第27話 洞窟や廃墟なんて三度の飯より子供は好き
いよいよもって吾輩の耳が、イカれたのかもしれない。
それならいっそ、辻褄も合う。
そういえば朝から体が少しダルいからな。
きっとその影響だろう、うん。
「……吾輩、ちょっと熱でもあるのかもしれぬ。まさかこの黄金を持って帰るなんて、そんな恐ろしいこと言っていないよな、カロザ」
「いえ、やはり持って帰りましょう。ラウラ様のためです」
「ああああああぁぁぁああ! もうそれ以上言わないでっ! 危険な発言をしないでぇえぇええ!」
どう見たって何かを封印している祠だよ!?
ラウラのためとは言え、だいぶはしゃぎすだと思う。
無茶をするなら吾輩のいないところで、勝手にやってもらいたい。
「カロザ、お主の気持ちは痛いほどわかった。その気持ちだけ、ラウラに届けようではないか」
「この後に及んで怖気付いたのですか、キール様」
いや、お前に言われたくないわぁぁ!
吾輩だってこんな犬の姿じゃなく、元の体だったら封印の一つや二つ、屁でもない。
むしろ興味本意で吾輩が率先して、祠を壊すくらいのそれはもうやんちゃっぷりを披露するだろう。
しかし、封印の中には大魔王の身であっても厄介なものが存在するのもまた事実。
例えばだ。
封印されているものが物質ではないケース。
これはかなりめんどくさい。
長い年月をかけて熟成された「呪い」などは、魔法とは違った組成をしており、解呪に時間がかかったりする。
さらにもっと手に追えない案件もほかにあるのだが……。
カロザは祠に向かって手をかざす。
「ご安心くださいキール様。魔力残滓はごくわずかです。ここに封印されているモノは、おそらく魔族ではないでしょうか?」
「魔族……だと?」
「はい。私たちと違い、キール様が直接生み出した魔族のことです。そこそこ力のある魔族が、そこそこ力のある人間に封印された。そしてキール様がそのような姿になられた後、封印内で息たえて、その魔力の残りが漏れ出ているのではないかと」
……確かに。
それだと綺麗に説明がつくな。
「さあ、納得したら、この黄金を持って帰りましょう。ラウラ様の喜ぶ顔が目に浮かびます。ディア、一応周囲の警戒を」
「はーい! カロザ様!」
「ちょ、ちょっと待つのだぁぁ! もう少し、じっくり考えてから……」
吾輩が止める隙もなく、二人はテキパキと作業を進めてく。
カロザが黄金に手をかけて、持ち上げる。
黄金で蓋をされた空洞から、もわっと瘴気が立ち込める。
ディアはなんのためらいもなく、祠に空いた穴を覗き込んだ。
「……カロザ様ぁぁ。穴の奥に何かいまーす!」
「そうですか。ディア、中に入って様子を見てきなさい」
「はーい! 喜んでぇぇ!」
ディアは嬉々として返事をすると、するすると空洞へ降りていった。
暫くすると、空洞の反響で揺れたディアの声が地上に届いた。
「カロザ様ぁぁ! 小さな子が倒れていまーす!」
カロザと吾輩が穴の中へと顔を向ける。
だけど縦穴はかなり深くて光が届かず、真っ暗闇である。
この暗がりでよくもまあ、何かあるとわかったものだ、ディアのヤツ。
「子供だと? ……どういうことだ? カロザ」
「はてさて……私の予想外の展開です。だけどここに封印されていたのは紛れもない事実。もう、生きてはいないでしょう」
ディアの明るい声が、穴の底から再び届く。
「カロザ様ぁぁ。まだ生きているみたいでーす。……トドメを刺してもいいですかぁー!」
「ま、待ちなさいディア! その子を引き上げなさい!」
「えー、めんどくさいです〜!」
「言うことを聞きなさい、ディア! 晩御飯を抜きますよ!」
「うはん……はーい! カロザ様の仰せのままにぃ〜!」
何やら嬉しそうな声で返事が聞こえた後、片手で器用に登ってくるディアの姿が見えてきた。見かけによらない腕力である。
ディアに片手で引き上げられた子供とは。
頭に小さな角が生えた、幼い男の子であった。
……完全に魔族であることは間違いない。
しかもカロザたちと同じ、二世魔族がまたしても、存命していたとは。
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