25話。Sランクの魔物デュラハンを倒す

「かの英雄カイン様が援軍に来てくださったぞぉおおおおッ!」

「なんと、まさか、ミスリルを我らに分け与えてくださったあのカイン様か!?」

「か、かたじけない、カイン殿……ッ! まさか助太刀に来ていただけるとは!」


 実直に感謝を述べるセルヴィアの父エドワード殿を、俺は尻目で見た。


 彼はミスリルの剣と鎧で武装しており、そのおかげで、デュラハンの攻撃に耐えることができていたようだ。

 シュバルツ伯爵家が送ったミスリルが役に立ってくれて良かった。


「エドワード殿、森に撤退してください! 殿(しんがり)は、俺のシュバルツ兵団が引き受けます!」

「なんですと、森に?」


 立ち上がったエドワード殿は、戸惑いの声を上げた。

 夜の森は魔物の領域であり、そこに逃げ込むなど、自殺行為だからだ。


「ここにはセルヴィアも来ています! セルヴィアは本物の【世界樹の聖女】です! 森は逆に安全です!」


 俺はデュラハンが叩きつけてきた大剣を弾き返しながら叫んだ。

 くそっ、なんて重い剣だ。こいつのパワーは、ランスロット以上だぞ。


「なに? なんと……今、なんと申されたか!?」


 エドワード殿の驚愕は大変なものだった。

 セルヴィアが真の聖女であることは、エドワード殿にも秘密にしていた。


 だが、ここで押し問答している暇はないため、俺は真実を打ち明けた。

 

「森に逃げ込めば、セルヴィアの植物を支配する能力で身を守れます。そうすれば、みんな助かります!」

「【アルビドゥス・ファイヤー】!」


 次の瞬間、セルヴィアの放った猛火が、スケルトンの群れを焼き払った。


「フェルナンド家のみなさん、セルヴィアです! 助けに来ました!」

「我こそはカイン坊ちゃま一の家臣! ランスロットなりぃいいいいッ!」


 さらにランスロット率いるシュバルツ兵団が突撃してきて、スケルトンどもを粉々に粉砕していく。

 先頭を走るランスロットの騎士剣の一振りで、数十体のスケルトンが爆散した。


「おぉおおおおッ! セルヴィアお嬢様と、かの伝説の騎士ランスロット卿だぞ!?」

「今の火の魔法はまさかセルヴィアお嬢様が!? な、なんとご立派になられて!?」


 セルヴィアの登場に、彼女を幼少期から見守ってきたであろうフェルナンド家の騎士たちが、感涙にむせんだ。


「フェルナンド子爵の軍か!? 俺様はオーチバル伯爵家のゴードン様だ! ちくしょうぉおおおッ! 助けに来てやったぞ!! ありがたく思えええッ!」


 兵団の最後尾を走るゴードンが、自棄っぱちの大声で叫んだ。

 ゴードンは【ファイヤーボール】の魔法をスケルトン軍団に次々に投げ込んで、大爆発を起こす。


 ゴードンは性格はアレだが、魔法の才能は本物だな。かなり良い援護になっていた。


「なに? オーチバル伯爵家のゴードン殿までも!?」


 あまり親しくないオーチバル伯爵家からの援軍に、エドワード殿は仰天していた。


「お父様! どうか、こちらへ!」

「セルヴィア!? うむ、わかった。全軍、森へ撤退せよ! 森は安全だ!」

「はっ!」


 エドワード殿が命令を下す。

 フェルナンド子爵軍は息を吹き返し、エドワード殿の元へ集まりつつ後退を開始した。


「殿は我らが務める! エドワード様をお守りせよッ!」


 ランスロット率いるシュバルツ兵団が、エドワード殿を守るように展開し、壁となる。


 スケルトンの弓兵が、エドワード殿を逃がすまいと弓矢の雨を放った。


「皆の者、【矢弾き】だ! 訓練通りに打ち返せ!」

「はっ!」


 ランスロットの号令の元、シュバルツ兵団はミスリルの剣を構える。


 全員に飛び道具を弾く確率を50%アップさせるスキル【矢弾き】と、剣技の命中率を20%アップさせるスキル【剣術レベル2】を覚えさせてあった。

 おかげで、俺の兵団は盾要らずだ。


「剣で弓矢を弾くとは!? な、なんという練度の兵たちだ!?」


 身を伏せたエドワード殿が、目を見張った。

 降り注いだ矢は、シュバルツ兵団の剣に弾かれて、エドワード殿にはひとつとして届かなかった。無論、兵団の死傷者もゼロだ。


「これがカイン坊ちゃまの手足たるシュバルツ兵団! 白骨死体どもが6000集まろうと、1万集まろうと、恐れるに足らず!」


 ランスロットが気炎を上げる。


「死に損ないども! 来るなら来い! 我らが地獄に叩き返してくれるわッ!」

「うぉおおおおッ! シュバルツ兵団ばんざい!」


 フェルナンドの兵たちが歓喜し、嵐のような歓声を上げた。


「こいつら、2ヶ月間でこんなにも強くなっていたのか!? あんなに雑魚っぽかったのに!?」


 ゴードンが目を丸くしていた。

 雑魚っぽいって……元々はゴードンが雇った山賊だったのになぁ。


「まっ、俺たちも修羅場を潜り抜けましたんでねゴードン様」

「人間、死ぬ気になればたいていのことはやれるんだと、わかりましたよ」

「ゴードン様も、カイン様の奴隷なら一緒に訓練いかがですか?」

「お、俺様は頭脳派だからな!? やめておこう!」


 兵の誘いをゴードンは全力で拒否した。


「フェルナンド……殺す!」


 地獄の底から響くようなおぞましい声をデュラハンが上げた。

 奴は俺を無視して、エドワード殿めがけて突進していく。


 こいつら、この場の指揮官が誰なのか理解しているのか?


 指揮官を標的にするなんて、明らかに戦術的な動きだった。

 衝動のまま無差別に殺戮を繰り返すアンデッドとは、思えない。

 やはり、背後にこいつらを操る【死霊使い】(ネクロマンサー)がいると思って間違いなかった。


「待て、お前の相手は俺だ!」


 俺はデュラハンに追いすがりながら、連続で剣を撃ち込んだ。

 大盾で阻まれて、どれも決定打にならないが、奴の巨体がよろめく。


「邪魔をするな!」


 剛剣の反撃が来るが、バックステップでかわし、さらに剣を撃ち込む。

 デュラハンの剣と俺の剣が、激しく撃ち合って火花を散らした。


「あのバケモンとやり合っている!? すげぇえええッ! さすがはカイン様だ!」


 配下の兵たちが感嘆の声を上げた。


「ころす!」


 デュラハンは俺を排除しようと大剣を大上段に構えた。


「勝負だ!」


 奴の進路を塞ぎつつ、俺も剣を正眼に構える。

 剣での勝負なら、ランスロット相手に何度も模擬戦を繰り返してきた。


 たとえ、相手がどんな化け物だろうと負けない自信があった。それだけの努力を積み上げてきたんだ。


 俺めがけて、唸りをあげる大剣が振り下ろされる。


「はぁあああッ!」


 俺はその一撃を、剣でいなした。

 剛剣を受け止めるのではなく、力のベクトルを逸らして斬撃を受け流す。


 防御剣技【ソードパリィ】だ。ここ2ヶ月あまり、ランスロットに徹底的に仕込まれた。

 この技の習得が、練達の境地【剣術レベル5】に至るために必要なのだ。

 

 デュラハンは勢い余って体勢を崩す。俺はすかさず反撃を叩き込んだ。

 だが、思ったほどの手応えが得られない。


 俺の【黒月の剣】の闇属性力が、ほとんどダメージを与えられていなかった。

 相手は闇属性の極地とも言えるアンデッド。闇属性に強い耐性があるのだ。


「なら物理攻撃で押し切るまでだッ!」


 俺はデュラハンの周りを高速で旋回しながら、無数の斬撃を放った。暴風のような剣圧によって小さな竜巻が発生し、地面が削られて粉塵が乱れ飛ぶ。

 

 息が続く限り剣を撃ち込むこの連続技は【旋風剣】。これもランスロットに教えてもらった対魔物用の剣技だ。

 鍛えに鍛えた俺の体力と、敏捷性が活きる技だった。


 本来なら俺の物理攻撃力では、デュラハンにかすり傷ひとつ付けられなかっただろう。


 だが、剣技の攻撃力を40%上昇させるスキル【剣術レベル4】。

 攻撃力を100%上昇させるスキル【ジャイアントキリング】

 さらに父上から贈られた攻撃力10%アップの加護付きのミスリルの剣。


 これらの相乗効果の乗った連撃によって、デュラハンの硬い鎧にいくつもの亀裂が走った。

 よし、いける。押し切れるぞ!


「がぁああああッ!」


 【旋風剣】の隙間にデュラハンが無理やり、斬撃をねじ込んできた。

 不死身のアンデッドならではの防御を度外視した反撃だ。


 一か八か。

 限界まで加速していた俺は、デュラハンの剣の持ち手を叩き斬った。


「見事だぁ……ッ!」


 それはヤツの最後の力を振り絞った攻撃だったようだ。


 身体を切り刻まれたデュラハンは、地面に剣を落とす。同時に、その鎧が割れ、全身が光の粒子となって溶け崩れた。


 なぜかヤツの最後の言葉には、満足そうな響きがあった。


「うぉおおおおッ! やりましたぞ! カイン坊ちゃまが敵の大将を討ち取りましたぞぉおおおッ!」

「ホントにSランクモンスターを倒しちまうなんて、さすがは俺たちのカイン様だ!」


 ランスロットの大歓声と、シュバルツ兵団の勝ち鬨が響き渡った。


『デュラハンを倒しました。レベルが39に上がりました!』

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