第24話 何かを伝えるとき相手の気持を考えろなんて無理

 ———なに言ってんだ、コイツカロザは。

 それが率直な吾輩の所感である。


 黄金なんぞ道端の石ころみたく、そこら辺にころころ転がっているものじゃない。

 まさかカロザのヤツ、またランサ商会の金に手をつける気じゃ……。


 吾輩のジト目をに気づいたカロザは、ため息と同時に肩を落とした。


「はぁ……なぜそんな目で私を見ているのでしょうかね、この犬コロは。……もしかして発情期かもしれませんね」

「バウバウウゥゥゥンンッ!(誰が発情期だぁあああ!)」

「ごめんねカロザさん。ゴリラが発情しちゃったみたいで」


 ———おいラウラ! お前もなに言ってんだぁ! 大体発情期の意味わかってんのか?


「そんな、ラウラ様が謝ることではございません。ではこの後でございますが、キレーヌ様のお屋敷まで御足労いただけますでしょうか? その道中で、詳しい話をさせていただきます」


 そう言ってカロザは店の扉を開けて、ラウラを外へと促した。

 

 吾輩が店を出ようとしたときに、勢いよく扉を閉めたカロザへの恨みは、決して忘れないだろう。


 ⚫️⚪️⚫️⚪️⚫️⚪️⚫️⚪️⚫️⚪️⚫️⚪️⚫️⚪️⚫️⚪️⚫️⚪️


「———という訳でございます。お分かりいただけましたでしょうか?」

「……え、えっと……カルドラの西に山があって……キレーヌさんのお屋敷で働くメイドさんが、そこで黄金を見たかもしれない……で、あってる?」

「そう! その通りでございます!」


 カロザが想像以上に喜んだ。


 それもそのはずである。

 キレーヌ邸までの道すがら、カロザはことの成り行きを二度説明した。

 屋敷についてから三度目の説明で、ようやく話の大枠を理解したのである。


 ……カロザもまだわかってないな。ラウラに山の名前とか町からの距離とか、そんなことまで丁寧に話すから、頭がパルプっちゃうんだよ。

 

 ラウラに説明するには、「町の側」「山ある」「そこで黄金見た」これくらいで充分なのだ。わかりやすく例えると、未確認生物と遭遇したときに、意思疎通をはかろうとするシーンを想像すると良いだろう。

 小難しい説明は極力省くくらいが、ちょうど良いのである。


「では早速、そのメイドを呼んで参りますが、ラウラ様は慣れない接客で大層お疲れでしょう。先に屋敷にお戻りになり湯浴みでもして、くつろいでくださいませ」

「……え、でも、私もその話を聞いたほうが……」

「い、いえいえ。ラウラ様がいないほうが……ゴホゲフンッ! そ、そのメイドが極度の人見知りでございまして……詳しい話は私が代わりに聞いておきます」

「……そっか、人見知りかぁ。それじゃ、仕方ないよね。じゃあカロザさん、お願いします!」

「ははっ! このカロザにお任せを!」


 カロザはそう言って手のひらを叩く。すぐさま執事が駆け寄ってきた。

 こそこそとその執事になにかを話すカロザ。

 執事は頷くと、ラウラの手をとり屋敷のほうへと連れていく。


 そして残された吾輩とカロザは。


「「おいっっ!」」


 同時に声を出した。


「カロザぁ! お主、なにを企んでおるのだ!」

「企む? これは心外な。一体なんのことでしょう? ……それよりもラウラ様の情報ダメなとこは事前に教えて頂かないと困るんですけどぉぉ!」


 カロザの本音がポロリと出た。

 そこは大いに同情するところではあるが、カロザの吾輩への嫌がらせの数々を思い返せば、謝る気なんておこりようがない。

 むしろザマミロ! である。


 吾輩とカロザはしばらく睨み合う。

 そんな一触即発な雰囲気が漂う中、人が近づく気配がした。


「……お呼びですかぁ、カロザ様」


 途中まで走ってきたのか、青髪のショートボブがやや乱れていた。気だるそうに話しながら前髪を整え出すメイド服を着たその少女は、ラウラと同じくらいの年頃に見えた。

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