30話。剣の奥義、剣術レベル5に至る

 ヒッヒーン!


 その時、馬たちが一斉に足をもつれさせて、前のめりに倒れた。


「なにッ!?」


 俺は空中で身をひねって、両足で地面に着地する。 

 ズブッ、と足がぬかるみにはまる嫌な感触がした。広範囲の地面が、紫色の毒沼に変わっているのに気づく。


「セルヴィア!?」

「きゃあああああッ!?」

 

 セルヴィアも馬から地面に投げ出されたが、俺が素早くキャッチして事なきを得た。


「あっ、ありがとうございます。カイン兄様……一体、何が?」

「これは地形操作魔法【毒沼(ポイズンレイク)】!?」


 身体中に毒による痛みと痺れが走った。

 地形操作魔法は、事前の準備が必要な高度なモノだ。


 同時に毒沼から、無数の動く骸骨が湧き出してくる。スケルトンといった雑魚ではない。


 剣と盾で武装したCランクの魔物、骸骨戦士(スケルトンウォリアー)だ。推定レベルは18。こいつらは、死んだ戦士の成れの果てで、それなりの剣技を使う。


「ちくしょう、コイツら!?」


 アチコチから悲鳴が上がった。

 俺の配下に、骸骨戦士どもが襲いかかる。


 生物ではないアンデッドに毒は通用しない。こちらだけが、圧倒的に不利な状況だ。

 これは張り巡らされた周到な罠だ。おそらく、街に踏み込んだ俺たちを逃さないために仕掛けてあったのだろう。


「みんな【回復薬(ポーション)】をぶつけろ! 落ち着いて対処するんだ!」

「はっ!」


 俺は混乱状態になった兵団を立て直すべく、命令を飛ばす。

 毒で痺れて、満足に剣が振れなかったとしても、【回復薬】を浴びせれば、楽にアンデッドを倒すことができるんだ。


「ゴードン、バフ魔法だ! って、もうやっている!?」

「ひゃああああ!? お前ら、俺様を死ぬ気で守れぇえええ! 【筋力強化(ストレングス・ブースト)】【倍速強化(ヘイスト)】!」


 骸骨戦士に斬りかかられたゴードンが、半狂乱になりながら、兵団にバフ魔法をかけていた。

 混戦になった場合、味方を巻き込む恐れのある攻撃魔法はうかつには使えない。

 

「おっ、おおおおおおおッ!」


 地の底から響くような雄叫びが轟いた。

 同時に毒沼の中心地より、首無し騎士が立ち上がる。


「なっ、デュラハン・ジェネラルだと!?」


 さすがに愕然とした。

 そいつはデュラハンの上位種のSランクモンスターだった。


 推定レベルは55。ユニークスキル【死の呪い】を持ち、範囲50メートル以内の人間に、毎分HP(生命力)の5%のスリップダメージを与える。


 ただそこに存在しているだけで、人間を殺し尽くす最凶最悪のモンスターだ。


「コイツが、敵の切り札か!?」

「あぅ!?」


 セルヴィアが喉を押さえて、うめいた。

 デュラハン・ジェネラルの【死の呪い】が、彼女の生命力を奪っているのだ。


 アンデッドのスキルを無効化するスキル【アンデッドバスター】を持つ俺には効かないが、兵団の全員が【死の呪い】にかかる。

 毒と呪いの状態異常の二重苦だ。

 

「カイン坊ちゃま! おのれ……貴様ら、退けッ!」


 骸骨戦士をなぎ倒しながら、ランスロットが焦慮の声を上げる。 

 奴らはランスロットを大勢で包囲し、集中攻撃を仕掛けていた。


 デュラハン・ジェネラルが、俺に向かって突撃してくる。 


「煉獄に墜ちよ【デス・ブリンガー】!」


 奴が掲げた剣が、血のような禍々しい赤い輝きに包まれた。


 【デス・ブリンガー】とは、HP(生命力)の半分を代償に支払うことで、剣の攻撃力を5分間、100%上昇させる暗黒系のスキルだ。


 防御度外視の男のロマンが詰まったスキルだが、問題はアンデッドとの相性が抜群であることだ。アンデッドは代償を必要とせず、危険度の高い暗黒系スキルを発動できる。


 まずい……っ!

 

 足を毒沼にとらわれ、セルヴィアを左手で抱えた状態では、満足に動けない。


「ぐぅッ!?」


 デュラハン・ジェネラルの猛攻を、俺は防御剣技ソードパリィで受け流す。

 闇夜に剣戟の火花が狂い咲いた。


 雷光のごとき速度と、巨岩のような重さを兼ね備えた斬撃だった。

 それをデュラハン・ジェネラルは切れ目なく、叩きつけてくる。


 一発でも仕損じれば、その瞬間、俺とセルヴィアの死は確定するだろう。

 

「【アルビドゥス・ファイヤー】!」


 セルヴィアが至近距離から、猛火を放った。

 デュラハン・ジェネラルは、たたらを踏んで後ずさる。


「カイン兄様、今です!」

「おっ、おおおおおッ!」


 その一瞬の隙に、俺は地面を蹴って猛然と突っ込んだ。


 俺の足元には、セルヴィアの召喚した巨大な蓮の葉が出現していた。毒沼の上に確かな足場が作られる。

 これで、剣技に必要不可欠な足の踏み込みができるようになった。


【黒月の剣】×【アンデッドバスター】


 本来、デュラハン・ジェネラルには闇属性攻撃は通用しないが、俺のスキル【アンデッドバスター】はアンデッドの持つ闇属性耐性を無効化できる。


 つまり、【黒月の剣】による闇属性ダメージが、通るようになるんだ。


 俺はデュラハン・ジェネラルに【真っ向斬り】を放つ。その一撃は、今までで最高とも言える一撃だった。

 刃の先端で、衝撃波が弾けた。剣が音速を超えたのだ。


 修行では、どうやっても成功しなかった剣の奥義【音速剣】だ。

 

 俺の剣は、デュラハン・ジェネラルの鎧を深く斬り裂いた。

 その瞬間、噴き上がった【黒月の剣】による闇の炎がヤツを蝕み、焼滅させる。


 デュラハン・ジェネラルの全身が、光の粒子となって溶け崩れた。


「おおっ! か、勝った! カイン坊ちゃまと、セルヴィアお嬢様が……勝ちましたぞぉおおおッ!」


 ランスロットが感激に喉を震わせる。シュバルツ兵団の爆発的な歓声が響き渡った。


『デュラハン・ジェネラルを倒しました。レベルが45に上がりました!』


『剣術スキルの熟練度を獲得しました。

 剣術スキルがレベル5に上昇しました!

 剣技の命中率と攻撃力が50%上昇します』


『【デス・ブリンガー】使用状態の敵を倒しました。

 おめでとうございます!

 暗黒スキル【デス・ブリンガー】を習得しました。

 HP(生命力)の半分を代償に支払うことで、剣の攻撃力を5分間、100%上昇させます』



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カイン・シュバルツ

レベル45(UP!)


ユニークスキル

【黒月の剣】

 剣技に闇属性力が付与されます。


スキル

【剣術レベル5】(UP!)

 剣技の命中率と攻撃力が50%アップします。


【矢弾き】

 飛び道具を弾く成功率が50%アップします。


【ジャイアントキリング】

 レベルが上の敵と戦う際、HPが半分以下になると攻撃力と敏捷性が100%上昇します。


【薬師レベル1】

 薬の調合が可能になります。


【アンデッドバスター】

 アンデッドの持つ耐性、スキルを無効化できます。

   

【デス・ブリンガー】(NEW!)

 生命力(HP)の半分を代償に支払うことで、剣の攻撃力を5分間、100%上昇させます。


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