第43話

「おにーちゃんっ!」

「うっ!」


 部屋に戻る途中、喜子ちゃんが飛び込んできた。


「早くやろ!」

「う、うん…昨日の続きだね」


 約束したとき、喜子ちゃんはほとんど寝かけていたけれど、しっかり覚えていたらしい。

 手を引かれ、喜子ちゃんの部屋に入る。今日はこちらでするらしい。ゲームの準備は既に出来ているようだった。


「まずは悪霊を巴ちゃんにつけて〜」

「ま、待ってください…」


 俺と巴も座布団の上に座り、コントローラーを握る。


「じゃあ、俺は巴から離れないと…」

「あぁ…」



⇆⇆⇆



「や、やりました! ゴールです…!」

「巴ちゃん、やったね!」

「は、はい!」


 巴のゴールを一番防いていたのは喜子ちゃんだったけれど、気にしないことにした。


「次のゴールは…」


 画面で次のゴール地点が決定されようとしている中、机の上に置いていたスマホが震えた。


「あれ」

「お兄ちゃんのスマホだよ?」

「そうみたい、ちょっとごめんね」


 メッセージでは震えないようにしているので、電話ということになる。

 スマホを手に立ち上がると、巴もコントローラーを置いて立ち上がる。

 画面には、『音羅天命』と表示されていた。


「もしもし、アマ先輩ですか?」

『ん、あぁ。そちらはタマ後輩で合っているかな?』


 廊下に出て、着信に応じる。


「はい、そうですよ」

『明日のことで連絡、というより相談をしようかと思ってね。前之園巴さんも一緒だろう?』

「はい、巴も」


 スピーカーモードにして、巴にもアマ先輩の声が聞こえるようにする。


『あー、いや。小田原部長とも話そうと思ってね。文芸部のグループがあるだろう? そちらで話さないかと誘いに来たんだ』

「あぁ、そのほうが良さそうですね」

『じゃあ、よろしく頼むよ』


 アマ先輩との電話が切れると、メッセージを開き、文芸部のグループを確認すれば、グループ通話が開かれていた。


『こ、こんばんは、た、多々里くん!』

『ふむ…言い忘れていたね、こんばんは』


 アマ先輩に加え、小田原さんの声も聞こえてきた。


「こんばんは、小田原さんも待たせちゃって」

『い、いえいえ! 全然、全然待ってません!』

『送られてくるメッセージも私に対するものとは桁違いだろうからね、気が付かなくても仕方がないさ』


 メッセージの通知を行っていると、グループの通話の時も通知が来ないようだ。

 このグループくらいは通知が来るようにしておこう。


『そ、それから、ま、前之園さんも、こんばんは!』

『繰り返しになるが、夜分遅くにすまないね、こんばんは』

「…えぇ、こんばんは。音羅様、小田原様」


 挨拶を交わし合う。

 アマ先輩と小田原さんはカメラでその姿が映っていたため、巴に許可を取った後、スマホのカメラをONにする。


『ほぉ…』

『わっ』

「ん?」

『いや、ちょっと驚いただけさ。それよりも、さっきまで小田原部長と話していたんだが』

『は、はい。その…明日の待ち合わせ場所なんですが…』

「うん、校門前だったと思うけど」


 よく使われる待ち合わせ場所だと人が多いのではと、二人が気を遣ってくれ、学校にということだったが…


『現地集合の方がいいんじゃないか、という話になってねぇ』

『館内に入ってしまえば、それ以上の人は来れないのではと』

「確かに、席の数は限られてるしね」


 映画館は広いけれど、外よりはマシかもしれない。


『それに…今日は大変だったんだろう?』

「え…」


 アマ先輩の言葉に驚く。

 今日のことを話していないはずだけれど…


『私も又聞きでしかないが、SNSで話題になっているそうだね』

『わ、私もアマ先輩から聞いて…大丈夫でしたか?』

「そうだったんだ…? うん、巴がいたから大丈夫」


 そういえば、るー達もSNSで場所がわかったと言っていた。


『そういうわけで、小田原部長と話し合って、集合場所を変えようという結論になったんだ』

「そうですか…俺のせいですみません」

『い、いえいえ! 多々里くんのせいじゃ…』

『ああ、気に病む必要はないよ。ではーー』



⇆⇆⇆



『おやすみ』

『お、おやすみなさい! 天命先輩、多々里くん、前之園さん』

「おやすみなさい、二人とも」

「おやすみなさいませ、音羅様、小田原様」


 それから、現地集合となったことで、集合時間変えたりと、話し合った後、通話を終えた。


「話題になってたんだね」

「は、はい。や、やっぱり珠きゅんは目立ちますから」

「…じゃあ、明日もよろしくね、巴」

「は、はい! お任せください!」


 巴と笑い合い、部屋に戻ったのだが…


「…」

「あ」


 扉を開ければ、喜子ちゃんは唇を尖らせて俺達をを見ていた。

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