第23話 何でもやりすぎは体に良くないことだらけ

「……はぁ、今日はとっても忙しかったぁ。まさかお店に出していた黄金細工アクセサリーが全部売れちゃうなんて。カロザさんのおかげだね!」

「いえいえめっそうもない。これもラウラ様のご尽力の賜物でございます。私めの存在など、まったくの皆無。ラウラ様あってこその大繁盛でございます」


 カロザはゆっくりと腰を折り、執事お決まりのポーズでラウラを持ち上げた。


「……ただ、この忙しない時間に、何もしなかったもいましたが……」


 炎も凍りついてしまうような目で、カロザが吾輩に視線を移す。

 

 どうやら、今度は吾輩を落とす気らしい。

 持ち上げたり落としたりと、慌ただしいヤツだ。


「ゴリラは普通の犬だもん。仕方ないよカロザさん」


 ラウラがすかさずフォローに入る。

 だが、それがカロザの気に触ったのか。


「……ほぅ、ですか。では今日から普通の犬にふさわしく、屋敷の外で寝てもらいます。もちろん食事は豪華な残飯を用意しましょう」

「あ、あぅ……カロザさん……」


 さすがのラウラもタジタジである。

 カロザの作り笑いがすごく怖い! そしてラウラを遠回しに困らせるなぁぁあ!


「あ、でも。そのことでお話があるのカロザさん」

「なんでございましょう。どのようなことでもこの私めに下知くださいませ」

「今日からね、ゴリラと宿屋に泊まるから、安くて手頃な宿屋を教えてほしいの」


 その言葉を聞いたカロザはフラフラと後ずさり、大げさなポージングを決めた後、ショックで体が固まってしまった。

 かろうじて立ち直り、動き出したのは10秒後である。


「な、なな、ななな、なぜでございますかラウラ様ぁぁぁ!? 私めのもてなしに何か不備や不愉快なことでもおありでしたかぁぁ!?」


 今にでも泣き出しそうなカロザに向かって、ラウラは大きく首を振った。


「ううん。そうじゃないの。キレーヌさんのお屋敷はとても綺麗で輝いていて、ご飯もおいしかったよ。カロザさんも優しかったし。……でもね。このお店で黄金細工アクセサリーが売れたら、誰の助けも借りないで、ゴリラと一緒に暮らそうって最初から思っていたの。短い間だけど、ベン叔父さんも、きっとそれの望んでいると思うから」


 その言葉を聞いた吾輩の涙腺は、緩みまくりである。

 

 ラウラ……こんなに立派になって……。

 そしてありがとう! 吾輩をカロザから遠ざけてくれて、ホントにありがとぉぉぉぉぉおおおおおおお!


 別の意味でも泣いている吾輩に、ラウラはそっと近づいて。


「そんなに不安にならないでも大丈夫だよ、ゴリラ。一ヶ月くらい二人で一緒に暮らそうね」


 ほんわかした空気が流れる中、カロザがそれをぶち壊した。


「でもラウラ様。今日お店に展示していた15個の黄金細工アクセサリーはすべて売れてしまいました。残りの在庫はあと5個でございましょう? 町のウワサは早いものです。この店の黄金細工アクセサリーの出来の素晴らしさは、きっと瞬く間に町全体へと広がります。私めなどいなくとも、二、三日で残りも売れてしまうだろうことは想像に難くありません」

「え、ええ、えええええええええええええっ!」


 吾輩もラウラに激しく同感である。

 もしも今、声が出せるものなら一緒になって叫びたい。


 まさかの展開キタよコレ。カルドラの数日滞在が確定っぽい。あっというまに出稼ぎ終了である。


「そ、そんなぁ……もっとこの町でいろいろ買い物したりお出かけしたり、楽しみたかったのにぃ……!」


 ほんとソレな。

 吾輩もこの町なら、女神レイラの転生魔法を破るヒントがあると思っていた。

 例えば魔道具屋。この規模の町なら一軒くらいはあるだろう。

 そこには珍しい魔導書や、普段手にすることが難しい触媒を売ってることが往々にある。

 吾輩はそれを手に入れこっそり盗みたかったのにぃぃぃいいいい!


 さて、一人と一匹ががっくし項垂れていると、良かれと思って言葉巧みにマダムたちに黄金細工アクセサリーを売りまくったカロザも困った顔をした。


 もちろんカロザに悪気はない。

 ただ悪気がない分、燃え尽きて灰になったようなラウラを見れば、余計に心が痛むもので。

 カロザは何かを思い出そうと、しばらく必死に考えて。

 そして手をポンと打った。


「もしも黄金が手に入れば、それをラウラ様の叔父様へ送り届けて黄金細工アクセサリーを再び作ってもらうことは可能でしょうか?」

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