第2話 ラストバトルはまだ始まらない
「神殿の入り口に辿り着いては森の入り口まで戻ることを繰り返し、十分レベルアップをしてきたつもりだ」
「ほ、ほう。そ、それは殊勝な心掛けであるな。お主らは今までの勇者もどきとは、一味違うということか」
「やはり冥土の土産を残すとしよう。最後の砦となる門番は、もっと強い魔物に守らせたほうがいい。一撃で倒される魔物など、門番の意味をなさないぞ」
……え? ベリアルを、い、一撃!?
額に冷たさを覚えた吾輩は、恐る恐る手で触れてみる。
……なんと! この吾輩が冷や汗などと!
これはきっと何かの間違いだ。うん。
もしくはハッタリだろう。
大体『迷いの森』を83回も往復したことが、眉唾ものだ。
だって森を抜けたら、いかにもって地下神殿が待ち構えているんだよ!
いかにも大魔王が住んでいそーな物々しい入り口が、目の前にあるんだよ!
それなのに83回もUターンなんて、どう考えたっておかしいでしょ!
初攻略で手持ちの回復薬やMPがなくなって、一度戻るってのならまだわかるよ。それぐらいはどんな勇者だってやってるからね。普通のことだからね。でも83回なんて、やっぱないわー。百歩譲ってもないわー。
「く、クハハハハハ! この吾輩をたぶらかそうとしてもその手は食わんぞっ!」
「別に嘘言ってないし。本当のことを話しただけだし」
「吾輩には真偽を見抜く第三の瞳があるのだ。お主らの真の力を見抜いて見せようぞ!」
……よかった、今思い出して。
吾輩の額に埋められている第三の瞳。もう何百年も使っていないから、そんな設定があることすら、すっかり忘れていた。マジ思い出してよかった。
「さあ! 吾輩の前に、貴様らのすべてをさらけ出すがいい!」
額の瞳がゆっくりと開いていく。
第三の瞳で勇者たちの潜在能力が、吾輩の目の前に浮かび上がった。
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勇者:ロザリア・アデル
VL:999
HP:383790
VIT:89560
ATK:215000
STR:18560
MP:83053
INT:27405
DEX:15878
AGI:40505
LUK:251890
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……はい?
れ、レベル999ぅぅぅぅぅ!?
吾輩のレベルですら236だよ!?
それになんだよ攻撃力21万って! 一撃で死ぬってーの!
他のパーティの三人も、全員レベル800越え!?
一人だって敵わねーっての! こんなんじゃ肉片一つ、塵一つ残らねーっての!
そもそも人間って種族はこんなにレベルの上限高かったっけ!?
古書で昔読んだことあるけど、レベル99でカンストじゃなかったっけ?
……マズイ。非常にマズイ。
どうする吾輩。どうすればいい?
よし、まずは落ち着け深呼吸だ。まだあ奴らにはこのレベルの差は気付かれていない。
今必要なのは威厳だ。そう、大魔王としての
「お、お前たち……そ、相当に修羅場を潜ってきておるな。相手にとって不足はない。……と、ところでお前たちは、少し、ほんのすこーしだけ、人間の枠を超えているようだが、それは一体どういう訳なのだ?」
「戦いの女神レイラの祝福を受けて、俺たちは人間の限界を突破したのだ」
———あのクソ女神ぃぃぃぃぃぃいい!
言ったよ! 確かに言ったさ、つい十数年前!
吾輩も暇だったからね。遊び相手が欲しかったからね。
だからぶらっと遊びにきた女神レイラと茶を飲みながらぼそっと言ったよ。遊び相手が欲しいってね。だけど、これはやりすぎだろ! 遊び相手どころの騒ぎじゃないよ! 完全にこっちが
ようやく吾輩が今、置かれた状況に理解が追いついた。
———ムリだ、コレ。よし、逃げよう。
だが、逃げる姿勢に気付かれてはいけない。吾輩が彼奴らよりも格下だと悟られてしまっては、一斉に襲いかかられ瞬殺。そう、瞬殺だ。この先のやり取りに、吾輩の命がかかっている。集中するんだ。迂闊なことを言ってはならない。
そう、威厳だ。
大事なことはそこに尽きる。
間違っても大魔王としての威厳を崩してはならない。幸いなことに、まだ彼奴らは吾輩のことを警戒している。大魔王がとてつもない強さを持っているんだと思い込んで警戒しているのだ。
その勘違いをうまくついて、この場をやり過ごそう。
吾輩は勇気を出して、一歩前に出る。
「その覚悟、その努力。人間にしておくのは惜しい逸材だ。……どうだ。吾輩の配下にならないか? 貴様らなら、喜んで幹部として迎え入れようぞ」
「断る」
ですよねー。
だがこれは織り込み済み。いわば布石だ。ここからが正念場。頑張れ吾輩!
「……ククク。命が助かる最後のチャンスをみすみす棒に振りおって。よかろう。吾輩自ら相手をしてやる。
「望むところ。さあいくぞ!」
「おっと……だがその前に、吾輩の最強の武器である『デスロッド』が見当たらぬ。……そうそう、吾輩の寝室に置いたままであった。何せこの部屋に辿り着いた人間は、数百年ぶりであるからな。……ああ、あの杖がなければ、吾輩は全力を出せぬかも知れぬ。だが全力を出すまでもなく、お主ら如き小物など、一瞬で消し炭に変えられるがな。ククク」
「……早く取ってこい。全力で向かってくる
———よし! かかった!
「そこまで言うのなら、吾輩の全力を持ってお主らを葬ってくれよう。……あとで後悔しても知らぬがな。ククク、クーハッハッハッハ!」
吾輩の目は、ちょっぴり涙で滲んでいたが、勇者どもは、そんなことには気づかなかった。
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