27話。新スキル【アンデッドバスター】を習得

 2日後の昼間──

 森の出口付近に、俺はシュバルツ兵団90名を布陣させていた。


「みなさん、がんばってください。ノルマまで、もう少しです」

「うっす! セルヴィお嬢!」

「うーん、薬草の良い香りがするなぁ」


 俺たちは、何もせずに待機している訳ではない。

 セルヴィアの【世界樹の聖女】の力で薬草を召喚して、みんなで【回復薬(ポーション)】作りをしていた。

 

 俺たちは全員、薬師のリルとアッシュの指導によって、【薬師レベル1】のスキルを習得している。


 昨日から鬼のように作業し続けたおかげで、山のような【回復薬】の瓶が溜まっていた。


「カイン兄様。6000本のノルマが達成できましたが、お父様の軍に分けるにしても、ちょっと量が多すぎませんか……?」

「えっ、これは攻撃用なんだけど。アンデッドを倒すには【回復薬】が一番だろう?」


 小首を傾げてくるセルヴィアに、俺はちょっと驚いた。


「【回復薬】が攻撃用? 一体、どういうことですか?」

「うん? アンデッド対策の基本じゃないか?」

「……いや、初耳ですぜ!」


 みんな狐につままれたような顔をしていた。

 これは、まさか……


 【回復薬】がアンデッドにダメージを与えられるのは、ゲームでは当たり前の知識だったが、この世界の住人にとっては違うのか?


 Aランク以上のアンデッドには通用しないが、Dランク以下なら、ほぼ一撃で倒すことができる。そして、敵の構成はDランク以下のスケルトンとゾンビだった。

 剣で斬るより、こっちの方が確実なのだ。


 ちゃんと説明しようと思ったが、もう作戦開始まで時間が無い。

 平野から、こちらに押し寄せるアンデッドの大軍の土煙が見えてきた。


「……仕方がない。俺が合図したら全員で、アンデッドに【回復薬】を投げつけるんだ! それで間違いなく奴らを倒せる!」

「わかりました。カイン様がそうおっしゃるなら!」


 アンデッド軍団は、この先にある街を全滅させて、拠点にしていた。

 偵察によると、その数、約1万5000以上という悪夢のような状況になっている。


 そこで俺はゴードンに【ファイヤーボール】の魔法を死の街に数発撃ち込んでもらい、ヘイトを買ってもらうことにした。


 ゲームでも良く使っていた敵を誘い出す戦法だ。


 もし危なくなったらセルヴィアが森に作った【大樹の砦】まで撤退すれば良い。

 フェルナンド子爵軍には、そうなった場合に備えて【大樹の砦】に待機してもらっていた。


「ひぎゃぁああああッ! 俺様、こんな役回りばっかり!?」

「カイン坊ちゃま。敵を引き連れて参りましましたぞぉおおッ!」


 ランスロットに率いられた騎馬隊が、死の街から必死に逃げてきていた。


 予想以上に釣れたな……

 ざっと見て1万体以上はいるだろう。


 俺たちが森から出て少数でいるのを見て、敵将は好機と判断したのだろう。


 敵将はやはり、兵力を出し惜しみせず、数で押し潰す作戦のようだ。

 

「うまくいったな。ありがとうランスロット!」

「はっ! この程度、カイン坊ちゃまの為なら、お安い御用でございます!」

「もうヤダ! お家に帰してぇえええッ!」


 アンデッドは動きが緩慢なので、騎兵なら追いつかれる心配はまず無いが、追われる側は生きた心地がしないだろう。


「や、やべぇ、すげぇ大軍だぜ……」


 俺の配下たちは、恐怖に息を飲んだ。

 なにしろ、アンデッドは根源的な恐怖を刺激する上に、こちらの兵数の100倍以上だからな。


 でも敵の弱点を突いた罠を張っていれば、恐れるに足らない。


「セルヴィア、今だ。ランスロットたちが抜けたぞ!」

「はい、【アルビドゥス・ファイヤー】!」


 セルヴィアがアンデッド軍団に向かって、火炎を撃ち込んだ。それは地面にあらかじめ敷いておいた油を含んだ大量の枯れ草に引火して、爆発的に燃え広がる。


 アンデッドは火に弱い。

 炎に巻かれたアンデッドどもは、絶叫を上げて滅び去る。盛大な火葬だ。


 だが、恐れを感じないアンデッドは、物量に任せて炎の海を強引に突破してきた。


「よし、【回復薬】を奴らに向かって、投げつけろ!」

「はっ!」


 配下たちは【回復薬】の瓶を次々に投擲した。

 【回復薬】の溶液を浴びたアンデッドは、酸で焼かれたように溶け崩れる。

 

「すげぇ! 奴らの身体が崩れていきますぜ!?」


 その光景にみんな目を剥いていた。


「アンデッドは人間の逆で、【回復薬】を浴びると、大ダメージを受けるんだ。奴らにとって【回復薬】は猛毒なんだ!」

「やったぁあああ! これなら楽勝だぁ!」


 兵たちは、アンデッドに次々に【回復薬】を投げつけて、あの世に送り返した。

 

 セルヴィアは【アルビドゥス・ファイヤー】を放ち続け、敵を寄せ付けない。


「カイン兄様、身体がすごく熱くなって……えっ、スキル【火炎使い】を手に入れたみたいです!」

「やった!」


 俺は思わず快哉を叫ぶ。

 大量のアンデッドを火を使って倒したことで、セルヴィアは【火炎使い】に必要なスキル熟練度を入手できたのだ。

 

 これも、今回の作戦の狙いのひとつだった。


「【火炎使い】は、火属性攻撃のダメージが30%アップもする激レアスキルだ。やったなセルヴィア!」

「は、はい!」


 【火炎使い】は、ずっと火属性攻撃ばかり使っていると、獲得できる隠しスキルだった。

 他の属性攻撃を使うと、隠しパラメータである【火炎使い】のスキル熟練度がリセットされる鬼畜仕様だ。


 このため、セルヴィアには火の魔法だけしか使わないように言ってきた。


 それを律儀に守ってくれたからこそ、この土壇場で、セルヴィアの火力特化型ビルドは、完成の域に達したのだ。


「敵は、俺が囮となって引き付ける! 【アルビドゥス・ファイヤー】を撃ち続けてくれ!」


 俺は前に出て、スケルトンどもを剣で粉々に粉砕しながら叫んだ。


 案の定、敵は指揮官の俺めがけて殺到してくる。

 セルヴィアに指一本触れさせまいと、俺は剣を縦横無尽に振るった。


 2日前の死闘を経て、俺の剣の腕前はさらなる領域に達していた。敵の動きが、以前よりよくわかる。

 素早く移動しながら、包囲される前に敵を斬り伏せていった。

 

「はい、カイン兄様! 援護します!」


 セルヴィアが再度、【アルビドゥス・ファイヤー】を放つと、巨大な火柱が立って、アンデッドの群れを焼き尽くした。


「おおっ! 今の攻撃はセルヴィアお嬢様ですか!? 助かりましたぞ!」


 ランスロットが歓声を上げる。彼が率いる囮部隊も、戦列に加わっていた。


 ランスロットは騎士剣で、ゾンビの群れを薙ぎ倒す。

 ゴードンも泣きながら魔法を放っていた。


 罠に嵌った敵軍は、おもしろいように一方的に倒されていく。


 Sランクモンスターがいることを警戒していたが、今回はいないようだった。


 俺たちが疲弊したところに主力を投入するつもりかとも考えていたが、その気配もない。


 ……どういうことだ?

 さすがにSランクモンスターを複数従えるなんて、不可能ということか?


 いぶかしく思うが、それならそれで俺たちのレベル上げができるので好都合だ。これでシュバルツ兵団は、全員、レベルが5はアップするだろう。


「すげぇえええ! まさかアンデッドの大軍をこうも一方的にボコれるなんて!」

「カイン様に率いられた俺たちは無敵だぞぉおおおッ!

「カイン様、バンザイ!」


 配下たちから喜びと称賛の声が上がった。


 ほとんどワンサイドゲームで、俺たちはアンデッド軍団1万の殲滅に成功したのだった。


 さらにシステムボイスが、新スキルの獲得を告げる。

 これで俺の勝利は、ほぼ確定的となった。

 

『Sランクのアンデッドモンスターを倒し、単独で3000体以上のアンデッドの討伐に成功しました。

 おめでとうございます!

 スキル【アンデッドバスター】を習得しました。

 アンデッドの持つ耐性、スキルを無効化できます』


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カイン・シュバルツ

レベル40(UP!)


ユニークスキル

【黒月の剣】

 剣技に闇属性力が付与されます。


スキル

【剣術レベル4】

 剣技の命中率と攻撃力が40%アップします。


【矢弾き】

 飛び道具を弾く成功率が50%アップします。


【ジャイアントキリング】

 レベルが上の敵と戦う際、HPが半分以下になると攻撃力と敏捷性が100%上昇します。


【薬師レベル1】

 薬の調合が可能になります。


【アンデッドバスター】(NEW!)

 アンデッドの持つ耐性、スキルを無効化できます。


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