第32話 部活

「…」


 2時間目の英語の授業が終わった。

 文法どころじゃなく、単語も全然覚えていなかった。使わないとやっぱり忘れちゃうんだな…


「珠音くん、図書館行くんでしょ? 私も行こっかな〜」

「愛衣が行くとうるさいから」

「綺羅ちゃん!? 私だって図書館では騒がないよ!?」


 賑やかな2人を見ていると、その向こうで小田原さんが戸惑っている様子が見えた。2人に断りをいれて、小田原さんの下へ向かった


「ごめん、小田原さん。待たせちゃって…」

『いえいえ、時間大丈夫ですか?』

「うん、案内よろしくお願いします」


 後ろについて廊下を歩いていたが、小田原さんは何度もこちらを振り返って、前に向き直るということを繰り返していた。



⇆⇆⇆



『これが多々里くんの利用者カードです』

「ありがとう」


 小田原さんからハガキ位の大きさのカードを受け取る。そこにはクラスと名前が印刷されており、その下には本の題名や日付などを書く欄があった。


『借りたい本がある場合は、本の題名を書いてカウンターまで持ってきてください。誰もいなかったら司書室に声をかけてもらうか、カウンターのベルを鳴らしてください』

「あの、小田原さん。普通に会話してもらっても大丈夫だよ?」

「…そう、ですね。他には誰もいませんし…」


 流石に長文になると書く時間も長くなるし、わざわざメモ帳を使わせてしまうのも申し訳ない。


「俺としても普通に話せたほうが嬉しいかな」

「…」


 小田原さんは俺の言葉に少しだけ苦笑いを浮かべる。


「いえ…調子乗ってると思われちゃうので」

「え…?」

「その…教室で、私みたいな陰キャが話しかけると…『陰キャが調子乗るな』みたいな」

「…言われるの?」

「いえ、言われたことはありませんけど…」

「そういえば…」


 俺も陰キャ、と言われたことがあった。

 小田原くんを好きな女の子を好きな男の子がいて、その男の子に俺と小田原くんが言われた言葉だ。

 確か、活発な子と大人しい子、みたいな意味だったような。


「あの…?」

「…いや、小田原さんって漫画が好きなんだよね?」

「お、覚えててくれたんですね…」

「一昨日のことだし忘れないよ」


 それに、少し印象に残った事があった。


「創作活動って、漫画を描いてるの?」

「そ、それは…」


 小田原さんが汗を流し始めた。なんか見たことあるな。


「あ、あまり他の人に言わないでいただけると…思わず言ってしまっただけなので…」

「うん、言わないようにする」


 そういえば、小田原くんも描いた小説を俺には見せてくれていたけれど、他の人にはあまり見せたりはしていなかった。


「じ、実は漫画と小説…えっと、硬いやつじゃなくて、もっとライト…な感じの…」

「…小田原さんってアニメとか好き?」

「うっ!」

「大丈夫!?」


 小田原さんが胸を抑えて崩れ落ちる。慌てて近寄ろうとすれば、小田原さんの手で止められた。


「だ、大丈夫、です。ちょっと火力が…」

「えっと?」

「…いえ、そうです。私は二次元が好きな陰キャオタク女です」

「そうなんだ、実は俺も少し興味があって」

「…気を遣わなくても」


 そういうわけじゃない。

 アニメや漫画など、今度は、ちゃんと知っていきたいと思っていたのだ。


「そういうものを…これから好きになりたいと思ってたんだ」

「…」

「良かったら、小田原さんのおすすめも教えてほしい」


 小田原さんは少し顔を俯かせ、口を開いた。


「…わかりました」

「ありがとう、小田原さん」

「フリーガン」

「ふりーがん…」

「アニメのフリーガンシリーズは、おすすめ、です…」

「分かった。早速、今日から見てみることにするね」

「…はい」


 その後は小田原さんが次の授業の準備があるらしく、すぐに教室へと戻ることになった。



⇆⇆⇆



「綺羅ちゃん、あそこだよね?」

「そのはず」


 放課後、再び愛衣さんと綺羅さんに部活動の案内してもらっていて、今は弓道場に向かっていた。


「峰紀優子さんって、校長先生の娘さんだから、入学式の時に話題になったんだよ!」

「珠音くんは家族なんだから知っているでしょ…」


 弓道部の見学に行こうと思ったのはもちろん、優子が所属していると聞いたからだった。それに加えて、弓道というものに触れてこなかったので、興味を持ったのもある。

 下駄箱に靴を入れさせて貰う。

 閉じられた扉の先から人がいる気配がする。


「入って良いのかな?」

「部活の見学だし…多分」


 ノックをしても反応はないため、少しだけ扉を開く。その先では、弓を構えている人が数人おり、その中には優子もいた。


「お、男の子だぁー!!!」


ーーーーーーー


今回の登場人物


・小田原くん

 本名は小田原元人おたわらげんとさん。

 珠音君の中学からの友人であり、唯一の友人だった人。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る