そうですか…? 珠きゅんは賢いですね…」
「…詳しくは知らないかも」
「え、えっと…大事なのは所得…賃金が低いことなんです。その、出産制限って知ってますか?」
「初めて聞いた」
出産制限…一人っ子政策、とかがそうなるのだろうか?
ただ、日本ではそのようなことはしていなかったはずだけれど…
「その、せ、精子提供を受けて、子供を産むにあたって、ほ、ほかにも判断基準はあるんですけど…えっと、賃金によって出産できる人数の上限が決められているんです」
「人数の上限…」
子供を育てる分の余裕があるか、最初に審査してくれてるって感じなのかな?
「は、はい。それで…わ、若い頃はその、賃金が少なくて出産できず…基準所得制限を超えた頃には、年齢的に精子提供が出来なくなっている。そ、そんな理由などが重なってしまっているのが、原因の一つではないかと言われてるんです」
「そういうことって多いの?」
「い、いえ。人数が多いほど基準は厳しくなりますけど…一人目の基準は、その、無職やフリーター等でない限り、ほとんどの人が達成できるはずです」
「なるほど…基準があるのはいいことだろうけど、問題にはなってないの?」
犯罪率があがってるなら、そっちの方を改善しようとする気がするんだけど。
「も、問題の認識はしているのでしょうが、妊娠の可能性の低い人にその、複数回提供するのは、公益に…あ、えっと、もったいないので。 ほ、ほかの人に回してあげた方がいいという判断なのだと思います」
可能性が低い人よりも高い人の方が優先されるということは、子供をもっと増やしたいのだろうか?
正確な数字はわからないけれど、少なくとも元の世界で出産数は100万人もいなかった気がするけど…
「あ、で、でも…一応、国としては、し、自然妊娠は止めてません。あ、ここでいう自然妊娠は人工妊娠に対しての…直接妊娠といったほうがいいかも。でも、最近は自然妊娠は人工妊娠、直接が特別妊娠で…」
「うん、ありがとう巴。勉強になったよ」
いろいろあるけれど、子供ができなかったことが理由ということなのだろうか。
俺は子供を作ったことは無かったけれど、職場には子供のいる人もいた。
その人は大学を辞めて、子供を育てるために就職をしたと言っていた。お金がないと言って大変そうだったけれど、確かにやる気に満ち溢れていたし、充実しているように見えた。
それを考えると、子供が欲しくてできなかった人は不安定になるのかもしれない。もちろん、ほとんどの人は犯罪なんてしないんだろうけれど。
「そ、そうですか? よかったです…!」
「子供か…」
以前はそんな余裕はないと思っていたし、欲しいとも思っていなかったけれど、いつかは子供ができたりするんだろうか?
当分先の話だろうけれど、もし欲しいとなったとき、余裕がないということにならないように、勉強も頑張らないと。
「わ、私も…赤ちゃん欲しいって気持ちは、護衛を目指す前はあったんです」
「…今はないの?」
「は、はい。護衛になったので」
「? 護衛って子供駄目とかあるんだ?」
「だ、駄目といいますか…そもそも出来…あ…と、取ってませんでした…」
巴は照れつつお腹のあたりを撫でていた。
…
「そ、そっか…え、えへへ」
ノックの音が聞こえ、愛子さんの声が聞こえてきた。
「風呂の準備出来たけれど…今大丈夫かしら?」
「あ、も、もうこんな時間ですか…た、珠きゅん、お風呂入りましょう!」
「そ、そうだね」
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