37話。リディア王女、カインに結婚を申し込む

【ゴードン視点】


「アヒャヒャヒャヒャ! あのレオン王子に言いたい放題言ってやったぜ!」


 俺様は戦勝パーティで、この世の春を謳歌していた。


 酒と料理はうまいし、貴族令嬢はカワイイし、みんなから英雄ゴードン様と褒めたたえられて、めちゃくちゃ気分が良いぜぇえええ!

 

「ゴードン様、この度は、王国の危機を救ってくださり、誠にありがとうございました。病の父王に代わりまして、このリディア・アルビオン、厚くお礼を申し上げます」

「おっ!」


 俺様の前にやってきて、上品に腰を折ったのは、リディア王女だった。


 凛々しくも可憐な容姿に、不釣り合いなデカい胸が、実にイイ! エリスも巨乳だが、リディア王女もそれに負けず劣らず巨乳で、俺様の目はその谷間にロックオンだった。


 ぶは。鼻血が出そう。


「ゴードン様は、弱き民がアンデッドに殺戮される悲劇を見過ごせず、フェルナンド子爵への援軍に立たれたのですよね? 兵たちが噂しておりました! なんと勇敢なお方、まさに貴族の中の貴族。あなた様のような若き英雄こそ、我が王国に必要なのです」

「それは……ウヒャヒャヒャ! その通り! 俺様てば、超勇敢なんです!」


 思わずデレっとして、俺様はうんうん頷いた。


「お兄様が私怨からフェルナンド子爵を陥れようとしたこと、私も存じ上げております。その中で、唯一、お兄様に背き、民のために命を賭してくださった、あなた様のことを心から尊敬いたします」


 リディア王女は、その白魚のような右手を差し出した。

 

「今、わたくしは急増する魔物被害と、アトラス帝国の脅威に対抗するため、私を指揮官とした騎士団【王女近衛騎士団(プリンセスガード)】を設立しようとしています。あなた様には、その副団長になっていただきたいのですが、いかがでしょうか? どうか、無力な私を……いえ、この国の弱き民たちを助けてください!」

「アヒャ! 喜んで!」


 思わずリディア王女の手を取って、忠誠の誓いであるキスをしたくなったが、俺様は寸前のところで思い留まった。


 待て待て。そんな立場になったら、アレだろう?

 今回の遠征のような恐ろしい戦いを、死ぬほど繰り返すってことじゃないか?


 アンジェラ皇女とか、マジで化け物過ぎて、俺様はビビって、おしっこ漏らしそうになった。

 俺様はもう、そんな危険な目に合うのは、絶対にごめんなのだ。


 おーっと、危ない危ない。

 相手が巨乳美少女だったから、危うく雰囲気に流されて、トンデモナイことになるところだったぜ。


「残念ですが、お断りします!」

「な、なぜですか?」


 リディア王女は、心底意外そうに目を瞬いた。


「今、この国がいかに危機的な状況にあるかは、ゴードン様が一番ご存知のハズ……!」


 リディア王女は憂い顔もかわいくて、俺様はちょっと心がぐらつくが……頭脳派である俺様は副騎士団長よりも、裏で暗躍する参謀向きなのだ。

 そこんとこ勘違いしてもらっちゃ困るぜ。


「アヒャ。ここでは、人目につくので、バルコニーに出ましょうかリディア王女?」

「はい、喜んで。ここにはお兄様の手の者もおりますからね」


 およ? ここで、頭の良い俺様はピンと来た。


「リディア王女は、レオン王子と仲がよろしくない感じですか?」

「……わたくしの【王女近衛騎士団】の設立に、お兄様は反対なのです。女が出しゃばるなと。わたくしとして、剣くらい扱えますのに」


 リディア王女は、凛とした気高い口調で続けた。


「お兄様は国政を宰相に任せて、遊び呆けております。アトラス帝国への対抗策は、【世界樹の聖女】を探し出して利用することだけ。王太子たるお方が、そのようなことでは、王国の行く末は、暗いとしか言えません。ここは、わたくしが立たねばならないのです!」


 なるほど〜。

 俺様は、思わず膝を打ちそうになった。


 こいつは、カイン様が王になる大チャンスだぜ。

 カイン様の懐刀、ナンバー2の俺様としてはここで活躍しなくちゃな。


 俺様はリディア王女とバルコニーでふたりっきりになると、単刀直入に告げた。


「リディア王女、もし王国の危機をなんとかしたいなら、俺様の親友、カイン・シュバルツ殿を結婚相手とするのが一番です」

「えっ、カイン・シュバルツ殿ですか……?」


 リディア王女は、面食らった様子だった。


「そ、それは、お兄様の命令に従って、セルヴィア・フェルナンド殿をイジメているという、あの悪名高いカイン殿ですか?」

「あーっ、それはカイン殿、いや、カイン様が広めている偽情報です。何を隠そう、今回のアンデッド軍団討伐を成し遂げたのは、俺様でもフェルナンド子爵でもなく、カイン様だからな!」


 俺様は堂々と胸を張って、真実を告げた。


 カイン様より、遠征中はカイン様の名前を出すなと厳命されていたが、もう遠征は終わったから、名前を出してもOKなのだ。


「そ、それはどういうことですか!?」


 リディア王女の驚愕は大変なモノだった。目を白黒させている。


「あーっ、めんどくさいから、ここからは敬語は無しで良いですか、リディア王女? 俺様が忠誠を誓っているのは、カイン様であって王家じゃないからな!」

「ええっ!? は、はい。もちろんです!」


 俺様に頼るしか無いリディア王女は、素直に首を縦に振った。

 アヒャ、巨乳美少女のお姫様にこんなエラソーな態度を取れるなんて、めちゃくちゃ気分が良いぜぇ。


「カイン様の私設兵団を、俺様のオーチバル伯爵家の兵だと偽装して、フェルナンド子爵の援軍にしたんだ。それで、カイン様は、アンデッド軍団を操っていたアトラス帝国のアンジェラ皇女を倒して奴隷にしちまったんだ。あひゃ! カイン様は、本当にすげぇぜ!」

「ア、アトラス帝国の皇女!? まさか、今回のアンデッド災害の裏には帝国が!? しかも、アンジェラ皇女を奴隷にした!?」

「アヒャヒャヒャヒャ! その通り。俺様はカイン様のナンバー2として、それはもう大活躍したのだ! アンジェラ皇女の【死霊騎士団(デスナイツ)】なんざ、チョチョイのチョイだったな!」


 俺様はここぞとばかりに自慢する。


「そ、そうだったのですね!?」


 リディア王女は感激した様子だった。


「ありがとうございます。帝国の野望を挫いていただけなかったら、本当にどうなっていたかわかりません! ゴードン様だけでなく、カイン様にもなんとお礼を申し上げれば良いか!」

「しかーし! カイン様はレオン王子に対して、たいそうご立腹だぜ。このままだと、王国で大きな反乱が起きるな!」

「それほど武勇に優れたお方が、は、反乱!? ああっ、ど、どうすれば良いのですか、ゴードン様!? わたくしはこの王国を守るためなら、何でもします!」


 リディア王女は俺様に取りすがってきた。

 俺様の気分は、もう最高潮だ。


「決まっているじゃねえか。リディア王女がカイン様に結婚を申し込むんだよ。それで、王位をカイン様に譲れば、万事解決! カイン様は帝国を撃退するどころか、征服しちまうかもな! アヒャヒャヒャ! これで王国は安泰だぁ!」

「す、すごいです! で、でも、カイン殿はすでにセルヴィア殿と婚約しておられるのでは? それはさすがに無理があるかと……それにお父様はわたくしを帝国に嫁がせるおつもりなのですが……」


「帝国は和平なんぞ考えちゃいねぇから、政略結婚は無理だろうぜ! それにカイン様の目的は王となること! さらにはこの世界の覇者となることだ! リディア王女が結婚を申し込めば、受け入れるに決まってるぜ」

「わ、わかりました! では、まずは内々にカイン様に、今回のお礼と、結婚の申し込みをさせていただきます。正直にお話いただき、助かりましたゴードン様! これでアルビオン王国は救われます!」


 リディア王女は、感動して俺様の両手を握った。


 うひょー、やらわらけぇ。胸の谷間が、おっぱいでけぇ。

 ああっ、まったく気分が良いぜ。


 俺様は参謀として、カイン様の野望に多大な貢献をしちまったな。俺様の手によって世界の歴史が大きく動いたのだ。


 今夜は本当に最高の一夜だった。

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