39話。皇帝の秘密を大暴露して、帝国に混乱を起こす

「へぇっ。なるほど。では、私もカインに倣うわ。『もしお父様が魔王を復活させようとしているのが嘘であったら、アンジェラは死をもって償う』この誓約を交わすので、いかがかしら?」


 なんとアンジェラまで、いたずらっぽく笑って宣言した。


「バカな……アンジェラ皇女まで!?」


 【闇鴉やみがらす】たちのざわめきが、一層大きくなる。


「お、おい、アンジェラ。本気なのか?」

「だって、本当のことなのでしょう? これでも、私はあなたのことを信頼しているのよ」


 アンジェラは真っ直ぐな目を向けてきた。


「なにより真実であるのなら、お父様をなんとしても、お止めする必要があるわ。【闇鴉】の力が必要よ」

「待ってください。では、私も誓約を交わします。『もし、カイン兄様の魔王にまつわる話が嘘であったら、私も命を断ちます』」

「なっ!? セルヴィアはそんなことをする必要は無いだろ!?」


 俺は大慌てで止めに入る。


「ではカイン兄様も、ご自分の命を賭けるようなことは、なさらないでください。いくらなんでも、危険なことに足を踏み込みすぎです」


 セルヴィアは腰に手を当てて怒っていた。


「もし、カイン兄様が命を賭けるとおっしゃるなら、私も命を賭けます。【永遠の愛】の誓いにかけて、死ぬ時は一緒ですよ」

「うっ……」


 強い意思を宿した瞳で言われて、俺は反論できなかった。部屋を埋め尽くした、かすみ草の花々は俺たちが交わした【永遠の愛】の証だ。


「せ、聖女様まで命を賭けるだと!?」

「首領! こ、これはやはり真実では!?」


 首領と呼ばれた大柄な男が、うめき声を上げた。

 首領は俺を見つめて、重々しく告げる。


「ならば、実際にその誓約を書いていただきましょうか?」

「わかった。まずは俺が誓約を交わす」


 首領が懐から取り出した【誓約魔法のスクロール】に、俺は死をペナルティとした誓約を書いた。

 その場の全員が、固唾を呑んで結果を見守る。


 もし、俺が嘘をついていたら、死ぬことになるのだが……


「ハ、ハッタリでは無かった!? 本当に嘘は付いていないとは!」

「まさか、命を賭けて我らに真実を伝えるとは……!」

「カイン・シュバルツ、なんという男だ!」


 【闇鴉】たちは、激しく心を打たれたようだった。。


「じゃあ誓約を交わすのは、俺一人だけで良いか!?」

「兄様!」

「ちょっとカイン!?」


 ふたりの少女が抗議の声を上げるが、俺は手で制した。

 推しヒロインたちにそんな危険なマネをさせる訳にはいかない。これは俺の信念だ。


「もちろんでございます、カイン殿!」


 首領が両手を床に付けて叫んだ。


「アンジェラ皇女! 我らの非礼お許しください! 帝国臣民のため、なにより世のため人のため。ここまで強い信念を持って、魔王復活を阻止しようとしておられたとは、おみそれしました!」 

「我ら感服いたしました!」


 【闇鴉】たちは、その場に全員がひざまずいた。

 

「え、ええっ! それでは、これからカインと共に、お父様をお諌めし、魔王復活を阻止するために戦っていきましょう!」

「はっ! アンジェラ皇女殿下!」

「カイン、ありがとう! 私、まだあなたのことを誤解していたみたいだわ。今ならまだ間に合うわよね!? お父様が世界の敵になる前に、お父様をお止めしましょう!」


 アンジェラが感激して、俺に抱擁してきた。


「……うん、あ、あれ?」


 若干、話がおかしな方向に転がっていた。

 

 魔王の復活阻止は、この場を乗り切って【闇鴉】を奴隷にするための方便だったんだけどな……


 今後、帝国が本格的にヤバい集団になることが確定しているから、身を守るため情報収集や情報操作の手段を持ちたかっただけだ。


 魔王のことは、勇者アベルに任せておくのが一番だ。


 だけど、アンジェラは本気で皇帝を止めようとしているようだった。

 父親に、世界の敵になって欲しくないか……


 アンジェラはやっぱり父親のことが、好きなんだな。ゲームでも、アンジェラは最後まで父親に尽くして死んだ。


 皇帝はアンジェラを便利な道具としてしか見ていないんだが……


「カイン兄様は、やっぱりスゴイです。本当に世のため人のために、動いていらっしゃるのですね! ですが、あまり多くのことを抱え込まないでください。心配になってしまいます」


 セルヴィアも俺の目的を勘違いしているらしく、『あっ、今のは奴隷契約を結ばせるための方便だよ』とは、完全に言えなくなってしまった。


 いや、俺はそんな聖人君子ではないのだが……

 俺が目指しているのは、セルヴィアとの幸せな人生だ。


 世のため人のためとか、世界を救うとかまでは、考えていない。


「それでは【闇鴉】たち、カインと奴隷契約を結んでもらえるわね?」


 アンジェラが水を向けた。


「残念ながら、それはできません。我らは代々帝国に仕えております。我らが頭を垂れるのは、アトラス帝国の皇族のみ。故に、今後は皇帝陛下ではなく、アンジェラ皇女にお仕えします。我らの忠誠にお疑いがあるのであれば、アンジェラ皇女と奴隷契約を結びますが、いかがでしょうか?」

「まぁ、それでも良いか……」


 アンジェラは俺の奴隷。そのアンジェラの奴隷に【闇鴉】がなるなら、間接的に俺の支配下に入る訳だしな。


「わかった。それで良い。アンジェラ、【闇鴉】と奴隷契約を交わしてくれ。」

「わかったわ」


 さっそくアンジェラは【闇鴉】の全員と、奴隷契約を結んだ。


「それではアンジェラ皇女、我らにご指示を。魔王復活を阻止するために、どう動けばよろしいでしょうか?」

「……そ、そんなこと、見当もつかないわ。カイン、どうしたら良いの?」


 アンジェラが困って尋ねてくる。

 うーん、真剣に魔王復活を防ぐのなら……俺はしばらく考え込んだ。


 ゲーム中で、皇帝ジークフリートは魔王を復活させようとしていることが明るみに出ないように、慎重に行動していた。

 バレたら、反発する配下が現れるからだ。


 だいたいゲームの悪役とは、暗い部屋で腹心を相手にワイン片手に悪巧みをしているものだ。その計画をペラペラしゃべるのは、物語のクライマックスだ。


 皇帝もラストダンジョンに突入してきた勇者を前にして、得意気に『フハハハハッ! これが偉大なる魔王の力だぁあああ! 完全に封印は解かれた! もはや誰にも止められぬ! 何もかもが手遅れだ! 我が力の前にひれ伏すが良いぃいいいッ!』とか、実に楽しそうにやっていた。

 

 だったら、この事実をゲーム本編開始前に大暴露してやれば、良いんじゃないか?


 少なくとも、俺はしばらくレベルアップと兵団の強化にいそしみたい。

 俺が勇者アベルに殺される未来が本当に回避できたかはまだわからないし、レオン王子を叩き潰すと決めている。


 この間、帝国にちょっかいをかけられないように、牽制しておく意味でも有効だ。

 うまくいけば、帝国で大混乱が起きるだろう。


「うーん、そうだな。『皇帝ジークフリートは魔王を復活させようとしている。魔王が皇帝の居城カイザーブルクの地下の隠しエリアに封印されていて、その前で怪しげな魔導士と夜な夜な悪巧みをしている』という噂を帝国中でばら撒いてくれ。あっ、ちなみにその隠しエリアへの行き方は、コレコレ……」

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