第7話 楽に稼げる仕事なんて、大体が詐欺だから

 吾輩はラウラに連れられて、側道を歩いていた。

 向かう先はメルドという隣村。歩いて一時間ほどらしい。


「それにしても、今日はどうしたのゴリラ。私が出かける前にあんなに吠えて……」


 ラウラは手綱を引きながら、苦笑いを浮かべた顔を吾輩に向けてくる。

 吾輩はプイッとそっぽを向いた。


 いや、誰のせいでこんなことになってると思うのだ?

 本人に自覚がないだけに、余計にタチが悪い。


 しかしこのまま見過ごしていれば、吾輩は野良犬になってしまう。

 自分の生活を守るためだ。そう自分に再度言い聞かせるしかない。


 ……お前の販売方法がアレだから、ついてきたのだぞ。

 好きで一緒にいるわけじゃないからな! 仕方なくだからな!


 心の中で毒付きながら歩いていると、道の向こうに村が見えてきた。

 

 村の規模はザムールとそう対して変わらない。

 そして村の住人や雰囲気も似たようなものであった。


 食うに困るほど窮してはいないが、贅沢するには少し余裕がないように思う。

 それが二つの村に対する、吾輩の見解だ。

 ならば銀細工など購入できるのは、村の中でも一部の人間だけだろう。


「さ、いくよゴリラ! 今日は叔父さんの作った銀細工アクセサリーを全部売るんだからっ!」


 ラウラそう息巻くと、吾輩の手綱を引いて元気よく村に入っていく。

 おそらく村のメインストリートであろう道には、生活に必要な食料店や雑貨屋が軒を連ね、露店がちらほら見て取れる。

 ラウラはその通りの端っこにある小さな一角で足を止めると、何やらせっせと働き出す。

 小さな木の板に脚を取り付け、暖簾を垂らすとちっぽけな露店が出来上がった。


 ……ほほぅ。ここでラウラはいつも商売をしてるのか。


 ラウラの手際の良さに、吾輩が少しばかり感心していると、木の板の上の大切そうに銀細工アクセサリーを並べ出し。


『ゲスラ』

『ダニ太郎』

『クズスチャン』


 と、大胆に書き殴った紙を広げ……。


「バウゥゥーウ!(やめーい!)」


 吾輩は慌ててその紙を口に入れた。


「な、何するのゴリラ! それはこの子たちの商品名なのよ!」

「ババウバウゥゥウウウウゥ!?(だからそれがダメだと何で気づかない!?)」


 ラウラは口から紙を取り出そうと必死に引っ張るが、吾輩も負けずに噛み締める。

 しばらく引っ張り合いが続いた後。

 

 ビリビリビリビリ。


 アホな商品名が書かれた紙は、音を立てて真っ二つになった。


 ラウラは悲しそうな顔をしているが、逆に吾輩はしてやったりだ。

 

「……仕方ない子ね、ゴリラは。そんなにはしゃいじゃって、よっぽど遠くへのお散歩が楽しかったんだね」


 どうやらラウラは吾輩が、じゃれて遊んだのだと勘違いしたらしい。

 ならばそれでもよい。吾輩の目的は達成されたのだから。


 さて、これでまずは一安心だ。

 ラウラの持ってきた銀細工アクセサリー。まあ、人間が作ったものにしてはなかなかの代物である。

 大魔王として君臨していた吾輩の地下神殿には、人間どもから接収した装飾品がそこら辺にゴロゴロ転がっていた。

 なので吾輩、目利きにはちょっとした自信がある。

 一つ2000ゴードという値段が高いか安いかまでは吾輩もわからないが、おそらく妥当な値段なのであろう。

 このまま大人しく品を並べていれば、一つ二つは売れるかもしれないな。


 そんなことを考えていると、急に眠気が襲ってきた。

 今日は天気もよくて、降り注ぐ陽射しが気持ちいい。


 ……吾輩、久しぶりにたくさん歩いて疲れたし。少し昼寝でもしようか。


 吾輩は露店の横で、うつ伏せになり目を閉じた。

 うつらうつらと眠りに落ちる、至福の時。

 そう、そんな時に限ってである。


「あら、素敵な銀細工アクセサリーね。誰が作ったのかしら?」


 明らかに裕福そうな中年女性が、ラウラに向かって声をかけた。


「あ、いらっしゃいませ! 隣村に住んでいる私の叔父の作品です!」

「……まぁ。こんな素晴らしい作品を作れる人が、隣村にいたなんて、知らなかったわ。ところでこの銀細工アクセサリーに、めいはあるのかしら?」

「はい! 右から『ゲスラ』に『ダニ太」

「バウバウバウウウウゥゥン!(だから、そのアホがつけたような名前を言うなー!)」

 


 

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