タロット

此木晶(しょう)

10.運命の車輪

 疲弊した発条をギリギリと軋ませながら捲く。

 すると。

 磨耗した歯車同士がガリガリと互いを削りあいながら廻る。

 そして。

 歪んだ円筒の曲がったピンに弾かれる錆の浮いた櫛歯は罅割れた音を奏でる。

 同時に。

 連動する捩れた芯棒が回り、縁の欠けた金属板を回転させる。

 その上では、錆付いた螺子で止められた、汚れくすんだ皇子と皇女が色褪せた衣装に身を包み、黒ずんだ白馬の牽く馬車に乗って崩れた城の周りで旅をする。

 グルグル、グルグル、グルグルと。

 右へ、左へ、上へ、下へと揺すられながら、割れた音に見送られ。

 グルグル、グルグル、グルグルと。

 波打つ円盤の上を回り続ける。

 時折音が飛び、歯車は空回りをし、発条は異音の悲鳴を上げるけれど、二人の旅は終わらない。

 そんな姿を見るのが好きで、何度も何度も発条を捲いた。

 ギリギリ、ギリギリ、ギリギリと。

 その度にオルゴールは軋みながらも回転し、二人の旅は続いていた。

 だから。

 その日も、発条を捲いたのだ。ただ、旅する姿が見たくて。

 ギリギリ、ギリギリ、ギリギリと。

 捲き終えれば。

 いつもの様に歯車が空転を織り交ぜながら噛み合い、二人きりの終わらない旅が始まる。

 カタカタ、カタカタ、カタカタと。

 それが。

 唐突に止まった。

 カラカラと空回りする金属音を一度甲高く響かせて。

 最早、発条に手応えはなく、二度とオルゴールは回らない。

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