第29話 大人になっても興奮するにはピュアな心が大切
『ラウラ★アクセ』がめでたく開店して、黄金を西の山からかっさらい、魔族の子供を拾ってから早一週間が過ぎた。
残りの
〜大変申し訳ございません。ただいま
と書いた看板を店頭に立てて、現在『ラウラ★アクセ』は休業中。
西の山で保護した魔族の子だが、日々回復はしてるものの、いつ目を覚ますかわからない状態とカロザの言。よほど封印による衰弱が激しかったのだろう。
と言うわけで、取り立ててやることのなくなった吾輩とラウラは、宿屋を借りてカルドラの町を満喫していた。
なにせ
……つか、ほぼ買い食いだけなのだが。
ラウラは女子が好きであろうかわいらしい洋服や、おしゃれなアクセには目もくれず、カルドラのグルメを思う存分堪能していた。
場所はカルドラでも人気の高い、串焼き店のテラス席。
「……おいラウラ。お前、少し太ったのではないか?」
「気のせいだよゴリラ。そんなすぐに太るわけでしょー」
「確かにな。普通はそんなにすぐには太らないと思うぞ、吾輩も」
「でしょー! 気のせい気のせい! あ、おじさーん! 串焼きもう一本ください!」
あいよ! と、威勢の良い店主の声が返ってきた。
「だがな、一日6食も食べていれば、さすがに結果がコミュットすると思うぞ」
そんな吾輩の諫言には耳も貸さず、ラウラは串焼きをはむはむ食べている。
店主が新しい串焼きを持って現れた。
「よぅ嬢ちゃん! いつもいい食いっぷりだねぇ。今日も肉を一切れサービスしといたよ!」
「はひはとー!(ありがとー!)」
もごもごそ咀嚼しながらラウラはにっこり微笑んだ。
……ダメだこりゃ。完全に飲食店の主人たちに餌付けされている。
「はいよ! これは俺のおごりだ! お前はいいご主人を持ったなぁ」
店主が皿を吾輩に差し出した。小さくカットした肉が乗っている。
……まあ、礼は言わないといけないよな。
感謝の気持ちを込めて吾輩は小さく吠えた。
⚫️⚪️⚫️⚪️⚫️⚪️⚫️⚪️⚫️⚪️⚫️⚪️⚫️⚪️⚫️⚪️⚫️⚪️
買い食いを終え、ラウラと吾輩は宿へと帰った。
さすがカロザが紹介してくれただけあって値段も手頃。それでいて、それなりに設備の整った宿である。
各部屋に体を洗い流すシャワーが付いている宿は、カルドラでも珍しいらしい。
胃袋をぱんぱんに満たしたラウラと共に、部屋へ戻ろうとしたその時だった。
「あ、お客様。荷物と手紙が届いてますよ」
宿の受付の女将さんが、ラウラを呼び止める。
手紙を受け取ったラウラは、それを見て飛び上がった。
「———ベン叔父さんからだっ!」
ラウラは小走りで部屋へと駆け込んだ。
「ちょ、ちょっと待って! 荷物もあるのよ! ……ってお前が渡してくれるのかい?」
女将は口を開けた吾輩に気づくと、小さな荷物を咥えさせてくれた。
「お前はえらい子だねぇ」
……これくらいできないと、ラウラの面倒は見れないからな。
そう心の中で呟きながら、吾輩も部屋へと走り出す。
部屋の扉は開け放たれていて、ラウラが急いで飛び込んだのがわかる。
吾輩は部屋に入ると、頭で押して扉を閉める。
そしてベッドの上で、手紙を読み始めようとしているラウラのそばに駆け寄った。
「……おいラウラ。この手紙、なんかおかしくね?」
「あーこれね。これはね、叔父さんとの決め事なの」
手紙の上半分がラウラが一週間前に送った文。そしてその下半分に、別の筆跡の文がある。
「私がね、書いたことを忘れちゃわないようにって、叔父さんが手紙を書くときは、半分空けておけって」
さすがベン。ラウラのことをよくわかっている。
「……それはわかった。じゃあ、手紙のところどころに付いている、この黒いシミはなんなんだ?」
「あ、本当だ。……うーん、なんだろ?」
実に不思議な手紙である。吾輩は鼻を近づけ匂いを嗅いでみた。
……これは、血だ。
吾輩はベンが書いた文を目で追った。
『いいかラウラお前はそのままカルドラで店を続けろ二日徹夜して
と、このような内容のことが、殴り書かれていた。
そして黒いシミの正体がわかった。
これはベンの鼻血だ。
書いている途中に興奮して鼻血が出たのか、それとも送られた黄金と手紙を見て、驚きのあまり鼻血を吹き出したのかは定かではないが。
「———わかったよベン叔父さん! 私、ゴリラと一緒に頑張るから!」
ラウラは吾輩を見ながら拳をグッと握り締めた。
ラウラという子は、実に不思議な子である。
元大魔王の吾輩を、こうも簡単に籠絡するとは。
まあ、ラウラにやる気があるのなら、吾輩も全力で手伝ってやろうではないか!
レベル999の勇者から逃げた大魔王は飼い犬になってスローライフを満喫する!? 蒼之海 @debu-mickey
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