第28話 スポーツ女子、マネージャー男子

「今日は運動部回ろう!」


 本日最後の授業が終われば、愛衣さんが話しかけてくれる。


「私達はいいけど、珠音くんは大丈夫?」

「ありがたいかな」


 こうやって放課後にわざわざ案内を…


「…そういえば、2人って部活には入ってないの?」


 クラスメイトの様子を見れば、ほとんどの人が何らかの部活に所属しているように見える。


「私達はやってないよ」

「そうそう、部活の時間は遊びたいからね!」

「…いや、私はそんな理由じゃないから」


 綺羅さんは塾に通って、護衛の資格取得のために勉強しているらしい。


「ところで、どこから回ろっか? 昨日と違って場所もバラバラだし…」

「珠音くんは何か興味のある部活はある?」


 身体を動かすことはそこまで苦手ではないものの、スポーツに興味があるわけではなかった。


「…何があるかわからないんじゃない?」

「確かに! じゃあ…外と体育館ならどっちがいいかな?」

「…じゃあ、体育館かな」


 ちょうど行ったこともないし、案内してもらおう。


「じゃあ、しゅっぱーつ!」



⇆⇆⇆

 


「おぉ…」


 体育館へ近づけば、中から掛け声や靴の擦れる音が聞こえてくる。


「もう始まっちゃってるね」


 重い扉を開けて中を覗くと、大勢の女の子と、バスケットボールやバレーボールが見えた。

 そして、扉の近くには先生らしい女性が立っており、目があった。


「すみません、見学って大丈夫ですか?」

「…転校生の、多々里くんだったか。見学は構わないが…ここだとボールが飛んでくることも多いから、そうだな…」


 女性の指差す先には扉がある。


「あそこの扉からギャラリーに上って見たほうが安全だろう」

「ありがとうございます」


 体育館の端を通り、その扉へ向かう。

 歩きながらで部活の様子を見ていると、結構気が付かれてしまう。こんな風に移動する人がそもそも珍しいのかもしれない。

 既に邪魔になってしまっているし、少し急ぎ、扉を開ければ、中には階段があった。


「こんな風になってるんだね!」

「私も初めて来た」


 中学の時も確か、体育館には上には通路があったけれど、行った記憶はなかった。こんな風になってたのか。

 階段を登れば、下から見えていた通路へと繋がっており、そこからは体育館の様子がよく見えた。


「すごーい! こんな風に見えるんだ!」

「ここならボールは飛んで来なさそう」


 体育館では、バレーボールやバスケットボールが飛び交っている。それに加えて、ステージ上にも集まっている人たちがいる。


「なんというか…応援したくなる場所だよね!」

「…そうだね」


 応援するとなったら、最適な場所かもしれない。

 見やすいし、邪魔にならないだろうし。


「してくれてもいいんだよ?」

「あはは、確かに…」

「…」

「…」


 いつの間にか見知らぬ女の子が立っていた。

 驚いて少し離れる。

 愛衣さんと綺羅さんも目を見開いていたが、巴は驚いている様子はないので、気がついていたらしい。…それなら伝えてほしいけど…


「えっと…?」

「こんにちは、君が噂の転校生の男の子だよね?」

「…はい」

「私はバレー部3年の鳥栖末とすすえれい。よろしくね」

「多々里珠音です。よろしくお願いします」


 自己紹介を終えると、鳥栖末先輩は手すりに身体を寄せ、下を覗き込むように見る。

 バレー部の人たちから、サボるなーという声も聞こえてくるけれど、全く気にした様子は見られない。


「あの…」

「ん?」

「何か用だったのでは?」

「あー、そうそう。バレー部のマネージャーやってくれないかなって誘いに来たんだった」


 鳥栖末先輩は手すりから手を離し、こちらへ向き直った。


「マネージャー?」

「私一人じゃ大変でさー? 手伝ってくれると嬉しいなって」


 駄目かな、上目遣いでと首を傾ける先輩。

 

「男の子のマネージャーだなんて、他の学校のバレー部に自慢できるし、士気も上がると思うんだよね」

「鳥栖末先輩はマネージャーなんですね」

「あ…あー、えっとね…」


 鳥栖末先輩は少し身をかがめると、右足のジャージを捲った。

 その下には、包帯を巻かれた足。


「怪我しちゃって、試合に出れないからマネージャーやってるんだよね〜」

「…すみません」

「いいっていいって! あ、でも〜、マネージャーになって私の怪我を慮ってくれてもいいよ?」

「そ、それは…」


 冗談だよ、と笑いながら再び手すりに身を寄せる先輩。


「じゃー、勧誘も失敗しちゃったし、戻ろっかな。またね、多々里くん」


 手をプラプラと振りながら、階段を降りていく。

 その動きからは、怪我を感じさせない。


「珠音くんってやっぱり色んな人に話しかけられるんだねー?」

「そ、そうだね…」

「先輩に私が話しかけられたのかと思ってびっくりしちゃったよ!」


 だから愛衣さんは黙っていたのか?

 愛衣さんでも、先輩相手だと緊張するのだろうか。


「あ、九代くしろちゃんだ」


 愛衣さんの目線の先には、クラスメイトの九代おりさんが座っていた。休憩中らしく、同じバレー部員らしき女の子と話していたが、その子がこちらに気づき、九代さんもつられてこちらに気がつく。


「…あはは」


 気まずくなり手を振れば、九代さんは一瞬固まったあと全力で手を振り返してくる。肩を痛めてしまいそうだ。


 その後は、バレー部は試合形式の練習に移り、それを少し見ることにした。バスケ部には2人クラスメイトがいたが、2人とも試合中ということもあり、邪魔をしないように体育館をあとにした。

 ステージ上に集まっていたのは演劇部の人たちで、バレーボール部やバスケットボール部に負けないくらい体育館中に響き渡るような声で演技をしており、その真剣さが伝わってくるようだった。

 …クラスメイトの成演なりえ真希まきさんが噛んでしまったとき、ずっとこちらの方を見ていて、恐らく俺が緊張させてしまったのでメッセージで謝っておこうと思うのだった。




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