第4話 世の中は思い通りにならないことが多い

「おい、こんなところに、なんで&%$##」

「ここは隣街からも離れた⚪︎◻︎@¥……!」


 ううむ……。こ、ここは……どこだ……。


「お願い! 馬車に乗せて&%#……!」


 よく聞き取れない。体もうまく動かせない。

 あの後、吾輩は一体どうなってしまったのだ。思い出そうにも記憶が恐ろしく曖昧で、うまく思考がまとまらない。


「もう少しだよ。頑張#△%!」


 背中からガタゴトと振動が伝わってくる。

 吾輩はどうやら何かに乗せられ、運ばれているようだ。

 瞼を持ち上げると、一瞬だけだがぼやけた視界が映し出された。


 ……誰だ、この者たちは。

 あ、頭が割れるように痛い……!


「ねぇ! しっ&%#”=$て!!」


 意識がまた遠のいてく。

 だけど吾輩の耳元で聞こえてくる鈴の音のような旋律は、なぜだか妙に心地よかった。

 その声に耳を預けながら、吾輩はあっさりと再び意識を手放した。


 そして、目を覚ますと、


「……ああ、よかった! 気がついて!」


 少女の顔が覗き込んでいた。


 ……こ、これは……まさか……人間の子供!


 にっくき人間の、しかもその幼体が目の前にいる。吾輩は怒りで頭に血が巡った。

 咄嗟に襲い掛かろうと試みたが、やっぱりまだ吾輩は、うまく体を動かせなかった。

 

「ねぇ君。なんであんな街外れの側道にいたの?」

(ふん。吾輩がどこにいようが、貴様らには関係ない)

「やだ、そんなに唸らないで。もう大丈夫、怖くないから」


 目の前のこの幼女は、吾輩を見て何も思わないのか?

 仮にも吾輩は大魔王、元だけど大魔王であるのだぞ!?


 ここは威嚇の一つでもしてやろう。

 心身の弱い者であれば、命を落とす恐怖の恫喝だ。吾輩の『邪悪の覇気』とでも言うべきものである。


 見てろ、人間の小娘めがっ!

 

 

 

「———バウッ!」


 ……え? バウって……。


「私の名前はラウラよ。よろしくね、ワンちゃん!」


 吾輩は目の前の幼女に、軽々と持ち上げられた。そして地面の水溜りに映る姿を見て、愕然とした。



 ———吾輩、犬じゃーん!

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