第41話 姦

「…あれ、どこかで…?」

「あっ、覚えて…!」


 確か…交番に向かう途中、写真を頼まれた子だ。


「うわ、マジじゃん」

「ウチは、るーのこと信じてたし」

「はー? うそつけって」


 女の子を追いかけてきた2人は、口で言い合いながら、汗を拭いたり飲み物を渡したりと、女の子の世話をしていた。


「ありがと、さーちゃん、ひーちゃん…じゃなかった! あの!」

「は、はい」

「この前はすみませんでした! 写真撮ってなんて…」

「…気にしてないので、頭を上げてください」

「いえ、まさか本物の男の人だったなんて…」

「…あの、場所を変えませんか?」


 相変わらずスマホは向けられており、謝罪の様子を見に集まった野次馬のようになってしまっている。

 写真を撮られるとは、俺はもう仕方ないけれど、この子はそうではないかもしれない。

 巴とも話し、近くの飲食店に移動することにした。



⇄⇄⇄



「改めて…ごめんなさい。男の人だなん…」

「写真より良さげ?」

「ね、アリ」

「2人とも黙ってて!」

「はー? 今週の放課後潰して付き合ったダチにそんなこと言うんだ?」

「今だって、まだ時間残ってたし…」

「奢りでチャラ…」

「足りませーん!」

「ここ奢りで」


 俺と巴の対面に座った3人は、席につくと同時に騒がしくなった。

 ひとまず適当に注文を終え、女の子達の方を向く。


「…あの、何度もすみません。この前は」

「多々里くんって、聖学だっけ?」


 『るー』さんの言葉を遮り、『さー』さんが尋ねてくる。


「え…そうですね」

「ウチらもそっちが良かったなー」

「転校ある?」

「ママに聞くか」

「あり」

「…ほんとに黙ってて!? 印象サイヤクなんだけど!」


 『るー』さんが頭を抱えていた。


「るーはね」

「え」

「今と、最初? ダブルで」

「ウチらはセーフで、るーはアウトー!」

「ヤバ、終わったじゃん」

「そっちどうなん? いい感じ?」

「そうですね、仲良くしてもらってます」


 『ひー』さんの質問にも答えていると、隣から視線を感じた。


「巴?」

「多々里様に要件があるのでは?」

「は、はい! その、写真撮ってとか、失礼だったなと、思いまして…その…」


 『るー』さんの言葉尻がすぼまっていき、それとともに顔を俯かせていき、顔を下に向けたまま、カバンから何かを取り出してこちらへと差し出してくる。


「そのぉ…お詫びと言いますか、なんといいますか…」

「これって…」


 見覚えのある包み紙と形。


「お詫びです。これでチャ…えっと、許してください!」

「あの、本当に気にしてないので…」


 写真にはもう慣れてしまったというか、ネットに顔写真は載ってしまっているので、もう気にしても仕方がないというか。

 こんな風に大袈裟に、お詫びの品とかを渡される方が困ってしまう。


「ほら、気にし過ぎって言ったし」

「多々里さまの言葉を疑うのかー?」

「うっ」


 2人からも言われたことで納得してくれたようだった。


「ウチら言ってたのにずっといくいく言ってうるさかったんだよね」

「カラオケ半分残ってたし」

「XXで見た人のいた報告で飛んできたからね」

「曲の途中。 馬鹿でしょ?」

「あはは…」


 XXは多くの人が使用しているSNSの1つだ。

 そこで、俺の居場所が分かったってことらしい。


「てか、ウチらともあり?」

「はい?」

「撮っていい感じ?」

「あぁ、大丈夫、ですけど…」

「まじか、神じゃん」

「自慢できる」

「ちょ、ちょっと…!」

「おねーさんも入れていいですか?」

「ご自由にどうぞ」

「あざす」


 『さー』さんがスマホを構えると、『るー』さんが止めに入る。それを見た『ひー』さんは、ニヤリと笑った。


「奢りなし」

「え?」

「代わりにるーだけ変顔で」

「え…え?」

「撮るよー、3、2…撮った」

「ど?」

「んー、もっかい」

「うい」

「…また?」

「るーは別パターンね」

「え!?」

「3、撮った。るーの顔を百万点」

「欲しい送って」

「あい」


 上手く撮れたらしく、『さー』さんがスマホを操作すると、『るー』さんと『ひー』さんのスマホが震えた。

 そして、『さー』さんがこちらを向く。


「IDとか、連絡先、いい?」

「は、はい」


 スピード感に驚きつつも、『さー』さんとIDを交換する。 すると、先程撮った写真が送られてきた。

 ポーズを決める『さー』さんと『ひー』さん、無表情の巴と…自分の戸惑っている顔はアレだけど、戸惑いつつも頬を潰したり舌を出している『るー』さんは、確かに上手く撮れていた。


「ウチも欲しい。いい?」

「はい、大丈夫です」

「あの、私も…」

「はい」


 3人とIDを交換することとなったが…


「あの、『さー』…さん?」

「おー、いきなりじゃん? ん? あ、わからん感じ?」

「名前言ってないじゃん、誰って話してた?」

「すみません」

「や、悪いのウチらだし」


 『さー』さんはスマホを置く。


「えっと、ウチは米恋こめこいさくね」

「ウチは画杭連がくいつろひたりだよ」

「わ、私は瀬戸鳥せとどり琉兎るうです。ごめんなさい、名前も言わずに…」

「多々里珠音です」

「多々里様の護衛の、前之園巴です」


 自己紹介をし合う。


「別中だけどよろしく。あ、さーのままでいいよ」

「ウチもひーで」

「じゃあ、私も…」

「わ、わかりました」

「今更敬語なくね?」

「ね」

「…わかった、よろしく」


 丁度、頼んでいたものが届き始め、それらを食べながら話を続けた。



⇆⇆⇆



「『ねー』はこの後予定あんの?」

「元々の用事は済んだから、帰る予定」


 呼び方は『ねー』になってしまった。

 巴がおねーさんと呼ばれていたため、珠音から『ねー』になったらしい。

 若い子は良くわからない。


「続き行く?」

「ごめん、あんまり遅くなると心配かけちゃうから」

「あー…確かに」

「男の子だもんね」

「じゃあ、次いつにする? ウチらここらへん結構来るけど」


 初対面だったけれど、3人との会話は思いの外弾んだ。

 途中、3人共2年生ということが発覚したり、奢り奢られの話など色々あったが、楽しい時間を過ごすことができた。


「はぁはぁ…! 男…! 男だっ!!」



ーーーーー


お知らせ


今週から投稿を再開したばかりですが、12月・1月は投稿頻度が減る&不定期になります。


時間が取れれば投稿しますのでご了承ください

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