第21話 部活動見学

「珠音くんは、どこから見てみたい?」


 愛衣さんからの質問を考える。


「どんな部活があるのか、わからないから…」

「あっ、そっか! じゃあ…」

「文化部からでいいんじゃない? 運動部はやってる場所がバラバラだし」

「確かに! 綺羅ちゃん頭いい!」



⇄⇄⇄



 2人に連れられて、文化部棟という場所にやって来た。この棟で、様々な文化系の部活が活動しているらしい。


「失礼しまーす!」


 愛衣さんがノックをした後、一つ目の部室の扉を開いた。


「ん? いったい、誰、は!? え、あっ…う、ウソ!?」

「だから言ったじゃないですか、部長! 多々里君がくるかもしれないって!!」

「本当だとは思わないでしょ!? どうすんの!」


 部室には3人。そして、中央のテーブルには…


「ロボット?」

「え、ええ! ロボット部へようこそ! 部長の細工さいくよ」

「初めまして、多々里です。少し見学させてもらってもいいですか?」

「え、ええ、もちろんよ!」


 机の上のロボットを改めて見る。

 大きさは30センチほどだろうか?

 手足、胴体、頭がある人間の形をしたロボットだ。

 背中の辺りからコードが伸びていてコントローラーに繋がっている。


「う、動かしてみても、大丈夫だから!」

「いいんですか? …あれ、もしかして、同じクラスの」

「っ! う、うん! 覚えててくれたんだ」

「名前までは、その…」

「ぜ、全然! 自己紹介してないし! 私は

困馬こんば能恵のえ。よ、よろしくね」

「よろしく」


 困馬さんに説明を受けながら、コントローラーを操作すれば、ロボットが足や手を動かしたり、頭を回転させたりする。

 その後は、部長の細工さんが、パソコンを開いてプログラムの説明などをしてくれた。

 専門用語などもその都度説明してくれて、楽しい時間を過ごすことができた。


「興味があったらまた来てね!」

「ありがとうございました。楽しかったです」


 思ったより長い間見学してしまった。

 ペースを上げていこう!という、愛衣さんに連れられ、どんどん回っていくことにした。


「ぶ、部長! 盤田はんだ先輩が!」

「し、喋らないと思ったらフリーズしてたのね。」



⇄⇄⇄

 


「ここなんてどうかな?」


 いくつかの部活は、廊下から覗くのみにすることにした。ありがたいことだけれど、歓迎してくれるため、時間がかかってしまうからだ。

 そんな中、愛衣さんが立ち止まり、一つの部室を指差した。


「ここは?」

「文芸部。部員は1人で、その1人は同じクラスの子」


 綺羅さんが説明してくれている時には、愛衣は部室の扉を開いていた。


「やっほー、小田原ちゃん!」

「…小田原?」


 中を見れば、本を手にこちらを向いて固まっている1人の女の子。


 …


「な、なん、え…?」

「珠音くんと部活の見学だよ!」

「…」


 よく見ると、今日の給食でスープを配っていた子だ。小田原さん、って言うのか。

 

「えっと、小田原さん、見学してもいいかな」

「あわわわわわ…」


 小田原さんは目を白黒させていて、落ち着くまで暫く待つことにした。


「正直あんまり話したことないからね」

「え、そうなんだ」

「愛衣も話したことないんじゃない? 少なくとも私は見たことない」


 愛衣さんは小田原さんを落ち着けようと頑張っているが、なるほど。愛衣さんが誰とでも距離感の近い人なのか。



⇆⇆⇆



「…」


 小田原さんは、本を机の上に置くと、忙しなく視線をあちらこちらへと向ける。


「あの、小田原さん、他の部員とかって」

「っ」


 小田原さんは一度こちらを見たが、すぐに視線をそらす。手を所在なさげに動かしたあと、なにかに気がついたような顔をした。

 そして、鞄の中に手を入れると、ノートを取り出し、何かを書き始めた。

 そして、こちらに向けられたノートには、『部員は私一人です』と、綺麗な文字で書かれていた。


「あれ、小田原さんって授業とか普通に話してなかった?」


 綺羅さんが質問すれば、小田原さんはノートにペンを走らせ、こちらへと広げる。


『恐れ多いので』

「ん? どういうこと」

「面白いからいいんじゃないかな、綺羅ちゃん! それより、小田原ちゃん、ここで何してるの?」

『読書や創作活動をしています』

「読書かー、私はあんまり本は読まないんだよね。綺羅ちゃんは結構読んでるけど」

「まあ、愛衣よりはね」

『私は主に漫画などを読むことが多いです。お堅いものが好みでしたら、文学部に行くことを勧めます』


 ということは、俺が読んでいたようなものは、文芸部の方が合っているのだろう。


「んー、なにか見るものあるかな?」

「本棚を眺めるとか?」

「じゃあ、次行こっか! またね、小田原ちゃん!」

「待って、愛衣」


 愛衣さんを追うように、綺羅さんも部室を出る。

 俺は振り返り、ノートをしまおうとしていた小田原さんの方に向き直った。


「小田原さん、同じクラスだし、仲良くしてくれると嬉しいな」

「…」


 小田原さんは少し目を見開いたあと、ノートをもう一度机の上で開く。

 そして、少し考える素振りをしたあと、ノートを閉じた。


「…う…うれしいです。ま、また…教室で…」


 小田原さんは、そう言って手を振った。



⇆⇆⇆



「…こんなところかな? あとは」

「おや、私の部活は見学していかないのかい?」

「!?」


 一斉に後ろを振り返る。

 先輩、なのだろうか。いつの間にか糸目の女の子が立っていた。


「え、えっと…」

「さあ、せっかくここまで来たんだ。やっていきたまえ!」


 部室の扉を開けられる。

 せっかくなのでお邪魔させてもらうことにした。


「さあ、そこには腰掛けてくれ」


 ホワイトボードに、テーブルとパイプ椅子。

 多くの部室と同じ構造だが、その他のものがほとんどなく、何の部活なのか検討もつかない。


「えっと、ここって…」

「ここは性差研究会の部室だよ」

「せいさ…?」

「女と男の違いのことさ!」


 ホワイトボードに『性差』と大きな文字で書かれる。


「とと…申し遅れたが、私の名前は音羅いんら天命あまめ、2年だ。アマメと呼び捨てにするか、アマ先輩と呼んでくれたまえ」

「えっと、アマ先輩、ですか…?」

「君は多々里珠音君、だったね?」

「は、はい。そうです」

「そうか」


 アマ先輩はテーブルに手をつくと、こちらに身を乗り出し、真正面から瞳を見つめた。


「私と子供を作らないかい?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る