第20話 体育倉庫、汗ばんだ体操服

 陽山さんに続いて廊下へ出れば、昼休みということもあってか、多くの生徒がいる。


「えっと、次は体育の授業ってことは知ってるかな?」

「はい」

「それで、その…着替えを、教室じゃなくて、体育倉庫で着替えて欲しいってことみたい」


 …もしかして、女子は教室で着替えるんだろうか? 中学生の頃は、教室で男子が、更衣室で女子が着替えていた。それが逆になったのだろう。


「本当はこの後は掃除の時間なんだけど、今日は掃除はしなくていいから、着替えを優先して欲しいって言われたから、倉庫まで案内するね」

「…ありがとう」


 陽山さんに案内されるまま、廊下を歩く。

 廊下にいた人たちが左右に分かれるのを見て申し訳なくなった。次からは端の方を歩きます。



⇄⇄⇄



「ここが体育倉庫だよ」


 案内されて倉庫の中に入れば、三角コーンやマットなど、様々なものが置かれていた。


「なるほど、案内感謝いたします、陽山様」

「い、いえ…」

「では、多々里様が着替えますので申し訳ございませんが、出ていただいてもよろしいでしょうか?」

「あっ…じゃあ、これを…」


 陽山さんは、巴に鍵を預けると、体育倉庫から出て行った。


「ところで、巴はなんで鞄持ってきたの?」


 少し前から気がついていたが、巴は教室に置いてきたはずの、俺の鞄を肩にかけていた。


「き、貴重品とか、入っていますからね」

「あ、戻った」


 キリッとした口調から、家でよく聞いた口調へと戻っていた。


「え、えへへ…や、やればできる子なので」

「なるほど?」

「そ、それよりも…」


 巴は会話を中断すると、自身の鞄から、見慣れない機械を取り出すと、積まれていたマットや棚などへ向け始めた。


「巴? 何してるんだ?」

「と、盗聴器、や…か、隠しカメラを探してます」

「ないんじゃないかな…?」

「甘いです!」


 キッパリと言い切る巴。

 …言い切るってことは、そういうこともあったりするんだろうか。


「…」

「…」

「…あ、怪しい点は、ありませんね」

「…ありがとう、安心して着替えられるよ」

 

 俺の身の安全のためにしてくれている行動ではあるため、お礼は言っておく。

 盗聴に隠しカメラか…

 たまにニュースで、学校の先生が盗撮とか見たことあるし、護衛としてする仕事の一つなのかもしれない。


「じゃあ、着替えるから…」

「は、はい…」


 巴はこちらをじっと見ている。

 こうなることは朝の着替えの際に分かっていたので、気にせずに着替え始める。

 新品の体操服を広げる。

 前の体操服とは違うが、胸のあたりに大きく名字が書かれているところなどは同じだった。


「今日って半袖と長袖どっちだと思う?」

「…ど、どうでしょう…?」


 取り敢えず全部着ておくか。

 今日は暑くても我慢しよう。


「…」

「///」


 着替えの最中も目線を外さないのは、護衛の仕事だから仕方ないのかもしれない。でも、普通照れるのは着替えてる方なんだよな…


「…はい」

「は、はい…」

「…」

「…?」

「あっ、巴は着替えないのか」



⇆⇆⇆



「た、体操服、似合ってるね!」

「あ、ありがとう…?」


 陽山さんに謎の褒められ方をされる。


「陽山さんも…似合ってるよ?」

「あ、ありがと///」


 学校指定の体操服を褒め合うのはよくわからないけれど、とりあえず陽山さんについていく。


「今日はサッカーの予定だったけど…多々里くんは、体力測定かな?」

「サッカー? 授業で?」

「う、うん…」


 …授業でサッカーはやった、だろうか?

 忘れているのは勉強ばかりだと思っていたけど、体育の内容も全然覚えてないな。


「楽しそうだね。陽山さんはサッカー得意?」

「わ、私は…ま、まあまあ、かなぁ…?」


 自信なさそうに陽山さんは言う。


「俺も球技はそこまでかな…」


 どちらかと言えばだが、単純に体を動かすだけのもの、マラソンや水泳などの方が得意…マシだった気がする。


「そ、そっか! じ、実は私も…」

「あっ、珠音くん着替えてる!」

「もう来てたんだ?」


 愛衣さんと綺羅さんも合流して、校庭に並ぶことになる。

 陽山さんが言っていたように、俺は体力測定からになるらしい。


 でも、最初から持久走は聞いてない。



⇆⇆⇆



「おつかれさま…」


 休憩していた綺羅さんの隣に座る。

 巴がタオルを渡してくれる。


「えっ、あっ…見てたよ、大変そうだったね」

「…」


 走った距離は1500m。

 前も走ったはずだけど、こんなに疲れるものだっけ…覚えてないだけか?

 それとも身体の衰えとか…


「ちょっと、大丈夫?」


 返事のないことに不安に思ったのか、綺羅さんが顔を覗き込んでくる。

 大丈夫、と返事をしながら、長袖の体操服を脱ぐ。


「うぁ…」

「?」

「な、なんでもない。それより、その…暑くなかったの?」

「暑かったけど、走ってる途中で脱ぐのもなって」


 最初から脱いでおくべきだった。

 汗でびしょびしょになっている。


「…体を冷やしますよ」

「巴…? 冷えないし、暑いくらいだけど…?」

「いいですから」


 脱いだ長袖の体操服を被せられる。

 過保護というか…普通に暑いんだけど…?


「そういえば、そっちも…」

「…」

「綺羅さん?」

「あ、な、何?」

「…そっちで何かあったの? 集まってる時あったけど」


 走っている途中だったので詳しくはわからなかったが、一箇所に集まっているのが見えた。


「あー、ちょっとね。ボールが顔にぶつかった人がいて」

「え、大丈夫?」

「大丈夫大丈夫、その子がよそ見してただけだから」


 よそ見してたとしても顔にあたったら大変だと思うんだけど…


「珠音くんは、あと…立ち幅跳びとハンドボール投げ?」

「うん、少し休憩したら再開するって。綺羅さんは休んでていいの?」

「私も体力ないから」


 今もグラウンドでは、クラスメイトの子達はサッカーをしている。


「あれ、1年2組って3…35人?」

「珠音くんを除いて34人だから、3チームに分かれて試合するんだ」


 休んでるチームはあっち、と綺羅さんの指差す方向を見れば、確かに10人くらいの子が得点板のあたりに固まっていた。…何か試合じゃなくてこっち見てるような…? 気の所為か。


「11×3+1で34人。私は赤チームで交代した後」

「なるほど」


 一つのチームは12人になるからか。

 …


「あれ、綺羅さんはあっちで休まないの?」

「…交代した子は向こうから入ったし、私は近い所から出ただけ。ちょっと休んでから行こうと思ってた」

「そうなんだ…?」


 少し心配していたが、教室での様子を見ても、綺羅さんがハブられているわけじゃなさそうだし、言う通りたまたまこちら側で休んでいただけなんだろう。



⇆⇆⇆



「珠音くん、部活の見学に行こう!」


 帰りのホームルームが終わった瞬間、愛衣さんがこちらに振り向き言った。

 今日は5時間目の授業で終わりだ。


「そう、だね」


 実際に入るかは分からないけれど、見学して何があるのかを知るのは面白いかもしれない。


「…珠音くんは、真剣に部活に取り組んでる人ってどう?」

「どうとは?」


 綺羅さんの曖昧な質問に聞き返してしまう。


「好き?」

「ま、まぁ、そうだね…?」

「そっかぁ! 珠音くんは! 真剣に部活をやってる人が、好きなのかぁ!」

「ど、どうしたのいきなり」


 綺羅さんの声の大きさに驚いていると、教室中が慌ただしくなり、教室からどんどんクラスメイトが出ていってしまう。

 部活のこと忘れてたとか?


「「じゃ、行こっか?」」

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