第23話 登校初日が終わる

「…だからね、確かに珠音くんが何処にいるのかは分かっていたけれど、連絡はして欲しいのよ」

「申し訳ございませんでした」


 巴と共に帰ると、出迎えと共に愛子さんに注意をされる。

 中学生と聞けば、そこまで遅くはないのだが、数ヶ月前まで小学生だった子と考えれば、心配をかけてしまうのも分かるため、しっかりとお叱りを受けることにした。


「さて、玄関で引き止めちゃってごめんなさい。改めておかえりなさい、珠音くん」

「ただいま、愛子さん」



⇆⇆⇆



「あの…ごめんなさい」


 手を洗っていると、いつの間にか近くにいたらしい喜子ちゃんに謝られたが、心当たりがない。

 喜子ちゃんは頭を下げていて、その評定を伺うことはできない。

 タオルで水気を取り、喜子ちゃんの視線の高さまで目線を下げる。


「えっと、喜子ちゃん。ごめんね、なんで謝られてるのかわからないんだ」

「さっきの…お母さんに、お兄ちゃんがまだ帰ってないって」

「ん…?」


 詳しく聞けば、喜子ちゃんは俺の帰りを待ってくれていたらしい。しかし、学校が終わった後もなかなか帰ってこず、愛子さんに連絡した。

 それで、バレたのが自分のせいだから、と謝ってきたらしかった。


「こっちこそごめんね。喜子ちゃんにも連絡しておくべきだったね」

「ううん…」

「ご飯までなにかして遊ぼうか」

「宿題…」

「…喜子ちゃんは偉いね。一緒にやろうか」


 喜子ちゃんの方が宿題を先に終えてしまって、待たせることになってしまった。喜子ちゃんは偉いね…



⇆⇆⇆



「そういえば、珠音。今日の放課後は、吉方さんと宇賀さん?と部活を見て回ったんでしょう?」


 5人での夕食。

 その中で、優子が尋ねてくる。


「そうだけど、知り合いだったりするの?」

「いえ、弓道部の仲間から聞いただけ」


 優子は弓道部に入っているらしく、今日も帰ってきたのは夕食の直前だった。


「明日は運動部を見ようと思っているから、優子の部活の様子も見てみたいな」

「…そう。興味があるなら見学するといいわ。部員が増えることは喜ばしいことだし」


 弓道か…ルールなどもよくわからないが、とにかくかっこいいイメージがあった。


「ということで…明日も少し遅くなります」

「よろしい」


 愛衣さんに事前連絡。これを怠らないように。


「お兄ちゃんはどこに入るか決めたの?」

「まだかな…どんな活動をしてるのかわからない所も多いし」


 運動部はまだだし、文化部でも、未だよくわかっていない部活もある。それらを知ってから、入るのかも含めて考えようと思っていた。



⇆⇆⇆



「巴って学校だと静かだよね?」


 巴の背中を洗いながら、気になっていたことを尋ねてみた。

 

「そ、そうですか?」

「こう…話に入ってこない、というか」

「え…えぇ、はい。そう、ですね」

「やっぱり意識してやってたんだ?」


 もちろん、話しかけられれば答えはするのだが、例えば俺と愛衣さん、綺羅さんで話しているときは会話に入ってこなかったし、話題を振っても笑って流すことが多かった。


「ご、護衛なので。あっ、あまり珠きゅんのプライベートに、その…干渉しすぎるのは…」

「そういうものなのか? 護衛のルールとか?」


 聞いてみるが、巴は否定するように首を左右へ振った。


「私よりも珠きゅんと話したい人が大多数でしょうから…」

「そんなことないと思うけど…」


 湯船に浸かりながら考える。

 実際、綺羅さんは給食のときはなど、巴によく話しかけていた。


「た、珠きゅんは、そ、そんな風に、言ってくれますけど、ほ、他の子達はわからない、ので…私の存在無視していただければ」

「できないだろ。46時中、しかも今後何年って一緒にいるなら、普通に会話に入ってきてもらったほうが、俺としても気が楽だし」

「そ、そう、なんですよね…わ、わかりました。その、あ、明日から! 頑張ります」

「だから、言いたいことがあったら、すぐになんでも言ってほしい。遠慮なんてしないでくれ」

「…わかりました」



⇆⇆⇆



『好きな食べ物はなんですか?』


 これは、メッセージに届いた質問の一つ。

 他にも様々な質問などが送られてきていた。

 一つ一つ、出来るだけ真剣に答えていくことにする。


「好きな食べ物か…難しいな」


 特に好き嫌いなどはないため、回答に困ってしまう。


「ところで、巴の好きな食べ物は?」

「わ、私…ですか」


 俺の隣で、スマホの画面を覗き込むように見ていた巴にも聞いてみる。折角の機会だ。色々質問をして、巴のことを知ろう。


「わ、私は…ら、ラーメン、とか」

「ラーメンか…色んな味があって飽きないよな」

「はっ、はい。えへへ…べ、勉強が忙しかったときは、その…カップラーメンばかり食べてたので…」

「…なるほど?」

 

 カップラーメン。

 お湯を入れて数分待つだけで完成するのは、忙しい人にとってはとても良いものなのかもしれない。


「俺は…ツナ缶、とか?」


 俺も仕事をしているときにお世話になったものだが、味は嫌いではないし、何度も食べて飽きていないのだから、好きな食べ物と言って差し支えないだろう。


「次は…」


 次の人の質問に答えようとしたところで、スマホがなる。非通知からの着信が入った。


「もしもし」

「…珠音の携帯であっていますか?」

「…美里さん?」










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