第24話 大量・大切・メッセージ
「こんばんは、珠音。昨日ぶりですね」
電話の相手は美里さんだった。
「まずは、入学おめでとう。スピーチ、とってもかっこよかったですよ」
「かっこよかった…? え、見てたんですか?」
「とは言っても、中継で、ですが」
「…中継?」
「ええ、テレビの人たちが入っていたでしょう?」
し、知らない…
え? 俺のあの様子、放送されてたってこと?
そういうのって本人に確認とか来ないのか?
「…もしかして、テレビ見てなかったのですか?」
「はい」
峰紀家では、夕食の時にテレビは見ないらしく、俺も気にしていなかったが、まさかそんなことになっていたとは。
これからは情報収集も兼ねて見るようにしよう。
「そう…でも心配することはありません。今まで何人かの男の子のスピーチを見てきましたが、その中でも一番かっこよかったですよ」
もちろん贔屓目も入っているでしょうが、と美里さんは、続ける。
「ありがとうございます。テレビのことを知っていたら、もっと緊張していたかもしれません」
「そうでしたか、そのように考えて伝えないようにしていたのかもしれませんね」
隣りに座っている巴の顔を見れば、よくわかっていなさそうな表情で首を傾げていた。でも、結構気を使ってくれてるしな…
「そうかもしれません」
「それと…前之園さんとも仲良くやっているようですね」
言われて思い出す。
朝の集会の様子が放送されていたということは、巴に支えられた場面も当然映されたということだ。
「…はい。とっても助かってます」
「間違いない選択でしたね」
美里さんのクスクスという笑い声が聞こえてくる。巴に護衛を頼んだのはたまたまだったけれど、出会ってまだ2日だというのにかなり助けてもらっている。
「とと、そうでした。本題を忘れていました」
私としては珠音との会話が本題なんですがね、と言いながら続けた。
「実は大臣から頼まれ事をされまして」
「大臣…」
美里さんが秘書として働いている大臣…たしか総務大臣であるとは聞いていたけど…
「『孫と仲良くしてほしい』と」
「…はい?」
「実は珠音のクラスに在籍しているようでして」
え、そんなお偉いさんのお孫さんがいるってこと?
失礼…は、まだしてないはずだけれど…いや、認識してない時点で…?
「…自分の孫のいるクラスに男の子を迎えるなんて、公私混同だ、と言いたい気持ちはわかります」
「え…? はい」
「私も普段であればそう言いたいところなのですが…大臣は珠音のことでかなり尽力していただいてまして…」
美里さんが言うには、警察、つまり交番で出会った陸田さんと南埜さん、そして警視総監などへの情報統制や戸籍の追加、美里さんの入院と男児の公表の辻褄合わせなど、様々なことをやってくれた人らしい。
「それは…俺からもお礼を言ったほうがいいですよね」
「いえ、私からも伝えておきます」
「でも…」
「こんな『お願い』をしてきている時点でチャラ、です」
まあ、美里さんがそういうのなら、実際に会う機会があったらお礼をするくらいにしようと納得する。
「それと、無理に仲良くする必要はありません。珠音が負担に感じるようでしたら、それ以降は一切の関係を断っても構いません」
「いえ、そこまでは…クラスメイトとは出来る限り仲良くしたいと思ってるので」
珠音は優しいですね、という言葉に照れながらも、気になっていたことを聞く。
「それで、その…名前って…?」
「あぁ…伝え忘れていましたね。お孫さんの名前は
「…小田原」
メッセージの友人欄を探すと、そこには『小田原凛理』という名前。他に小田原という苗字のクラスメイトはいないようだった。
「今日、少しだけ話しました」
「そうでしたか。改めてになりますが、強制ではないですから、無理はしないでください」
「わかりました、美里さん」
その後は、少しだけ授業などの話をした。
「では、私はそろそろ仕事に戻ります」
「すみません、長く時間を取らせてしまって」
「いえ…『息子』との時間ですからね。しかし、子供扱いするのも嫌でしょうし、お互い頑張りましょう」
「…はい、また」
通話を終える。
「さ、咲森さんから、ですよね…?」
「あ、うん。ごめん、長く話しちゃって」
「い、いえいえいえ…楽しそうだったので、えへ」
「巴のことも褒めてたよ」
「ほ、ほんとですか? よ、よかったです~…」
「ふぁ…」
巴の絞まらない顔を見ていたら、欠伸が出た。
「ね、寝ます、か?」
「いや、ちょっと…」
スマホには、クラスメイトからの自己紹介や質問が届いている。というより、現在進行系で増えている気もする。
質問に今夜中には全部答えられないとしても、自己紹介してくれているのを未読スルーしたままでは、申し訳無さで眠れない。
「顔と名前だけでも…」
⇆⇆⇆
「…」
目を覚ますと、胸や足のあたりに重みがあった。
目を開けると、昨日の朝とほぼ同じ光景。
「巴」
「…」
「巴、朝だよ」
「ん…あっ…。ん!! お、おおはようございましゅ!」
「…おはよう」
寝相が悪いのはこの際いいとして、起きてすぐに目の前に人の顔があるのは驚くからやめてほしい。やめてほしいのだが…
「昨日、俺、寝落ちした?」
「は、はい…途中で、その、なので、ふ、布団に運びました」
「…ありがとう」
寝落ちして運んでもらっておいて、寝相がどうだとかは器が小さいだろう、何も言わないことにする。
「起きようか」
「は、はい!」
朝の支度を整え、朝食の手伝いをすることにした。
⇆⇆⇆
「お、お姉様の方が…でも…」「隣にいるの4組の峰紀さんでしょ?」「もう一本当たり!」「男だ男男男…」「はーい、皆さん立ち止まらないでー」「はねたりしてないよね、大丈夫だよね…」「おやおや、なんともまあ」「ウチ行ってみようかな」「飛び級したらワンチャン?」「私に返信くださいませんでしたわ…」「#実在男子#人生勝ち組」「おはよー、これなんの人だかり?」「私も3人目指そうかな」「見てたのは私の方だから」「私の運命の人」「朝練遅れちゃうよ〜…」「多々里く〜ん!」「ちょっと、アンタ話しかけてきなさいよ」「嫌われたくない…」「煽り散らかしてこよーっと」「私ここに転校したい…だめかなぁ?」「多々里様に祈りましょう」「ねぇ、あの人じゃない?」「つーか、無理やりやっちゃえば良くね?」「ゆ、夢じゃなかった…!」「皆さんおはようございます!」
「…」
「すごい人ね…」
優子、そして巴と登校。
大量の視線を感じるけれど、遠巻きから見られているだけだ。避けられているみたいだからやめてほしい。
「立っていても仕方ないし、行きましょ」
「…そうだね」
玄関へと向かい、それぞれのクラスの下駄箱へ靴を入れるため、優子と一瞬分かれる。
入学が遅かったということもあり、俺のクラス番号は、50音順に関係なく、最後ということになっている。そして、そこには…
「これって…」
「た、珠きゅん…す、凄い量」
大量の手紙。
封筒はシールなどで閉じられているものもあり、新鮮な感じがする。
「これって…とりあえず鞄に…?」
「て、手伝います!」
「すまない、少し良いだろうか?」
巴とともに手紙を鞄の中へ移していると、声がする。
しゃがんだまま、そちらの方へ振り向けば、そこに立っていたのは、1人のイケメンだった
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