第6話 原因は意外なとこからやってくる
小屋の隙間から差し込む朝日に照らされ目が覚めた。
吾輩は眠さを堪えてひょっこりと、小屋から顔を出してみる。
いつもなら、決まってラウラが「行ってくるね!」と吾輩の頭を撫でながら、元気に村へと駆け出していく時間。
だが、いくら待てどもライラが家から出てくる気配がない。
……おっと、くれぐれも勘違いしないで欲しい。
吾輩、待ってるわけじゃないんだから。
だがすこーしだけだが気になるのが嘘かと問われれば、否定せざるを得ないだろう。
(うーむラウラめ。この吾輩をちょっぴりだけ心配させおって)
イライラが募り始めたそんなとき。
母屋から何かが割れる音と怒号が聞こえてきた。
「———ラウラッ! ここ最近全然売り上げがねぇじゃねーか!」
「ごめんなさい、叔父さん!」
ラウラの声は、確かに怯えていた。
そして吾輩は初めて知った。
(ラウラはこの家の子じゃないのか……?)
「ウチで作った銀細工はそりゃあ一級品だ! 俺がこの村でちゃんと売ってるのに、隣村担当のお前は何で売れねえんだ! しかも十や二十を売れって言ってるわけじゃねえ。たったの三つだぞっ! お前、売るのをサボってどこかで昼寝でもしているんじゃねぇのか!」
「そんなことないよ! ちゃんと隣村に行って露店で売るのを頑張ってるよ!」
「……兄貴夫婦が事故で死んでお前を引き取ったが、まあ仕事はできねえわ、汚ねえ犬を拾ってくるわ、どうしようもねぇな」
おい、汚い犬って吾輩のことか? 貴様、その喉笛を噛みちぎってやろうかっ!
「……お前がどうしてもと言うから、仕方なく飼うのを許してやったが、いい加減に役に立たねぇと、あの犬をこの家から放り出すぞ!」
———な、何ぃ? それは困るぞ!
女神レイラが吾輩にかました転生魔法。日々解読を試みているが、これといって進捗はない。1mmだって進んでない。そんな状況下で、曲がりなりにも食住そろったこの環境から追い出されては、吾輩路頭に迷ってしまうではないか!
「お願い! ゴリラを捨てるのだけはは……それだけは勘弁して!」
「大体だ! 犬にゴリラなんて名前をつけること自体、おかしいだろーが!」
吾輩は、コクコク頷いた。
その点は大いに納得である。
「ゴリラは……ゴリラは、私の唯一の友達なのっ!」
ラウラの悲痛な叫びが聞こえてきた。
声が僅かに震えている。もしかしたら泣いているのかもしれない。
……ふ、ふんっ! そんな友達なんて言われても、嬉しくないし。
そもそも吾輩、人間キライだし。
「今日はちゃんと銀細工を売ってくるから! この『ゲスラ』と『ダニ太郎』と『クズスチャン』をっ!」
「それだ!」
「バゥウ!(それだ!)」
偶然にも、ラウラの叔父とハモってしまった。
吾輩にもはっきりわかった。
ラウラのネーミングセンスは、途方もないくらい最悪なのだ。
「お、お前っ! 俺の作った銀細工に、そんな名前をつけてたのか!」
「うん。叔父さんが一生懸命作った銀細工だから。名前をつけて大切に売ろうと思って」
「バカかお前はぁ! そんな名前のついた銀細工、誰が買うってんだぁぁぁぁぁ!」
言わずもがな、吾輩も同感である。
ラウラに購買意欲って言葉を叩き込んでやりたい。
間違ってもたかが名前などと軽く考えてはいけない。
吾輩も大魔王時代、新たな魔物を生み出したときなど「聞いただけで人間どもがビビる名前をつけてやろう」と、知恵熱が出るくらい考えたものだ。
名前とは、それほど大事なものなのである!
しかしだ。このままラウラの好きにさせていては、吾輩、家なし犬になってしまう。
決してラウラのためじゃない。
吾輩はそう自分にいい聞かせて、ある決心を固めたのであった。
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