第18話 懐かしみを覚える

 ホームルームが終わると同時に、クラスメイト達に囲まれた。


「私は一つ前の席の」「多々里くんって男の」「将来、何人の」「どこの部活に入」「好みのタイ」「何か困ったことが」「私の名前はたちく」「誕生日が4月って本」「お母さんがあの」「教科書とか無」「よかったら今度」


 一度に話すものだから、面を食らってしまい、全然聞き取れなかった。


「み、みんな! 多々里くんが困ってるから」


 質問攻めを遮る声が聞こえ、そちらを向けば、陽山ひやまさんが、立っていた。


「私達と違って名前も分からないだろうし、自己紹介から始めたらどうかな?」


 その言葉に、委員長が言うなら、という声が聞こえてきた。委員長なんだ。


「じゃあ、私からいい? 前の席だし、何かと話すと思うんだよね!」

「それだと反対側のウチが最後なんだけど!?」


 再びガヤガヤと騒がしくなる。

 自己紹介は、とても有り難いのだけれど、自己紹介をしてくれても、多分一度に全員は覚えられないと思う…


「うーん、メッセージで、送るとか…だ、大丈夫ですか?」


 陽山さんが、俺と巴の方を向いて尋ねてくる。

 巴もこちらを向く。

 俺の判断に任せると、言っているように感じた。


「うん。クラスメイトだし、仲良くしてくれると嬉しいです」

「こ、こちらこそ!」


 陽山さんとIDを交換すると、クラスのメッセージグループに招待された。


「み、みんな、多々里くんにクラスのグループから友だち登録してもらうけど、いいかな?」


 近くに来てくれている子達は了承してくれたが、その他の子は分からない。

 手間を掛けさせて申し訳ないけど、嫌だったら申請を拒否してもらおう。


「…」


 多々里珠音です。これからクラスの一員として仲良くしていただけると嬉しいです、と。

 有り難いことにすぐに多くのクラスメイトから返信を貰う。

 まあ、誰が誰なのかわからないんだけれど。


 そんなことをしているうちにチャイムが鳴り、先生が扉を開けて教室へと入ってくる。

 また後で話したいと声をかけてくれる子もいた。

 やっぱり、男の人が少ないのだと実感する。

 格好良かったり可愛かったりするならともかく、ただの転校生で、こんなに囲まれることなんてないだろうし。


 クラスメイト達が席に戻ろうとする中、同じく席へ戻ろうとしていた陽山さんを呼び止める。


「陽山さん」

「え、な、何かな?」

「ありがとう、助かったよ」

「う、うん…」


 そう言って、陽山さんは席へ戻り、机に突っ伏した。こんな授業開始ぎりぎりで言うのでは適当に感じられたのかもしれない。後で改めてしっかりと感謝を伝えようと思ったのだった。



⇆⇆⇆


 一時間目の授業は数学らしい。

 忘れてしまっている部分も多いだろうと思っていたが、想像よりは覚えていることも多かった。今回は計算が多い箇所だったからかもしれない。図形とかになると多分かなり忘れてしまっているはずだ。

 思い出す部分や懐かしい部分がたくさんある。

 周りのみんなと意識の差はあるが、授業の面白さを感じることができた。



⇆⇆⇆



 2時間目の社会の授業が終わり、休み時間になる。

 日本史の人物名が殆ど変わっていたため、恐らく一から覚えることとなるだろう。元々あまり覚えていなかったし、この機会を活かしたいところだ。ちなみに卑弥呼様は健在だった。


「多々里くん」

「あ、えっと…」


 俺の一つ前の席に座る、長い茶髪を後ろで結っているクラスメイトが、椅子の向きはそのまま、こちらに身体を向けてくる。


「私は、吉方きちかた愛衣めい。よろしくね!」

「よろしく、吉方さん」

「愛衣でいいよ! クラスメイトだし。私も珠音くんでいいかな?」

「私は宇賀うが綺羅きら、よろしく。私も名前で」

「そうだね…よろしく、愛衣さん、綺羅さん」


 俺の席の右斜め前、愛衣さんの隣の席に座る、綺羅さんもこちらを振り返り話しかけてくれる。

 休み時間ということもあり、クラスメイトがどんどん話しかけてくれ、二人との会話はそこまでとなった。席が近いということもあるし、仲良く付き合っていければと思う。



⇆⇆⇆



 あっという間に午前の授業が終わった。

 どの授業でも新鮮さを感じる箇所があり、集中して受け続ける事ができた。

 …習ったはずのものもあったんだけどなぁ…


 自身の記憶力の無さに情けなく思っていると、愛衣さんが話しかけてくる。


「さて、給食の時間だよ、珠音くん!」

「給食…」


 懐かしい。

 例に漏れず俺も揚げパンとか好きだったんだよな…施設でも出たけれど、学校のもののほうが美味しかった記憶がある。


「給食のときは4人で固まるんだよ」

「あー、そうだ…そうらしいね」


 危ない、ボロを出すところだった。

 給食の時で机を固めるのって、どこでもやっているものだったのか、それともたまたま同じなのだろうか? どちらにせよ、懐かしさにテンションが上がってしまう。


「給食着…」

「あっ、そっか! 多々里くんは初めてだっけ!」


 代わりに縛ろうか、という愛衣さんの提案を断る。少し形は違うが、基本的には馴染みのあった給食着と同じだ。


「男の子の給食着姿…」

「ん? どうかした?」

「な、なんでもないよ! 今日の給食は何かな〜?」

「あはは…」


 前も給食を楽しみにしていたひとも多かった。

 おかずやデザートで一喜一憂するのは小学校から変わってなかったなぁ…

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