第34話 興味を持って

「あの、愛子さん」


 夕食作りを手伝っている最中、考えていたことを伝えることにした。


「アルバイトを始めようと思うんですけど…」

「…アルバイト?」

「はい」


 小田原さんにオススメされたアニメの『フリーガンシリーズ』は、配信サイトで見れるようだった。


「…中学生は、アルバイト出来ないわよ?」

「あの新聞配達とか…」

「その前に、どうしてアルバイトをしようと思ったのかしら?」


 愛子さんにクラスメイトにおすすめされたアニメを見るためであることを説明した。


「? 珠音くんの口座にお金は入っているでしょう? それくらいなら私が出しても良いし」

「その…趣味に使うお金なので」

「あのお金は自由に使っていいはずよ?」

「いつか必要になるかもしれないので、無駄遣いは…」

「…」


 愛子さんは包丁をまな板の上に置き、壁に背中を預けて目を閉じた。腕を組んで少し考え、口を開いた。


「…わかったわ」

「ありがとうございます」

「でも、珠音くんが働く場所は私が探します」

「え、それくらい自分で」

「私が信頼できる所を探しておきます。それ以外は許可できません」

「はい…ありがとうございます」


 有無を言わせないといった様子の愛子さんに返事をする。それを聞き、愛子さんは巴の方を見る。


「巴さん、いいかしら?」

「…は、はい。珠きゅんの決めたことですから」

「…そうね」


 愛子さんはこちらに近づき、まっすぐに顔を見つめてくる。


「珠音くん」

「はい」

「普通の男の子はアルバイトなんてしないわ。お金は十分に持っているし、そのアルバイトをやりたい動機以上に世の中は危険で…」

「…」

「…いえ、そうね。…私が言いたいのは、気をつけてほしい。それだけよ。…とりあえず、アルバイトを始めるまでは私が払いましょうか」

「いえ、俺が」

「いいのよ。待たせるのは私のせいだから。そのサブスクの申込みはご飯の後でいいかしら? 2人を待たせることになっちゃうわ」

「すみません、料理中に」

「…いいのよ」



⇆⇆⇆



「見学の時、騒がしくてごめん」


 夕食を食べ終え、お風呂を済ました後、いきなり優子に謝られる。


「部長も変な先輩だけど、悪い人じゃないから」

「うん、大丈夫。こっちこそ部活の邪魔してごめん」

「別に…珠音のせいじゃないから」


 今日の優子はペンギンのパジャマ着ていて、頭部分を模したフードを触り、少し視線をそらしながら言う。


「でも、もし弓道部に興味を持ったら、先輩達から守るから、それは安心して」

「あはは、ありがとう」

「…ところで、本当にアルバイトするの?」


 優子、そして喜子ちゃんも、夕食の時にアルバイトをすることを話したため知っている。優子も少し驚いていたけれど、喜子ちゃんは驚くと同時にすこし悲しそうな顔もしていた。アルバイトのない日は一緒に遊んでほしいと伝えると、しぶしぶ納得してくれていた。


「うん。毎日限界までするつもりはないけれど」

「当たり前でしょ…サブスク代のためなんだっけ?」

「そうだね。見たいアニメがあって」

「お金はあるって聞いたけど」

「将来のために貯めておこうかなって」

「サブスク代って大した金額じゃないでしょ」

「あはは…でも、趣味というか娯楽のためだから。それくらいは自分で稼がないと」

「それで今危ない目にあったら意味ないでしょ」

「気をつけるね。心配かけてごめん」

「もういい。おやすみ」


 少し不機嫌になってしまった優子を見送り、俺と巴は部屋に戻ることにした。



⇆⇆⇆

 


「どれを見ればいいんだろう…?」


 サブスクへの申込みも終わり、『フリーガンシリーズ』を検索してみたが、10個以上ヒットしてしまう。

 説明欄を軽く流し読みしていくと、『戦場のフリーガン』というものが、1979年の放送と書いてあり、一番古いようだった。


「これからかな?」

「ど、どうでしょう…?」


 巴も詳しくないようだった。


「…あ、聞けばいいのか」


 時計を見れば9時半に差し掛かった所。

 まだ起きてるかな?


 スマホからメッセージを開き、その友人欄から『小田原凛理』の名前を見つける。


『こんばんは。今忙しいですか?』


 メッセージを送ると、すぐに返信が戻ってきた。


『多々里くんですか?』

『うん、少し聞きたいことがあって』

『聞きたいことですか?』

『今、フリーガンのアニメを見ようと思ってたんだけれど』


 小田原さんからの返信が途切れる。

 文章の途中だと思ったのかもしれない。


『どれから見れば良いのかわからなくて、戦場のフリーガン、ってやつからでいいのかな?』


 既読はつくものの、返信はこない。

 もしかして忙しかったのだろうか、と考えているとスマホが震えた。


『考える時間をください』

『わかりました』



⇆⇆⇆



『多々里くん、待たせてごめんなさい。まだ起きていらっしゃいますか?』

『起きてます。時間取らせちゃってこちらこそごめんなさい』

『大丈夫です。それで、フリーガンについてですが、かなり迷いましたが、最新作の『空々くうくうのフリーガン』をおすすめします。まだ3話までしか放送していませんので、すぐに追いつけると思います』

『早速見てみます。時間をとらせてごめんなさい』

『いえ、こちらこそごめんなさい』


 小田原さんとのメッセージのやり取りを終え、早速検索してみれば、小田原さんの言うように現在は3話までしかないようだった。

 1話は25分位のようだし、今日中に見終えることができそうだ。

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