第27話 普通に特別
「…これが普通?」
「は、はい…」
…一先ず、さっきまでの話が直接的になるのは、15歳からだ。後…2年はある。その時までに、どうにか…納得するしかない。それが当たり前で、他の男の人も通ってきた道なのだろうから。
クラスメイトは教室で授業を受けていたため、教室に戻ったときは全員が席に座っていた。
少し早く出てきすぎたのだろう。
廊下から、窓を通して教室の中を眺める。
黒い髪の子も多いが、茶髪・金髪の子もいる。染めているのだと勝手に思っていたけれど、生まれつきの子もいるのかもしれない。黒髪であってもハーフの子かもしれないし。
肌の色も…はっきりと黒人のような肌の子がいなかったから気にしていなかったけれど、真っ白な子から小麦色の子もいて、それも日焼けではなく遺伝なのかもしれない。
…いや、正直そこは特に気にならないか。働いていたときも2世や外国人から来た人と関わることはあったし。
「まあ、仕方ないのか」
「た、珠きゅん?」
「なんでもない。知らないことが沢山あって…驚いた、だけだから」
⇄⇄⇄
「あの、ごめんね多々里くん、ちょっといいかな?」
チャイムが鳴り、教室の扉に手を掛けたところで、すぐさまこちらへ向かってきた陽山さんに話しかけられた。
「う、うん。大丈夫だけど。教室入っていいかな?」
「あ、も、もちろん」
教室に入り、自分の席に座る。
「あ、珠音くんおかえりー!」
「おつかれ」
前の席に座っていた愛衣さんと綺羅さんも話しかけてくる。
「って、委員長? どうしたの?」
「き、吉方さん…その、多々里くんに少し聞きたいことがありまして」
「聞きたいこと…あー!」
愛衣さんは勢いよく立ち上がると、自身のスマホをこちらへと向けてくる。
「この、『よくわからないのてわ、よけばおしえなくたまさい』ってどういうこと?」
「あー…」
それは、愛衣さんから送られてきた『質問』への返答だった。
昨日の夜、クラスメイトの名前を覚えた後、少しでもと思って返信をしていたのだが…
「ごめん、多分寝ぼけてて…」
「だよねー! 時間見たら深夜だし、そう言うことなのかもなーって思ってたんだけど、朝聞こうと思ってたの忘れちゃってた! 思い出せてよかったー」
「そういえば…私のは返ってきてなかったっけ」
「そのことで、聞きたいことがありまして…」
陽山さんは、少し周りを気にしながら、声を抑えて聞いてきた。
「その、迷惑な質問とか、ありましたか?」
「え?」
「もしくは、その…返信したくない相手ですとか…」
「…そういうのはなくて、ちょっと寝落ちしてしまったといいますか…」
確かに返信をしないのは印象が悪いか。
メールとかだったらすぐに返すのが普通だったし。
「ごめん、できるだけ返すようにする」
「あ、その…無理にする必要はないからね? ちょっと、その…」
陽山さんは、再び周りの様子を伺うようにしていた。つられて周りを見れば、結構なクラスメイトがこちらを意識しているように見える。
それも普通かもしれないけど。
「…私には返してくれないのに、ずるい!」
いきなり近くから聞こえたその言葉に思わず振り向く。
その声を発したのは、綺羅さんだった。
綺羅さんは椅子に座りながら、両手で顔を覆い、顔を俯かせていた。
「き、綺羅さん…?」
呼びかけるも、何の反応も返ってこず、少し不安に思いつつあると…
「みたいな?」
綺羅さんは顔をあげると、頬杖をつき笑った。その視線は陽山さんへ向けられている。
「返信が来た、来てないの差がーってことでしょ?
「あはは…」
陽山さんは気まずそうな表情をしていて、綺羅さんが言ったことが真実であると言外に伝えていた。
「今日中には頑張るので…」
「いや…私こそごめん」
「え?」
急に綺羅さんに謝られる。
「謝られることなんて…」
「いや、ほら。写真の交換とか、あの時はテンション上がって? 提案しちゃったけど、強制っぽくなったし」
「そんなことは…」
「ああいうのって普通は、個人個人で仲良くなって…仲良くなろうと思ってからの話だったな、って」
…確かに、提案された時は似たようなことを思った。俺が自撮りをしない人間だったと言うこともあるけれど、同じクラスになっただけで、相手に何かをしてもらうように頼むのは、少し…厚かましいような気がしたのだ。
「そ、それなら、私のせい、だよね。全員分の友だち登録させちゃったし」
「だから…珠音くんが嫌なら、一旦クラスメイトの登録は削除しても…」
「それはしないよ」
綺羅さんの話を遮る形になってしまう。
「同じクラスだし、沢山の人と仲良くなれたらって思う部分はあったけど、多分、きっかけを作るのは難しかったと思うから」
いきなり一人一人にメッセージのID交換を頼むことはできなかったと思う。仲良くしたいという気持ちはあっても、今までそんなことはしたことがなかったから。
「それに、そのおかげでクラスメイト全員の名前は覚えられたから」
「え、全員?」
「うん。…まあ、そこまででほぼほぼ力尽きたんだけど」
「いや、充分…というか、凄いと思うけど。愛衣なんてまだ覚えてないんじゃない?」
「お、覚えてるよ!?」
「…結構間違えてなかった?」
「うぐぐ…」
愛衣さんが悔しそうな顔をしていた。
意識しないと覚えられないということは、中学時代、就職してからも学んだことだ。
「とりあえず、その陽山さんも気にしないで…」
「そう、ですか。あの、これってクラスで共有しても?」
「え…?」
「その、返信が返ってこなくて不安な人がいて…」
「…うん、大丈夫」
なんとなく既に結構な人に聞かれてしまった気もするけれど。
ありがとうございます、といって離れていった陽山さんを見送り、姿勢を戻せば、綺羅さんがニヤニヤしていた。
「えっと…?」
「抜き打ちテスト! あの子の名前は?」
「ひぇっ…!?」
綺羅さんの指し示した方を見ると、そのクラスメイトは急なことに驚いたのか、近くにいたクラスメイトに助けを求めていた。
「…
「すぅ…」
「…正解!」
「え、大丈夫…?」
「大丈夫大丈夫。あずきじゃなくてこまめ、よく覚えてたね」
小豆さんは、写真では黒髪の三つ編みで、目がぱっちりした子だった。実際に見ると、その通りではあるのだが、特徴としては、多分このクラスで一番背が小さいんじゃないだろうか? 印象に残りやすい子ではある気がする。
「次はー?」
バッといくつもの手が上がる。
なにこれ?
「じゃあ〜、あの金髪縦ロールの子…の隣のリボンの子!」
「わ、私!?」
「…
「う、嬉しいです…!」
「…」
綺羅さんと話していただけだったのに、いつの間にか声は大きくなり、当然のようにクラスメイトからも返事が返ってくる。
「次は〜?」
「はい! はい、はい、はい!!」
「いや、愛衣さんは流石に良くないかな?」
「苗字は!?」
「…吉方さん」
「多々里珠音くん、正解っ!」
その愛衣さんの満面の笑み、クラスメイトの「私がまだ呼ばれていませんわよーっ!」という声を聞き、教室が笑いに包まれる。
改めて、このクラスとは仲良くなれそうだと思えたのだった。
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