第25話 幼い姿だからってあんまし舐めないでもらいたい
「待っていましたよ、ディア。少し貴方に話があるのです」
そう言い終わると、カロザは吾輩をチラリと見て。
「……しゃべってもいいですよ」
———はて? 吾輩の聞き間違いだろうか。
このディアと呼ばれた人間の前で? 吾輩が?
いくらこの人間が幼体だからといって、そりゃないだろう。
吾輩、今は犬の姿なのだから。
しゃべる犬なんて、いい噂の種である。同時に吾輩と一緒にいる、ラウラの立場も危うくなってしまう。
いやいやこれは吾輩の早とちりだ。カロザの性根がいくらねじくれていようと、さすがにそれはないわー。やはり吾輩の聞き間違えだな。この幼女への言葉を、吾輩に言ったと聞き間違えたんだ、うん。
吾輩が一人で納得していると、カロザはため息を枕詞にしてもう一度言った。「しゃべってもいいですよ」と。今度はしっかり吾輩に向かって。
———はぁぁぁあああっ!? バカじゃねーのコイツ!
そっちがその気ならもう後のことなんて知らねーからな! お望み通り喋ってやろーじゃねーかぁぁぁあああ!
「……おいカロザ! もうどーなっても知らないからな!」
「あは。犬が喋ったー。まじウケるんですけどー」
ディアと呼ばれたメイドの少女は、取り立てて驚きもせずに笑顔を返した。
……あれれ? なんかおかしいな。
「この子の名はディア。私と同じ魔族間の子供なのです」
ポカンとしている吾輩を見て、カロザが意外な事実を口にした。
な、なんと! 魔族の生き残りがここにもいたとは!
それにしてもこの短期間で二人目だ。もしかしたら、生き残っている魔族の末裔は、もっと多いのかもしれない。
吾輩はなんとも言えない寂寥感に包まれた。と、同時にここは吾輩の威厳の見せ所である。
「……ディアとやら、喜ぶが良いぞ。こんな姿ではあるが吾輩こそ、千年もの長き刻に渡って人類を恐怖の底に叩き落とした、その名も大魔王キールである!」
「え、大魔王? なにそれー。アタシ知らなーい」
「無駄ですよキール様。このディアは外で産まれた魔族です。残念ながら魔族の故郷とも言える『地下神殿』すら知りません」
「な、なにいいいいぃぃぃ!?」
吾輩という偉大な存在を知らない魔族がいることに、驚きを覚えた。
魔族は基本、吾輩の魔力を糧にして定期的に産み出されていた。
産み出されていた魔族たちは、吾輩に謁見をし、各々の任務へとついていく流れだった。カロザのように魔族間で産まれた魔物であっても、そのフローは変わらなかったと思う。……いちいち出生までは確認していなかったが。
大魔王とは、意外と多忙な役職なのだ。
勘のいいカロザのことである。
驚きを隠せない吾輩に気付き、説明を始めた。
「5年ほど前でしょうか。私がまだキール様の
……確かに、ありえなくない話ではある。
しかしこのカロザが幼い魔族の保護などと。
魔族は見かけによらないものである。
しかし、だ。
「そういう事情なら尚のこと、『地下神殿』へ一度連れ帰り、身の振り方を相談するべきじゃなっかたのか? 謁見が重要なのはお主も知っていよう」
そう、謁見である。
この謁見とは、生まれたての魔族に吾輩の圧倒的な魔力を見せつけることによって、絶対服従の忠誠心を芽生えさせる儀式でもあるのだ。
……カロザのようなイレギュラーも稀に存在するが。
カロザは踏み潰した虫でも見るかの目つきで、吾輩を見下ろしながら。
「まったくこの駄犬は過ぎたことをネチネチと……。この後に及んでまだそんな虚勢を張るのですか。だから貴方は人間なんぞに負けるんですよ。あ、いや失敬。負けてないですね、逃げ出したんですもんね」
「か、カロザぁぁぁあああ! ソコには触れないでぇぇぇええ! あんまし言わないでぇぇええええ!」
そこに真顔のディアがきて。
「……オイ、このクソ犬がぁぁ! カロザ様の
相当の魔力が込められた、幼い右腕を振り上げていた。
「ディア! やめなさい! こんな
「フ……ハァン。カロザ様の仰せのままにぃぃぃぃいいい! そしてもっとご褒美をくださいぃぃぃ! もっと強くぅぅぅぅうううっ!」
……なんだコレ。
どーすりゃいいんだよぉぉおおおおおお!?
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