20話。最強の兵団作りに着手する

 ゲーム【アポカリプス】で、最強の私設兵団を作る方法。それは主人公に絶対服従の奴隷のみで、兵団を組織することだ。


 そのために必要なアイテムが【奴隷契約のスクロール】だった。かなり値が張ったが、俺はこれを100枚以上購入した。


「さすが貴族、良く知っているじゃないか? このスクロールに署名すると、俺の命令に逆らった瞬間、死ぬほどの激痛が走る呪いがかかる。つまり、俺に一生仕える奴隷となるんだ。お前たちにはこのスクロールに署名してもらうぞ!」

「お、鬼かぁあああッ!?」


 ゴードンは恥も外聞もなく泣き叫んだ。


「いや、鬼って……戦に破れたら、殺されるか奴隷にされるのが、この世界の常識じゃないのか? 特に貴族を捕らえて奴隷にするメリットは大きい」


 そのための【奴隷契約のスクロール】だ。


 貴族は能力値が高い者が多く、高価な武具や装飾品を身に着けている。貴族を奴隷にして、その財産を没収して売り払い、また【奴隷契約のスクロール】を買う無限ループに入るのが、戦争パートの必勝法だった。


 なにより奴隷は、兵として有用性が高いユニットだ。


 ゲームでは【忠誠心】というパラメーターが存在し、これと兵の戦闘能力は比例関係にあった。【忠誠心】が高ければ高いほど、強力な兵となる。


 忠誠心が10以下になると、脱走されたり、最悪、裏切られたりされるのだが、奴隷にしてしまえば【忠誠心】は常にマックス100を維持できた。


 ちなみに、ネット上では『帝国より鬼畜な勇者(笑)』『奴隷制度は人類史上もっとも優れた制度です』『美少女奴隷ハーレム王に俺はなる!』などと言われてネタにされていた。


「さすがはカイン坊ちゃま、まことに慈悲深くあられます! 山賊を奴隷契約で兵士とすることで罪を償う機会をお与えになるとは……ッ! 本来なら山賊は例外なく死刑ですからな!」


 ランスロットが感銘に声を震わせる。

 ゴードンに雇われた山賊どもは、真っ青になっていた。


「なによりカイン坊ちゃまに絶対服従の軍隊を組織できます。死ねと言われたら死ぬ兵こそ、最高の兵士です!」

「……セルヴィアの護衛を任せるなら、俺を絶対に裏切らない連中じゃないとダメだからな」


 セルヴィアを【世界樹の聖女】だと知った上で、決して秘密を漏らさない兵で彼女を護衛したかった。

 それには、兵はすべて奴隷で構成するのが最良だ。


「カイン、薬売りの商売を始めたのは、【奴隷契約のスクロール】を買うためだったの?」


 エリス姉上が目を丸くする。


「はい姉上。もともと、シュバルツ伯爵領を荒らし回ってる山賊を捕らえて、奴隷契約を結ばせようと考えていたんです。それで、ずっと山賊どもの動向をうかがっていました。今回、商人から山賊どもが集まっているという知らせを受けて、何か良からぬことを企てているのではと思って急行したら、エリス姉上とセルヴィアが襲われていたんです」

「はひゃ~ッ。お姉ちゃん、驚いたわ。カインってば、領民のためにそこまで考えていたのね!」


 エリス姉上は、なにか勘違いして感激していた。


「えっ……?」


 いや、罪もない人を奴隷にする訳にはいかなかったからなんだけど。

 それに山賊なら兵士として、即戦力になってくれると思った。


「さずかはカイン兄様です! 魔物退治の次は、山賊退治ですか!?」

「カイン坊ちゃまは、まさに名君であらせられます! このランスロット、感動しっぱなしですぞぉおおおッ!」


 セルヴィアとランスロットが、例によって感嘆の声を上げている。

 誤解を解くのは無理そうだし、今はそれどころではないので、スルーすることにする。


「あ、謝る! 謝るから俺様だけは見逃してくれぇえええッ! 俺様はオーチバル伯爵家の次期当主だぞ! 俺様を奴隷にしたら、大問題だぞ! オーチバル伯爵家と戦争になるぞぉおおおッ!?」

「お前を奴隷にしたことを公言しなければ、何の問題も無いだろう? ここであったことを告げ口するようなヤツは、誰もいないしな」


 俺はランスロットから【奴隷契約のスクロール】を受け取って、ゴードンに突きつけた。


「さあ、これに名前を書け。もし断れば、お前にはここで死んでもらうぞ。それでオーチバル伯爵家と戦争になろうが、俺は一向に構わない。これはお前らが仕掛けてきたケンカだろ?」

「ひぃっ!」


 俺が本気であることが伝わったのだろう。ゴードンは小さな悲鳴を上げた。


 奴はしばらく身体を屈辱に震わせていたが、やがて観念したようだ。

 ランスロットからペンを受け取ると、【奴隷契約のスクロール】に名前を書いた。契約成立だ。


「こ、この俺、ゴードン・オーチバルは、カイン・シュバルツ様に、ぜ、絶対なる忠誠を誓います!」


 ゴードンは泣きながら、俺に臣下の礼を取った。両手を地面につけ、額を地面に打ち付ける。


「よし。俺も鬼じゃないし、あんまり無茶な命令をする気は無いから、心配するな」

「ほ、ホントですか……?」


 俺が肩を叩くと、ゴードンはほっとしたようだった。


「いずれレオン王子率いる王国軍とやり合う時が来るかも知れないから、その時、オーチバル伯爵家に援軍に来てもらうだけだ」

「ひゃぁああああッ! 王国軍とやり合うって、そんな嘘ぉおおおおッ!?」


 ゴードンは嫌がっているが、決して拒否することはできない。


 俺の命令を拒否すれば、耐えがたい痛みがヤツを襲うのだ。この痛みから逃れるためなら人間は何でもする。


「無論、本気だ。うん、大丈夫だ。勝てるから」

「嫌だぁあああああッ!」

「……カイン兄様。ありがとうございました。おかげで、助かりました」


 セルヴィアが唇を震わせて、俺を見つめた。


「遅れてホントにごめん、セルヴィア! どこも怪我していないか!? エリス姉上をよく守ってくれた!」


 もしセルヴィアが怪我でもしていたら、ゴードンたちには、さらなる地獄を味わってもらうところだった。


 俺の目の届かないところでセルヴィアを護衛するためにも、やはり私設兵団は必要だな。


「はい、カイン兄様に教えていただいた【アルビドゥス・ファイヤー】のおかげです。いざという時、身を守れる力があるのは、こんなにも心強いことなのですね」

「ええっ!? セルヴィアのあの火の魔法って、カインが教えたものだったの!?」

「はい。すべて、カイン兄様のご指導のおかげです!」


 エリス姉上とセルヴィアが手を取り合って喜んでいる。

 俺はゴードンの手下どもに向かって宣言した。


「さあ、お前らも、ひとり残らず俺と奴隷契約を結んでもらうぞ。死か服従か、選べ!」


 俺には傲慢な悪徳貴族として生きてきた経験がある。それを活かして、威圧的に服従を迫った。


「は、はい! もちろん服従を誓います! だから殺さないでぇえええッ!」


 その効果はてきめんだったようで、男たちはひざまづいて許しを請うた。

 ランスロットがやつらに【奴隷契約のスクロール】を配り、次々に俺の支配下に加えていく。


「じゃあ、ゴードン。最初の命令だ。お前はシュバルツ伯爵家にやってきて、俺がセルヴィアを奴隷のように虐待しているのを見たと王家に伝え、オーチバル伯爵領でその噂をばらまくんだ。それと今後、オーチバル伯爵家とシュバルツ伯爵家は盟友だ。そこんとこヨロシクな!」

「は、はいぃいいいッ!」

「すごい! こいつらをやっつけちゃっただけでなく、オーチバル伯爵家との関係まで改善しちゃうんて、なにからなにまで凄すぎよカイン!」

「まさしく! 武人としての資質だけでなく、領主としての政治手腕もお持ちとは。さすがはカイン坊ちゃまであります!」

「はい、カイン兄様は世界最高です! まさに神です!」


 セルヴィアたちが尊敬の眼差しを向けてきた。

 俺はゲーム知識を使って最適な行動を取っているだけなので、こそばゆい。

 俺はさっそく男たちに命令する。


「よし、今日からお前たちは俺の手足【シュバルツ兵団】だ! さっそく特訓だ! シュバルツ伯爵家までマラソンして帰って、それから剣の素振り1000回だ!」


 ここからは、コイツらを最強の兵士に育成するためのターンだ。

 コイツらを使い物になるようにすれば、魔物討伐の効率も上がるだろう。


「ひゃぁああああッ! そんないきなり……勘弁してくだせぇえええッ!」

「ダメだ! お前たちが目指すのは、世界に名が轟くアトラス帝国、皇帝親衛隊にも勝る最強の軍隊だ! 俺の言う通りにすれば、相手が近衛騎士団だろうが、皇帝親衛隊だろうが必ず勝てる! とりあえず半年で、Sランクの魔物が討伐できるようにするぞ!」

「無茶苦茶だぁああああああッ!」


 荒くれ者たちの絶叫がこだました。


「おおおおおおッ! カイン坊ちゃまが組織される最強の軍隊、見たい! 見たいですぞぉおおおッ!」


 ランスロットは、ただひたすらに熱狂していた。

 こうして俺は、俺に絶対の忠誠を誓う100人の兵と、頼もしい盟友を手に入れたのだった。

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