16.塔
最初の一段に足をかける。階段を踏みしめるように、体を持ち上げていく。見上げれば、何処までも続く吹き抜けの螺旋階段。同心の円を描きながら上昇していく変わり映えのしない光景が続き、明かりと言えるのは壁に等間隔に掲げられた松明だけ。天辺は黒く染められ、何があるのか垣間見ることも出来ない。だからこそ目指す。重い体を引きずって悪態を垂れ流しながらも、ただ頂上を。きっとそこには素晴らしいものがあると、信じる。
同じような階段が並び、同じような音が響き、すれ違う者もおらず、追い越す者も、追い越して行く者もいない。時間がゆっくり流れているようにも、瞬く間に過ぎ去っているとも感じるが、窓一つないこの闇の中では、一条の陽光さえ差し込まず、腕の時計は秒針すらピクリとも動かない。何一つ、時の流れを保証するものなど在りはしない。
確かなのは、疲労を訴えるこの体と、やや薄くなったように思える天辺の闇と深さを増した眼下の黒が示唆する、のぼっているという事実だけだ。
だから、階段を上がり続ける。伝った汗が目に入ろうと、膝が笑い、体が休息を求めようと。喩え無様に壁に凭れ掛かり、這い蹲るようにしてのぼる事になろうとも。その一歩の分だけ確実に、頂上へと近づいているのだから。
だから、今眼前に扉があるのは、必然。のぼり続けた結果として、当然。何処までも続くかと思われた階段は終わりを迎え、深い闇は眼下にだけあり、剥き出しになり水滴を浮かべた石造りの天井と不釣合いなくらいに堅固で綺麗な扉が佇む。滓の様に体に澱んでいた疲労は何処かに消え去り、押さえようのない歓喜が湧き上がる。震える手でノブを握り、力を込める。
期待を裏切る硬い音が響いた。重い手ごたえが、答える。
開かない。軽い怒りと共に叩き壊すか、と考えが浮かび扉から距離をとる。勢いをつけ扉を蹴破る。
まさにその時。
図ったかのように、大気が鳴動した。何もかもが轟音と共に、揺振られる。軋みを上げて螺旋階段が撓み、歪み揺れる壁に体が弾かれ虚空に投げ出される。伸ばした腕は何処にも届かない。重力に曳かれて何処までも落ちていく。
闇に、沈んでいく。
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