第14話 揺れる密室でハプニングはお約束

「ねぇゴリラ。私、カルドラに行くの初めてなの。人がいっぱいいるのかな? どんなところなんだろーね!」

「それを吾輩に聞くか? 知ってるわけないだろうが」


 月に二度、城下町カルドラ行きの馬車が、ザムール村に立ち寄る。

 吾輩たちは今、その馬車の荷台に乗ってカルドラへと向かっていた。

 幸いなことに同乗者は誰もいなく、かわりに荷台には荷物がたくさん積まれている。

 

 整備もそこそこの歩道は、馬車を大きく揺らし、ガラガラと車輪が奏でる音も大きい。

 なので吾輩たちは、御者の耳を気にすることなく、こうして会話をしているのだが。


「一ヶ月か……。一ヶ月で全部売れるかな?」


 ベンは一ヶ月で黄金細工をすべて売ってこいと、吾輩たちを送り出した。

 

「さあ、どうだろうな。ベンが作った黄金細工は悪くない。財力があって見る目をもつ者がいれば、売れるだろーけどな。……だけどラウラ、一体どこで売る気なんだ?」


 まさか城下町で露店を出す訳にもいかないだろうし。


「えっとね。城下町に着いたら、まずはランサ商会のキレーヌさんって人を頼れって。何でも叔父さんの知り合いらしいよ」


 ラウラが思い出しながらそう答える。

 

 口は悪いが腕は一級品のベンのことだ。近隣の村だけではなく、城下町にまで商いの知り合いがいても不思議ではない。

 

「それにね、ベン叔父さんがせっかく城下町に一ヶ月もいるんだからって、一万ゴードもお小遣いをくれたんだよ!」


 ほほぅ。あのベンが小遣いとは。

 吾輩は、素直に驚いた。


「やだゴリラ、そんなに驚いて。……ベン叔父さんは口が悪いけど、本当は優しい人なんだよ」


 嘘つけ。

 奮発するだのと言ってたくせに、魚の尻尾を付け加えただけの夕飯を出す男の、どこが優しい人なんだと言いたい。


「私の両親が事故で死んじゃったときだって、誰が私を引き取るか、親戚中で揉めたんだけど、ベン叔父さんが『俺が面倒をみる!』って言ってくれてね……口は悪いけど、本当は優しい人なんだよ」

「意外だな。ベンにそんな男気があるなんて。ラウラのパンツが黒なくらい意外だった」

「———ゴリラのえっちぃぃぃぃぃいい!」


 渾身の力を振り絞り、ライラがグーで殴ってきた。


「ぐほぉぉ!?……し、仕方ないだろ! こんな揺れる馬車の中で、そんな短いスカート履いてるお前が悪いっっ!」


 よほどパンツを見られたことが恥ずかしいのか、その後もラウラはポカポカ殴りつけてくる。

 

「い、イタタタタ! ライラ落ち着け! 吾輩が悪かった! と、ところでナントカ商会のナントカさんってのは、何者なんだ? もっと情報はないのか!?」


 少し落ち着きを取り戻したラウラが、またもうーんと考えながら。


「ランサ商会のキレーヌさんは、城下町で家具の製造販売をしている商人なんだって。カルドラでは名前の知れた人だから、誰かに聞けば分かるだろう、だってさ」


 ベンのヤツめっ!

 接触方法がぐだぐだではないか!

 吾輩の中で上がったお前の評価を返して欲しい。


「……前途多難だな。それに吾輩たちはカルドラに一ヶ月も滞在するのだろう。どこに寝泊まりするんだ?」

「それもキレーヌさんに相談しろって、叔父さんが」


 ほぼキレーヌさんに丸投げじゃねーか! 

 だんだんと心配になってきた。


「ちょっと待て。キレーヌさんは一旦置いておこう。話を整理させてくれ」

「うん」

「この馬車は、城下町カルドラに向かってる。それは間違いないな?」

「うん!」

「キレーヌさんを頼る以外に、他にベンに言われたことは?」

「一ヶ月で黄金細工二十個を全部売ること。価格は一つ三万ゴード。売上の三割は必要経費で使っていいって」

「……それだけか?」

「うん!!」


 何考えてるんだあのベンおっさんは!

 あれか? あれがいけないのか? あの銀細工を三つ、一日で売り捌いたことが理由か?

 だとしたら、ラウラを買い被りしすぎだろーが!


「あっ! そういえばもう一つ言ってたことがあった!」

「何だラウラ! 一体ベンはなんて……!」



「しっかり見聞を広めてこいって言ってた」


 ラウラはあどけない笑顔を浮かべながら、そうほざいた。

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