勇者の当て馬でしかない悪役貴族に転生した俺~勇者では推しヒロインを不幸にしかできないので、俺が彼女を幸せにするためにゲーム知識と過剰な努力でシナリオをぶっ壊します~
26話。セルヴィアに身体で癒やしてもらう
26話。セルヴィアに身体で癒やしてもらう
ドドドドドッ!
と砂ぼこりを上げて、戦場に突入してくる軍団がいた。
動く腐乱死体──ゾンビの群れだ。その数は3000はくだらなかった。
「……って、おい、まさか。波状攻撃かよ!?」
さすがに肝を潰した。
敵は第一陣でフェルナンド子爵軍を倒せなかった時の備えとして、後詰めを用意していたんだ。
戦力を逐次投入して敵を疲弊させれば、いずれ必ず勝てるという寸法だ。
1万を超える数の有利と、休息を必要とせず無限に戦い続けられるアンデッドの特性を良く理解した戦術だった。
この敵将はやるな。
不覚にもゲーマー魂が騒いでしまった。
「ぎゃああああッ! もう無理!」
ゴードンが、恐怖に顔を引きつらせた。
口には出さないが、他の兵たちも同じ心境だろう。
デュラハンを倒したが、スケルトン軍団はまだ5000体以上残っていた。ソイツらが残った俺たちを包囲し、退路を塞ごうと動く。
「目的は達した! 総員、森へ退却だ!」
「はっ!」
俺はシュバルツ兵団に撤退命令を下した。
「ゴードン、俺たちは殿(しんがり)だ。味方の退却を援護するぞ。セルヴィアはランスロットと先行して、森に拠点を作ってくれ!」
叫びながら、俺は敵軍に向かって突っ込んで行った。
こいつらが敵将を狙ってくるなら、その特性を逆手に取って、俺が囮になれば良い。レベル39になった俺なら、死ぬ確率は低いだろう。
体力を回復できる【強化回復薬】(エクスポーション)もある。
「はい、カイン兄様! ご武運を!」
「嫌だぁあああああッ! なんで俺様がこんな目にぃいいいッ!」
泣きながら、ゴードンは【ファイヤーボール】の魔法を投げ放った。
★★★
数刻後。
俺はゴードンとふたりで、敵軍を引っ掻き回せるだけ引っ掻き回してから、夜の森に逃げ込んだ。
「本隊と離れて、どうやって合流するんですかぁあああッ!?」
ボロボロの疲労困憊になったゴードンが、不平不満を漏らしていた。
案の定、敵が俺を集中攻撃してくれたおかげで、ゴードンはなんとか生き延びることができた。
「……悪い。ぶっちゃけ、そこまで考えていなかった」
俺も疲れ切っていた。身体中がジクジクと痛む生傷だらけだ。
もう【強化回復薬】(エクスポーション)も使い果たした。
だけど2000体くらいは、敵を屠れたかな?
「なんですかぁ!? 今日こそ俺様は、かわいい巨乳メイドちゃんに添い寝してもらおうと思ったのにぃいい!? 野宿!? 魔物がウヨウヨいる森の中で、野宿ぅ!?」
「……オーチバル伯爵家では、戦場にメイドなんて連れて行くのかよ?」
その時、俺はかすみ草の白い花が、道なりに続いているのに気付いた。
俺とセルヴィアにとって、特別な意味を持つ花だ。しかも、開花時期は過ぎている。
これは、もしかすると……
かすみ草を辿って行くと、セルヴィアが【世界樹の聖女】の能力で作った拠点ができていた。
巨木が隙間無く密集して天然の防壁となり、魔物の侵入を阻んでいる。
「……えっ、カイン様。これって、どうなっているんだ?」
あり得ない光景の出現に、ゴードンはキョトンとした。
俺たちが近付くと、大樹の防壁に自動的に穴が開いて、中に入れるようになった。
「はぁ!?」
「話すと長くなるんだが。セルヴィアは本物の【世界樹の聖女】だったんだ。これはセルヴィアが作った即席の砦だな」
「はぁあああああッ!?」
「このことは絶対に他言無用だぞ」
疲れ果てて説明が億劫だったので、重要な命令だけした。
中では、フェルナンド子爵軍とシュバルツ兵団が天幕を設営して休んでいた。
俺たちが通り抜けると、木の穴は再び閉じてしまう。
すごい。だんだんセルヴィアも、聖女の力を使い熟せるようになっているみたいだ。
「カ、カイン様がお戻りになられたぞぉおおおおッ!」
「おおっ、よくぞ、ご無事で!」
俺に気付いた両軍の兵たちが、歓喜して集まってきた。
「カイン殿、本当にかたじけない! シュバルツ兵団から分けていただいた【強化回復薬】(エクスポーション)のおかげで、急死に一生を得ましたぞ!」
エドワード殿が護衛の兵士と共に俺の前にやってきた。
その傷はすっかり良くなっていた。
「もう助からないと思った怪我人も【強化回復薬】(エクスポーション)のおかげで、全快しました! いやはや、これほど貴重な薬をいただけるとは!?」
「感謝の言葉もありません!」
フェルナンド兵たちは、口々に俺に礼を述べる。
「……それは良かったです!」
俺も差し出された【強化回復薬】(エクスポーション)を飲む。
一気に疲れと傷が癒えた。
「事情はセルヴィアより詳しく聞きました。セルヴィアが真の聖女であったとは、驚きですが。これほどの奇跡を目の当たりにしては、信じぬ訳にはいきませんな」
「はい。ですが、このことは、くれぐれも内密にお願いします。セルヴィアが聖女だと知れば、レオン王子は必ずセルヴィアを奪い返そうとするでしょうから」
そうさせないためには、武術大会で優勝して大衆の面前で、レオン王子に俺とセルヴィアの結婚を公認させるか。
シュバルツ伯爵家が、王家を上回る力を手に入れるしかない。
あるいは、もう一つ手もあるが……
「ああっ、カイン坊ちゃま! よくぞ無事にお戻りに!」
ランスロットが、駆け寄ってきて俺の前に跪く。
「坊ちゃまが事前におっしゃられた通りでした。森の中で、我らを嗅ぎ回っている連中を見つけましたぞ!」
ランスロットが後ろを振り返ると、俺の兵たちが、数人の男を引き連れきた。彼らは縄で縛られて気絶している。
「ランスロット、良くやってくれた。引き続き、警戒に当たってくれ」
「はっ!」
「この者らは?」
エドワード殿が首を傾げる。
「暗器に毒薬、それに身体に染み付いた血の匂い。暗殺者ですな。おそらく、確実にエドワード様を亡き者にしようとしたレオン王子の刺客でしょう」
「あ、暗殺者ですと!? エドワード様を死地に送くった上に、暗殺のような卑怯な手まで!」
フェルナンドの兵たちが、怒り狂っていた。
その気持ちはわかるが、俺は暗殺を卑怯だとは思わない。
暗殺とか、戦争ゲームではよくやった。
「カイン坊ちゃま、この者らの処遇、いかがいたしましょうか? 首をはねますか?」
「俺と奴隷契約を結ぶように交渉してくれ。手荒なマネをしても構わない」
「ほう。坊ちゃま、コヤツらも兵団に加えるおつもりで?」
「いや……」
「カイン兄様! ご無事だったのですね!?」
俺が答えようとすると、セルヴィアが駆け寄ってきて、胸にダイブしてきた。
「うおっ!? セルヴィア!」
「今日のカイン兄様は、いつも以上にステキでした! でも、無茶はしないでください。大丈夫だと信じていたのですが……す、すごく心配したんですよ?」
「あっ、ああ……!」
うーん、セルヴィアにはやっぱり癒されるなぁ。
ささくれた心が、温かくなる。
前世でも、仕事から帰ってきてゲームを起動して、セルヴィアの顔を見ると癒されたなぁ。
しばらく抱き合って、お互いの無事を身体の温もりで確かめ合う。
「兄様に頼まれた拠点作りをがんばってみたのですが、いかがでしょうか? これならみんな安心して休めますか?」
「えらいぞ、セルヴィア。これなら、安心して眠れるし、最高だ」
「えへへっ」
セルヴィアの頭をなでてやると、彼女は気持ち良さそうに目を細めた。
「セルヴィア。再び婚約者となったというのに、未だにカイン殿のことを兄と呼ぶのだな」
「お父様……長年の癖で、それ以外の呼び方ができなくなってしまいましたね。いつか、カイン兄様と結婚したら、呼び方が変わると思います」
結婚かぁ。
いつかその日が来ると思うと、デレっとしてしまう。
最推しヒロインと相思相愛なんて、まさに夢のような生活だよな。
だからこそ、俺とセルヴィアの幸せを阻む者は、叩き潰さなくてならない。
「では、カイン殿。セルヴィアと2人用の天幕をご用意しましたので、どうか英気を養ってくだされ」
エドワード殿が頭を下げてきた。
……うん?
「セルヴィアよ、カイン殿こそ真の英雄。カイン殿のようなお方を夫とできるとは、お前はまことに果報者であるぞ。今宵は、お前の身体で、カイン殿を存分に癒して差し上げるがよい」
「はい、お父様。カイン兄様、初めてでうまくできるかわかりませんが、今夜は精一杯ご奉仕させいただきますね」
セルヴィアは何やら瞳を潤ませ、期待に胸を膨らませているようだった。
「えっ、ちょ、ちょっと……何をご奉仕するんだ? そ、それに身体って?」
俺はゴクリと生唾を飲み込んだ。
身体が、カッと熱くなってしまう。
「ハハハハハッ! 戦の後で、女子(おなご)にしてもらうことと言えば、ひとつでありましょう?」
「兄様、まずは服を脱ぐのを手伝って差し上げますね? 裸になってください」
「いや、ちょ!? そっ、そそそ、そんなことしなくて良いてぇ!」
セルヴィアはこの前15歳になったばかり。結婚もしていないのに、とんでもない!
エッチなのはイケないと思います!
「大丈夫です。カイン兄様はお疲れなのですから、何もせずに裸で横たわっていただければ。私がんばりますので。その……もし痛かったら、言ってくださいね?」
「いやぁあああッ! ちょ、ちょっと待てぇええ!? 【アポカリプス】は18禁じゃなかったハズだぞぉおおおッ!?」
俺は慌てて後ずさった。
「【アポカリプス】? ランスロット、カイン兄様を私たちの天幕にお連れしてください」
「はっ! セルヴィアお嬢様!」
「待て、ランスロット! やめろぉおおおッ、離せ!」
「カイン坊ちゃま! いかに坊ちゃまのご命令でも、こればかりは……これは貴族としての当然の責務でございますぞ!」
「兄様、大丈夫です。ちゃんと気持ち良くして差し上げますから。私にすべて任せください」
その後、俺はセルヴィアに汗まみれになった上半身をタオルで拭いてもらった。
めちゃくちゃ気持ち良かった。
それ以外は、特に何も無かった。
……あ、あれ?
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