第33話 あやまり
「ほんとに多々里くんだ!」「見学に来てくれたの?」「やっぱり優子ちゃんのこと見に」「ようこそ弓」「峰紀さんと一緒の」「あの、よろしければ」「ちょ、弓下ろ」「髪直して」「来てくれないかと」「初めて見「弓道に興味あるの」「私も付いて」「危ないって!」
「あの、先輩たち…珠音も困ってるので…」
先程まで弓を構えていた優子は、少し汗ばんでいた。初めて会ったときも和服を着ていたが、今は弓道着、というのだろうか、白い上着に袴を着ていた。
「珠音、急にどうしたの」
「色んな部活を見学させてもらってて…」
「…そう、私に用じゃなかったんだ」
優子は、勘違いしてた、と縛った後ろ髪を撫でる。そんな中、一人の女の子が優子の肩に手を置いた。
「多々里君だよね? 優子ちゃんもいるし、弓道部に入るのはどうかな?」
「部長…」
「はじめまして、私は3年の
「はぁ…よろしくお願いします」
手を握り返す。
片毘先輩も部活中ということもあってか、手のひらは温かく、少し汗を帯びていた。
「…」
「あの?」
「じ、冗談のつもりで…」
片毘先輩は顔を赤く染めながら手を離し、その手のひらを見つめていた。そして、何かに気がついたかのように顔色を変え、ゆっくりと…巴の方へと視線を移した。つられて見れば、そこには無表情の巴。
「す、すみません! その…」
「私に謝る必要はありません」
「多々里君ごめんなさい!」
「ちょっと!? やめてください!」
謝りながら土下座へ移行していく片毘先輩を止める。
「別に手くらいなら…」
「じゃあ私も触りたいでーす!」
「え…?」
別の女の子がそう言って手を挙げたのを皮切りに、同調する声が広がる。
「はい、皆んな静かにして!」
「…元々は部長のせい」
「静かに!」
片毘先輩の声に、弓道部の子達は静かになった。それを確認した後、こちらに向き直る。
「こほんっ、えー。凄い男の子がいるんだね、うん、勉強になりました。」
「え、ええ」
「じゃあ、仕切り直させてもらって…弓道部はどうかな? 見ての通り歓迎するけど」
「そう、ですね…」
「優子も嬉しいと思うし?」
「部長!」
「あはは、ごめんて」
片毘先輩は優子のジト目を流した後、今度は愛衣さんと綺羅さんの方を向いた。
「そこの2人は部活には入ってるの?」
「い、いえ、入ってません」
「入ってないでーす!」
「良かったら2人もどうかな? 今年は1年生も多めだから、すぐに馴染めると思うよ?」
「放課後は遊びたいのでごめんなさい!」
「私も塾があるので…」
「…あらら、残念。気が変わったら気軽に声をかけてね? じゃあ、部活見学だったね。優子ちゃん、教えてあげてくれるかな?」
「…はい」
⇄⇄⇄
「じゃあ、次は…ここから近いし、水泳部に行こう!」
優子に道具の説明や実際に矢を射る姿を見せてもらった後、ちょうど顧問の先生が戻ってきたため、お礼を言って弓道場を後にしてきた。
「水泳部ってことは、プールがあるんだ?」
「授業楽しみだよね!」
「私は日焼けするし嫌だけど」
「綺羅ちゃんは泳げないもんね」
「日焼けするから嫌なの」
「珠音くんは? 泳げる?」
「泳げる、はず?」
もう何年も泳いでいないけれど、学校の授業では泳げていたし、大丈夫だろう。
「男の子ってどこで練習するの?」
「えっ…普通にプールとか?」
「そうなの!? え、実は男の子がいたかもしれないってこと!?」
「あ、あはは…」
確かに、どこで練習するのだろう?
小学校には通わないって聞いたし、家での練習くらいなのだろうか?
⇄⇄⇄
「予備の水着あるから、泳いでみない?」
またも囲まれ、そんなことを提案された。
今回は泳いでいる人もいるだろうし、驚かせるのも悪いと考えて、周りから見るだけにしようとしていたが、まず水泳部の1人に見つかり、他の水泳部の子に伝えられ、最終的には顧問の先生に気が付かれ、手招きされて今に至る。
「男子の水着姿みたい!」「み、見られてる」「やっぱり泳いでみないと」「私の水着貸すよ!」「男の子エキス」「写真いいですか?」「泳げないなら私が」「まずはレクリエーションから」
「…」
学校で着る物とはいえ、水着の子たちに囲まれるのは気まずさを感じてしまう。俺の他にもいてくれるから多少はマシだけれど…
「すみません、普段どういう活動してるのか教えてほしくて」
「じゃあ、顧問の私が教えますね〜」
「はい、お願いします」
顧問の先生も水着を来ていた。
勿論、学校の水着ではなく、競泳水着だった。
「そうね、まずは準備運動をしますね〜。その後は、もう入水しちゃって、身体をほぐしていきますね〜。その時は、いくつかのーー」
⇄⇄⇄
「おかえり、お兄ちゃん! 巴ちゃん!」
「ただいま」
「た、ただいま帰りました…」
「あれ、プールのにおい?」
「…うん、今日は水泳部の見学をしてきてね」
水泳部の顧問の先生は、実際に泳いでいる水泳部の子を示しながら説明してくれた。
そこで、張り切って泳ぐ水泳部の子。
力が入れば、水飛沫は高く上がる。
…一瞬で抱えるんだから、巴はすごい。
あと、一日に2回も土下座を見ることになるなんて思わなかったし、ただ水が飛んだだけと言っても、なかなか顔を上げてくれず、説得するのに苦労した。
その時の状況を思い出しながら、少なくとも今後一生は、水着で土下座されるなんて状況に出会うことはないだろうと思うのだった。
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